第3話 誰も知らない英雄の話
薄暗い廊下、懐中電灯を握りしめ、男は走っていた。そのすぐ後ろでは、無数の目と触手がある怪物が彼を捕らえようと向かってきていた。
「クソが、クソが」
悪態をつきながら、走り続ける。
廊下の突き当たりにある階段を二段飛ばしで上がると、目に入った扉を開け、中に転がり込む。扉は閉めずに、足が壊れたテーブルの後ろで息を潜める。それは、あの怪物が少なからず知性があると仮定して、扉が閉まっているところを開けてくるかもしれない、という考えがあったからだ。
階段を何かが這う音が男がいる部屋にも響く。男はそれを聞き漏らさないように耳を傾ける。
まもなく、何かが上の階に行ったことを確信すると、男は部屋を出て、何かとは逆の方へ駆け足で歩み始める。
「なんなんだよ、この建物は」
僅かな光が灯された廊下。窓が一切なく、壊れた家具がいくつもある不気味な部屋。この建物は異様な雰囲気を漂わせていた。
果てしなく長い廊下。最初のうちは駆け足だったが、徐々に遅くなっていく。
男は休むことにして、近くにあった部屋に入ると壁に背を向け倒れ込む。
「ちくしょう、俺が何したっていうんだよ」
拳を振り上げる。万が一怪物が聞き耳を立てていたら困るため、男はかなり静かに振り上げた拳を床に叩きつける。コンクリートの造りの床に当たると、ぺちんっと、情けない音がする。それと一緒に男は自身の無力さを知る。
その後も、男はグチグチと密かに悪態をついていたが、やがて無駄だと知り、眠りにつく。
男は不意に目を覚ます。廊下で物音がしたからだ。何かを無造作に退ける音。そして、何かがグチャグチャと這う音がする。
男は見つからないように、じっと息を潜める。這う音はだんだんと男がいる部屋へ近づいてくる。
男は片手で口を押さえながら、もう片方の手で、自分の胸を撫で下ろす。呼吸を最小限にして、怪物が通り過ぎるのを待つ。やがて、横目で怪物が自身がいる部屋を通り過ぎるのを見てホッと安堵の溜息を吐く。
しかし、男にとって予期せぬ事態が起きた。男がいる部屋の壁に亀裂が入ったのだ。
ビキビキと、振動を発する。怪物は立ち止まると、触手を唸らせ、男がいる部屋へ進行を始める。
マズいッ、そう思うが早く、男は部屋を飛び出す。怪物は男を見つけると、何十本もの触手を伸ばす。足に絡み付こうとする触手を、飛んで避けると、転びそうになりながらも、体勢を立て直し、走る。
「クソ、クソ、なんなんだよお前はッ」
暴言を吐きまくる。弱い犬程よく吠える、という言葉はこういう時に使うんだと、男は自覚した。
「おじさん、こっちー」
男が走る方向に、1人の少女が手を振っている。その傍らには、本が浮遊していた。
本来であれば奇妙な光景だが、命の危機すら感じる緊迫感の中、少なくとも男にそんな感情は微塵もなかった。
迫りくる触手を避けつつ、少女のところまで辿り着いた瞬間、男の視界は急変した。それは、さっきまで走っていた長い廊下ではなく、どこかの部屋へ移動したからだ。何が起きたかわからず、男はあたりをキョロキョロと見渡す。その近くには、茶色い髪をした少女と宙に浮く本が佇んでいる。
「大丈夫? おじさん?」
「あ? あぁ、大丈夫だ。それより、お嬢ちゃん、これはだいうことだ? ワープとか、転移とかそういうヤツなのか?」
男があたふたと疑問を口にすると、本が男に見せるように、白紙のページを開く。
『そう思ってもらって構わないよ』
「なんだ、頭に声が入ってくる?」
「おじさん、大丈夫だよ。さっきおじさんを助けたのも、この本さんのおかげなの」
「...本さん? これのことか?」
『そういうことだよ。理解が早くて助かるよ』
「....ここの建物に来てから、俺にとっては変なことが日常茶飯事なんだ。いい加減慣れてきたさ。ともあれ、あんたらとあのバケモンは繋がってねぇんだろ?」
『もちろん』
「でも、良かったね。これでおじさんも出られるよ」
「それはどういうことだ? 出口でも見つけたのか?」
