第12話


 短かったアイカの夏休みはあっという間に終わり、明日から夏期講習が始まる。そのタイミングで、アイカは無事に自宅へ帰っていた。

 自室でイヤイヤながらも明日の準備をして、そろそろ寝ようかと思った時に部屋をノックする音が聞こえた。


「愛香、まだ起きてる?」


「起きてるよ、ママ」


「ちょっとだけ良いかしら?」


「どーぞー」


 カチャリと部屋の扉が開き、愛香の母親が入ってくる。いつも穏やかな笑顔を見せる母だが、今日は少し強張った顔をしている。いつもは見ない表情だ。


「ねぇ、愛香。ママは分かってるのよ」


「え?」


 愛香は何を言われたか分からなかった。


「愛香はここ最近、週末は友達のところへ行ってるわね。今週は一週間泊まりがけで出てた。

それは本当に学校の友達?」


「………」


 誤魔化せるとは思っていなかった。けれど、友達の家に行くと言って出かけても何も言われなかったのだ。だから気付いていないと思っていた。言っても信じてもらえることではないから。


「あら?」


 ふと、母の視線が愛香の手首に釘付けになった。


「あ…これ…外れなくて」


「少し見ても良い?」


 こくんと愛香が頷くと、母は愛香の手首を取りそのバングルを間近でじっくりと見ていた。

 刻まれていた模様を見て何かを呟いたのは分かったが、何と言ったかまでは分からない。そして、母はふぅと小さく息を吐いて愛香にこう言った。


「ちゃんと高校だけは卒業しなさいね。その時に愛香に教えてあげる。

それまでパパには内緒にしておいてあげる」


 いつもの穏やかな笑顔でそう言って部屋から出ていった。

 母の言ったことに愛香は全く心当たりがなくさっぱり分からなかったが、とにかく卒業だけは何とか死守しなければいけないことだけは分かった。

 勉強が苦手で苦手な愛香にとって、地獄の日々が待っていたのであった。



 それから夏休み返上の夏期講習も無事に終え、その間も毎週とはいかなかったが何度か彼方の世界へ行き、着実に剣士?…としての実績を積んだ。いや、勇者としての実績か。勉強の知識だけはなかなか向上しなかったのだが。

 アイカが不在の間はパーティメンバーも実績を積んでいた。そしてシュウは謎の男や瘴気のことを調べていた。しかし、何の手がかりもなく謎は深まるばかり。

 しかも、アイカがこちらに来た時には何故か謎の男とよく出会う。アイカにしか興味はないらしく、アイカと数回ほど会話をするだけですぐに消えてしまうのだが。


「アイカ自身に何かあるのでしょうか?」


 イレギュラーは勇者アイカである。

 今まで男性しか召喚されたことのない勇者に初めて女性が召喚されたこと。行方不明の聖女。勇者と聖女の色とは。やはりいくら調べても考えてもこれっぽっちも分からない。


「隠された何か、ですかね…」


 シュウは辞書のように厚い本をパタンと閉じた。

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高3女子のわたしは週末だけ勇者やってます 海嶺 @amane_a

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