伍話
手紙の真相が分かると恵理先輩は祖母に話したいからと大急ぎで帰った。
伊月は忘れ物があると教室へ戻り、
おれは詠葉先輩と桜の樹の下で少しだけ話をした。
「君はやっぱすごいね。すごくドキドキした。
本当に探偵みたいだったよ。
恵理の話を聞いてくれてありがとう。」
改めて詠葉先輩に見惚れた。
桜舞う中、彼女は満足そうに笑っていた。
普通に過ごしていたらこんな美人と関わりを持つことはなかっただろう。
「先輩、もしかして分かってたんじゃないですか?」
彼女は桜を見つめ、こう呟く。
「恵理のおじいさんが自殺だったのか、事故だったのか。
あれが遺書なのか、恋文なのかそんなのどっちでもいいんだよ。
そうでしょ?恵理の依頼はおじいさんは幸せだったのか、だからね。」
そう言うと彼女は哀しげな目で件の樹に触れた。
「この樹はね、もうすぐ切ってしまうんだ。
もう歳で腐りかけているんだってさ。
こんなに綺麗に咲いているのに。」
彼女はつまみあげた花びらを春風に放った。
「また今度、私の依頼を頼まれてくれるかい?」
「もちろんですよ。僕と亜乱にお任せください。」
いつの間にか戻ってきた伊月が勝手に返事をした。
先輩はニコリと笑うとおれの手を引き、頬にそっと口づけをした。
「じゃあまたね探偵くん。」
固まるおれを溶かすように春風が桜の樹を揺らして見せた。
繊細探偵 澄糸 亜乱 @aran_smithee
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