大海原の宝を探して
もょもこ
探検!発掘!売却!
朝日が昇る。カモメの鳴き声で今日も目が覚める。
寝ぼけまなこでお店の入口の鍵を外してから、在庫などを確かめる。
「えーっと。今週の予定はー?」
店の壁にかかっている黒板にどんな依頼の品が要求されているのか確認する。
ミスリルセイバー、105ミリ徹甲弾、スプラッターシールド……
「どれも難しいのばかりだなぁー。大規模な戦があった場所じゃないと拾えないものばかりじゃんかー!」
少しだけ頬を膨らませて黒板の文字と手元の地図を何度も見る。
僕のお店からは少し離れた場所になら落ちているはず。
地図におおよその場所を書き込み、僕は頭をポリポリと掻く。明日はお店を開けられないね。
そう思いつつ、レジの椅子に腰かける。お客さんが来てもここに座ってのんびりするのが僕のやり方だからね。
ギギィーと店の扉が軋み音を立てながら開かれる。
「いらっしゃーい!」
扉が開くのを確認すれば元気よく挨拶をする。後は見てるだけ。
客「ここが噂の【レッデンバハス】か。今は何が置いてあるんだ?」
「今日は弾薬とモーターと……パルス兵器が置いてあるよ」
客「弾薬を見せてもらおう」
「あいよー。種類はどれだい?」
客「76ミリHEAT弾だな」
「……それは今は置いてないね」
それを聞くとお客さんは悔しそうに帰っていった。
そう、僕のお店は【今日置いてあるもの】が商品であり【昨日置いてあるもの】は気まぐれに売らない店なのだ。そのため、毎日毎日来る人もいれば怒鳴って帰る客もいる。ちなみにさっき帰っていったお客さんは初めて来る人だった。
「んー……HEAT弾は確かにあるだけど……122ミリ専用だしなぁ……」
そう呟いていると、また次のお客さんが入ってくる。
客「プロラシオン。頼んでいた品物は用意してあるか?」
「まずはどの品物を頼んだのか言って欲しいなー。あと頼んだって証明するものも見ーせて」
僕の店はお客さんが直々に【これが欲しい】と言いに来る時がある。その時は【予約】ということで取り扱っている。
客「これだな。」
「どれどれー?」
お客さんが僕に見せたのは【ハートの形をした水色の石】だった。
これを持っているお客さんの注文した品は【翡翠の首飾り】のはず。
「うー……見せられてもまだダメ。何注文したか覚えてる?」
客「……覚えてない」
嘘だ。この注文は昨日受注したばかりなのに客が忘れるわけがない。
「……お客さん。受注したものはコレでしょ?忘れないでよねー」
客「すまないな。どうも最近忘れっぽくて……」
僕が取り出したのは【翡翠の首飾り】ではなく【122ミリHEAT弾】
どうせ使う人はいないし、このまま在庫で残しておくのも勿体ない。つまりコイツに押し付けちゃうつもりだ。
客「おお!それだそれだ!ありがとうな」
「そうー?じゃあ持ってって。開けたばかりだけど、今日はもう閉店ー!」
とても重たそうにしながら嘘を言ったお客さんを追い返す。
そして【閉店】と書かれた看板を店の扉の前においてから深呼吸をする。
潮の香りが鼻を刺激して大海原の優しさを願いストレッチを軽く行う。
プロラシオン「本業開始!!」
僕は目の前に広がる大海原に飛び込み、魔法で見れる地図を広げる。
今日行くべきところには真っ赤な×印が点滅しているため、進行方向に迷うことはない。
プロラシオン「今日はどのルートからいこうかなー」
海面に背を向けて泳ぎ続ける。たまに同族の人魚とすれ違い世間話をする。
プロラシオン「今日の潮の機嫌はどんな感じ?」
「そうねぇ。昨日より荒れてるわ。気を付けるのよ。お嬢ちゃん♪」
プロラシオン「はーい」
「人魚と一括りにするのは人間が理解しやすいために必要なことだった」って皇女様が言っていた。
僕達人魚は海や河が生息地。だから人間は海を移動するために僕達と仲良くしなければならない。
つまり人魚に手を出すと人間の船を沈めるぞって軽い脅迫みたいなことをずっと言っているのだ。
プロラシオン「最初の探索場所に着いた着いたー♪、探せさっがせお宝を~♪」
歌いながら海底に眠っている巨大な建造物の中を泳いでいく。
僕達が生まれるずっと前は地上も海も、全部人間のものだった。
でもある日、その平和が崩れた。それから世界は一度滅んだ。
そんな文献を読んだことがある。読書なんてあまりしないけど。紙は水に弱いのだ。
プロラシオン「これいいなー。持って帰ろう。」
壁から剥き出しの鉄骨を引き抜いて観察する。
劣化がかなり進んでいるがまだ使えると思う。こういう【誰も使えない物】を使えるようにしちゃうのも僕の趣味の一つ。
プロラシオン「それからー♬目的の物はー♪」
海底を掘れば鉱石がすぐ見つかる。この鉱石は【ミスリルセイバー】を作るために使うから絶対持って帰る。
そうして次々と目的の物を見つけては持って帰るため収納していく。
大型の人魚になれば何万トン単位で収納できるけど、僕はあくまで普通の人魚。せいぜい500キログラムが限界。
更に言うと、海の魔物に対抗するための武装のため500キログラムの多半が使用されてしまっている。
プロラシオン「もう収納スペースがいっぱいだね。帰ろかーえろー♬」
歌いながら帰路に就く。
海底が300m付近のこの地域はまだまだ安全なのだ。
ここからずっと外洋に向かって行くと僕なんか丸呑みに出来てしまうくらい巨大な魔物がうじゃうじゃ生息している。そんな魔物とはもう出会いたくない。
プロラシオン「とぉーちゃーーっく!……ん?」
ザパーンッ!と水飛沫をまき散らしながら桟橋に飛び乗る。
そこからドベッドベッと音を立てながら跳ねて移動する。
視界がクリアになれば店の前でウロウロしている人間がいることが確認できた。
プロラシオン「どちらさまー?今日はもう店じまいだーよ!」
客「プロラシオンさん!!プロラシオンさんから頂いたハートの石が!!……信じられないと思いますが……くっ……ぅうぅー……」
そう言うとその人間はボロボロ涙を流し膝を突いて僕に謝ってきた。
僕はそのお客さんを優しく撫でながら「大丈夫だよ」と言い、注文されてた【翡翠の首飾り】を店の保管庫から取り出してお客さんに手渡す。
客「プロラシオンさんっ!私が注文したと信じてくださるんですか!?」
プロラシオン「だって匂いで分かるもん。お客さんにはメスと子供の香りがするからね。家族を大事にしているのもそうだけど……僕は優しい人間の匂いは区別出来るんだ」
客「そ……そうなんですか……ありがとうございます。」
その後、何度もペコペコお辞儀をするお客さんに手を振って見送る。
僕の仕事は【サルベージ】
海の宝物を陸のみんなに売りさばく小悪党でありながら、たまに人助けをする人魚なのだ。
プロラシオン「さぁ!ミスリルセイバーを製作するぞー!!」
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