この呪いの〝湿度〟を感じて欲しい。

 潤土(うるんど)という九州の田舎に存在する、架空の漁村と、その地にまつわる神事と呪いの中編ホラー。
 テープの書き起こし、貼り紙、雑誌の記事を挟みながら、さまざまな年代の女性たちの目を通じて描かれる世界はひどく息苦しく、何が起きているか分からないまま不穏さに満ち、ついにははっきり分かることはほとんどないまま終わりを迎える。その分からなさ、終わらなさが、呪いの続きを読者である私たち自身に投げかけるようだ。

 というのも、この作品でもっとも呪いをなすのは〝家族〟という社会呪術そのものだからだ。

 家族とは、生殖という生物機能と、婚姻という契約でもって形成されるが、まずその契約が多くの社会で対等な関係とは言いがたかった。
 それでも、結婚という儀式を経て、社会の承認を得た家族関係は強固であり、ひとたび始めればそのくびきから逃れることは並大抵ではない。
 この物語は、呪いとしての家族、妊娠、出産といったモチーフがくり返し出てくるのだ。

 作者の容赦ない筆致は、善人でも悪人でもない凡庸な人間の弱々しさと、それゆえに引き起こされる悲しさや惨めさを描き出し続ける。その筆で語られる本作の〝家族〟……その特有の〝嫌さ〟については、『2000年 ミキトと黒い柱』をご覧いただけば、よく分かっていただけると思う。

 決して愉快な話ではないが、それだけ上質なホラーということでもある。本作で描かれる人間の弱さ、卑しさには一種の迫力があり、引き込まれる激しさ、切実さが全編に力強く、そして静かにうねりを上げて流れている。
 日々を生きる私たちに決して無関係ではない、〝生誕〟の呪い。この湿度を、感じて欲しい。