主人公はザ・モラトリアムと言っても過言ではないような生き方をしている自称写真家の大卒ニート。彼はカメラを手に毎日藪の中へ写真を撮りに行きますが、それはただの逃避で、本当の所はただ働きたくないだけ。働きたくない理由も、幼少期の対人関係の苦手意識をこじらせたものです。
逃げるようにして通う藪の中は彼にとっての聖域であり、それは幼少の頃より変わりません。彼の人生の時間は止まったままです。
写真とは、瞬間を切り取るものです。撮られた世界は止まってしまいますが、本当に良い写真というものは、「まるで生きているようだ」とか、「今にも動き出しそう」などの言葉で賞賛される所、この物語の中でも、それが対比になっているのかな、などと考えてみたりしました。
長くなりましたが、本編は非常に読みやすく、すぐ読めるので是非ご一読を。
主人公のネガティブな独白が中心になりますが、鬱屈した青春を過ごされた方にとっては、非常にシンパシーを感じる内容だと思います。淡々とした文脈の中に散りばめられた心情の機微を味わって下さい。
とても良い文学的な短編です。