ねっとめぐりSEASONS①

かっこ

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1.



俺の名前は禾火(ひいずか) 紅葉。

彼女の名前も禾火 紅葉。

ただ、漢字が一緒と言うだけで、名前の呼び方は違う。

俺は、もみじ。あいつは、くれは。

ネットで、何年前かに知り合ったのだが、お互いの名前を明かした時に、これは奇跡だ、と思った。

( 運命のようなものを感じたのは、俺だけなのだろうか。)

そう、俺らはこんな長い間付き合って言うのに、まだ一回も会ったことがないのだ。

ここから彼女の街に行くのは、なかなか現実的ではなかった。

だからこうやって、通話とかもしながら、 いつかあえることを夢みてきたわけだ。

そろそろ夏休みが始まる。

旅行はあいにく出来ないが、電話越しに話せる機会は増える。ふと、思ったことをメールに打つ。

『くれー。もしさ、オレが今お前ん家の最寄り駅に行くって言ったら、どうする?』

すると五分後くらいに。

『ごめーん用事があって遅れた。えっ、そしたら絶対に迎えにいくよ!約束ー』

『深夜でも笑?』

それ以降、既読がつかなくなった。嫌われた訳では無いんだろうな。何かがあったのかな。

色々思い巡らしていると、夏休みはもう、いつの間にか終わる頃になっていた。

徐々に、心配になっていく俺。

そして、休み最終日の深夜。

俺は一件のメールと、一本の電話を受け取った。

メールは紅葉からだった。『いつでも待ってるよ』。呑気だな。

そして電話は。

紅葉の、ギリの母からだった。

その内容に、俺は背筋を凍らせた。

紅葉の突然の訃報だった。

クラスメイトにも、周りの大人にも、無理だと止められた。

だがとっくに、俺は決心していた。

「いつでも待ってるよ」

歪んできえかかっていた言葉を、何度も反芻させながら、心の中で願う。お願いだ。頼む。もしかしたら━━━━━━━……

そして俺は今、彼女の街にいる。

この駅は、あいつの家の最寄り駅だ。

新幹線で来たが、それにしても早いな。

現在時刻、午前3時50分。

あたりを見渡す。彼女らしき人はいない。

3時55分。

それはいないよな。俺は馬鹿か。こんな薄い希望に縋りつこうとして。

4時00分。

「……さすがにもう帰ろっかな。ん……?」

後ろから誰かに抱きつかれた。

暖かい長髪が、俺の頬を撫でる。思わず息を止めてしまった。

「……!?」

「だーれだ」

この透き通りすぎた声。

「……くれ……おまえもう…いないんじゃ」

「それはね…」クルッと回って、紅葉は俺と向かい合わせになり、両手をぎゅっと握った。

「もみじくんも一緒」

赤みのかかった橙色の髪に日の出の光が当たってふんわり舞っていた。

深紅の瞳が、優しく俺を見つめる。

あいつの体は、いやよく見ると俺の体も、淡いオレンジ色に薄く包まれていた。

頭の中が、真っ白だった。

だがそれは直ぐに、他の色に変わった。

そうだ。

思い出した。

「 「やっと……『また』会えたね」」

言葉がピッタリ重なった。俺は思いっきり紅葉に抱きついた。体が軽かった。

本当に、あんなくだらない約束を守ってくれるとは思わなかった。

俺たちは、昔一緒にいたんだ。

一本のもみじの木の上で。その時から俺は紅葉の、優しさと可愛らしさに見とれていたんだ。

ネットでの会話はどうしても、感情がしっかり伝わってこない。

だから、すぐに冷めてしまうことも多い。

なのに、何らかの暖かい雰囲気が、冷たいネットの壁があっても消えることなく、二人を繋いでいた。

そう、俺たちは━━━━━━━━━。



「なぁ、鈴木。あの二枚の葉っぱはなんだ」

「ん?……ああ、確かにちょっと早いな。紅葉の時期にしては」

「アップしとこうぜ」

夏の残光を浴びて、窓際に生えた二枚の紅葉は、燃えるように寄り添っていた。






━━━━━━━━『誰にも気づかれないまま、俺たちは“季節外れ”の炎上していた。』




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ねっとめぐりSEASONS① かっこ @mokumetti1012

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