2
しばらく進むと、廊下に空いたアーチ状の入り口から、明るい光が見えて来る。
周りの暗さが、より一層光を際立たせ、眩しいくらいだ。
「ここなら明るいでしょう?私のとっておきの場所よ」
入り口前で立ち止まり、クロノに話しかけた。
「うわぁ」
思わず感嘆の声が漏れる。
部屋の中は建物内とは思えない程、植物がたくさんあり、鉢に植えられた物や、水耕栽培の様式で育てられた物などで埋め尽くされている。
そして太陽の光を模した鉱石の光が、水路に流れる水に反射して輝きを増し、部屋全体の雰囲気を彩る。
壁が無ければ、小鳥でも飛んできそうな、自然豊かな場所だった。
「あの花は何?」
クロノの指差す先には青い花がある。
部屋の中央に位置し、群生している事から良く目立つ。
大輪の花ではないが、スッとした姿が凛々しく美しい花だ。
「あれは、ね?大事な人から貰った物を育てたの。見たことない?」
「ううん。見た事ない」
「そう」
魔人の女は一瞬悲しそうな表情をしたが、和かに微笑み花に近づく。
そして一輪摘み取ると、クロノに差し出した。
「綺麗でしょ。これは貴方にあげるわ、ね?」
「いいの?」
「えぇ」
クロノが見せたパァッと明るい笑顔に、魔人の女は微笑み返す。
受け取った花をシゲシゲと見つめ、クロノは香りに誘われて鼻を近づけた。
「良い匂いがする」
「フフッ。気に入った?」
「うん!」
「良かったわ」
ご機嫌な様子で、クロノを抱いたまま長椅子に腰掛けた。
そしてクロノの瞳を見つめ問いかける。
「ここなら怖くない?」
クロノは辺りを見回す。
太陽光の様な自然な明るさ。
植物が作り出す綺麗な空気。
泉の底と正反対な環境だ。
「怖くないよ」
その言葉に、魔人の女は嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「そう。良かったわ。それじゃあ、ここで生活出来る様にするわ、ね?」
提案されるが内容が理解出来なく、クロノは首を傾げる。
「フフッ。私に任せて。貴方名前は?」
「クロノだよ」
「クロノ?そうなの、ね」
彼女は視線を落とした。
少しだけ考える間が空くが、視線を戻して再び名乗った。
「私はパルム。覚えてない?」
先程は怖がっていて、考える余裕がなかったのかもと思い、期待を込めて聞いた。
「知らないよ?」
「そう」
クロノの言葉は、彼女にとって残酷なものだったのだろう。
再び悲しそうな表情をしたのを見て、クロノは複雑な想いを抱いた。
自分に対して好意を向けてくれ、優しい匂いを醸し出すパルム。
その好意を裏切る様な状況に、言いようのない申し訳なさが込み上げる。
しかしそれ以上に、彼女の悲しい顔を見た事で、胸の奥で何かが脈打つ感覚を味わった。
不思議な感覚。
まるで命が、もう一つあるかの様だった。
だがその感覚は直ぐに消え去る。
パルムは明るく努めようと微笑みを向けたからだ。
「そんな顔しないで。貴方が悪い訳じゃないんだから、ね?」
「うん」
彼女の微笑みは何故か安心する。
いつしか警戒心は無くなり、肩の力が抜けて心を許すようになっていた。
ブラックドラゴン 青香 @kagawa102
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