第4話 異世界の人


 背後から誰かに声をかけられたので、思い切って振り返ってみる。ここまでの親切設定や安全そうな村の中にいる事を考えれば、すぐに危険という事もないだろう。

 っていうか、そうでないと何も力を得ていない俺はただの普通日本の高校生でしかないから! 別に頭が悪いとか運動神経が悪いとかはないけど、飛び抜けて秀でてる訳じゃないから……あ、この人、綺麗だ。


「……あ、あの?」


 透き通るような白い肌に、長いサラサラな金髪、少しつり目な碧い瞳に……ふむ、ある部分は少しボリュームが足りない気はするけど、これはこれでよし!

 あ、耳が長いって事は、異世界のお約束のエルフか! 細身の剣を持ってるみたいだし、これぞ異世界って感じだな! 服装は……白を基調としたしっかりとした服装だね。なんとなくどこかの制服みたいな印象がある。


 うわー! あの親切・安心仕様の女神様も絶世の美女だったけど、この人が俺の異世界での初遭遇の人かー! くぅ、分かってんじゃん、お約束! フィーネ様、俺にこんなヒロインをありがとうございます!


「初対面の女性の身体をジロジロと……不躾にも程がある! 本当に神託にあったのはこの者なのですか!?」

「あぁん? てめぇこそ、いきなりなんだ? 野郎同伴とか、お約束の邪魔してんじゃねぇよ!」

「なっ!?」


 隣に控える様に立っていたイケメン野郎はどうでもいいよ。くそっ、立派な剣を腰に下げているし、身奇麗だし、なんか普通に強そうだし……ほんと、邪魔。

 そこはヒロインのみとの出会いでしょうが! 居てもいいのは噛ませ役で俺にぶっ飛ばされる役目だけのチンピラでいい! いかにも同伴者で部下ですって感じのイケメン野郎はいらん!


 でも、確かにこいつの言う通り、さっきの俺はちょっと不躾に美人金髪エルフの事を見過ぎていたのは悪かったとは思う。でも、そこは異世界のお約束としてのキャラクター性として感激した訳で……って、誰に言い訳してんだ、俺。


「……この、無礼者が!」

「うわっ!? こんな事で剣を抜きやがったぞ、このイケメン!?」

「貴様は私も愚弄する気か!」


 あ、やっべ。つい思った事をそのまま言ってしまったけど、怒らせたっぽい。……ふむ、お約束とか言ってる場合じゃなくて、普通に自業自得で命のピンチなのでは?

 いや、ここはチート能力に目覚めるチュートリアル的な展開から……ないな。どちらかというと、美人金髪エルフの人が止めてくれる流れ? うーん、そう考えてみたけど、この今の流れ自体がお約束とは程遠いもんな。


「止めなさい、ライアー」

「ですが!」

「彼は異世界からの『渡り人』です。フィーネ様からの案内があるとはいえ、渡ってきた直後では常識の齟齬があるのは知っているでしょう?」

「……は、はい」

「でしたら、その剣は収めなさい」

「……分かりました」


 ここで「怒られてやんのー!」って煽るのは……うん、流石に無しだな。それは確実に今の流れを悪化させるのは間違いないし、そもそもそれはお約束じゃない。

 とりあえずいけ好かないイケメンが剣を収めて命の危険は回避出来たし、今の会話で気になる所があるからな。そっちの確認をしていこうじゃないか。


「先程はライアーが申し訳ありませんでした」

「あー、それは俺も悪かったとこはあるし大丈夫だ。……ところであなたは?」

「私は『異界管理協会』という組織の所属で異世界から来たばかりの『渡り人』の案内役を務めているセリア・フェリスと申します。そして、こちらが――」

「あ、そっちのイケメンはどうでもいいや」

「貴様、ふざけるな!」


 ふむふむ、この金髪美人エルフはセリア・フェリスさんか。うーん、なんか思いっきり『異界管理協会』とか『渡り人』の案内役とか言ってるけど、この世界ってどうなってんの?

 単語だけを拾って考えたら、どう考えてもこの世界にやってくる人が普通にいるっぽいんですけど……。えー、普通に他にも転生者や転移者がいるってお約束を無視し過ぎ。そこは集団転移だったとか、もしくは昔に転生者や転移者がいたとかそういうのがお約束だろ!


「……彼は研修中なので一通りの事は説明させてください」

「え、イケメンなのに研修中なの?」

「研修をすっ飛ばして、顔だけで実務に移れるか! ふざけているのか、貴様!」

「……ライアー?」

「……失礼致しました」


 ふっはっはっは! このイケメンめ、また怒られてやんの! なるほど、なるほど、今のこの場において、俺の立場はこのイケメンよりも遥かに上という事か!


「さて、九条介さん……いえ、こちらの世界に合わせてカイ・クジョウさんとお呼びさせて頂いてよろしいでしょうか?」

「あ、そういう風になるのか。おう、それで問題ないぞ、セリアさん!」

「はい、それではカイさんとお呼びさせて頂きます」


 そう言いながら、セリアさんが俺の方へと近付いてくる。お、これは挨拶的な感じかな? えっと、さっきあのイケメンに注意してた時に常識の齟齬があるのは承知しているみたいだったから……ここはちょっと日本ではないけど、地球にはあるハグ的な感じで挨拶を――


「あぁ、カイさん。……あまり調子に乗っていると、痛い目に合ってもらいますよ?」

「……あ、はい」


 セリアさんが剣を引き抜いて、俺の首筋へと剣を当ててきた。……うん、思いっきり睨みつけられているし、ちょっと浮かれて調子に乗り過ぎていたね。てか、セリアさん、怖っ!?

 あ、そこのイケメン、笑いを堪えてんじゃねぇよ! てか、何この異世界の人との初対面!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

求めるのは異世界転移のお約束 〜意外と常識的で困っています〜 加部川ツトシ @kabekawa_t

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