『いいや、というより、事実上、この建物に出口というものは存在しない』
「は? んだよ、なんだってそんな欠陥建築な建物なんだよ」
『答えは単純だ。獲物を逃さないためだね』
「...俺たちのことか?」
『この建物は、要するに、餌やり場なんだよ。あの怪物を育てるためのね』
「なんだってそんな、っていうことはあれか、あん時たまたま俺がいた部屋で音が鳴ったのも...」
『おそらく、この建物が、怪物に気づかせるようにしたことだろう』
男は頭を掻き毟って、唸り声を上げる。
「ツッコミたいことがありすぎて、頭がおかしくなりそうだ。ここに来た人間はみんなあのバケモンの餌になっちまうってことか」
男の意見に本はすんなり同意する。
「あのバケモンはなんなんだ。なんでこの建物はあんなやつを餌付けしてんだよ」
『さあね、なんでこの建物が存在してるかもよくわからない。だが、君がバケモンというやつについては、それなりに答えれるよ』
そういうと本は、少女に廊下を見張るように頼むと、本は男の方に寄ってくる。
「あんな小さい子に任せて大丈夫なのか?」
『安心してくれ、この場所はさっきの場所から一番遠い。建物の補助があったって、なかなか辿り着けないさ』
「そうか」
『先程の質問だが、あの怪物はね、悪意の塊なんだ』
「は?」
『理解できなくても仕方ないよ。あれは、多くの悪意、負の感情というべきか、それの集合体なのさ』
男は笑う。
「はは、すまんすまん。スケールがあまりにもぶっ飛んでるもんでよ。本当に、訳がわからんことばっかだな」
たしかに、と本は同意する。
『君たちにはあまり重要じゃない話だね。この建物は君たちを逃さんとする訳だ。君たちをあの怪物の栄養素になってもらうためにね。そこで私の出番だ。私なら君たちを脱出させてあげられる』
「さっきみたいな方法でか?」
そう訊きながら、男は自分が転移したことを思い出す。この建物に入ってくる時も同じようなことがあったことも...
『ああ、その通りだ』
「聞きてえことは色々あるが、だったら、とっとと俺を外に出してくれ」
男が言うと、本はひらひらと飛びながら少女にこっちに来るようにと、ささやくと、本と少女は男の方へ来る。少女は歩きながら本に向かって、ねえ、と呼びかける。
「あの警察官さんは?」
「...警官?」
「そう、警察官さん。私があのお化けに捕まりそうになった時にね、助けてくれたの」
「そうか、なあ、そいつは、こう、少し太ってたか?」
「うん。でも足は私よりすごい速かったよ。おじさんは知ってるの?」
「いや、知らない」
男は素っ気なく言う。
「本さん、その人は無事だよね? 何処にいるの?」
『ああ、無事だよ。心配しなくても大丈夫、ちゃんと安全なところに隠れているよ』
「そうなんだ、良かった。じゃあ早く、この建物から出してあげて」
『わかったよ、じゃあ、そうするために、君を早く連れ出してあげないとね』
「...そうしたら、警察官の人も逃げれるの?」
『ああ、その通りだ』
「わかったわ、私、先に行く。おじさんは?」
「俺はまだいいや」
「早く出たくないの?」
「少しやり残したことがあるからな、先に行ってな、嬢ちゃん」
「ありがとう、おじさんも、元気でね」
本と少女が転移してから、しばらくの後、本が男がいる部屋へ戻ってきた。
本はひらひらと浮かんでいたが、やがて男の隣で床に転がるようにして倒れ込む。
「宙に浮いてるのは、デフォルトじゃなかったんだな」
『ああ、流石にここまでガタが来ていたとは思わなかったけどね』
本は疲れきったような声をしていた。男は本の事情をある程度把握する。
「さっきの話」
男は本に話を振る。
「警官の話だ、そいつはまだ生きてんのか」
『いや、もう生きてはいない』
「...そうか」
『知り合いだったかい?』
「いいや、名前も知らない。だけど、覚えがある」
「きっとそいつは、俺を捕まえにきたやつだ」
「なあ、あんたはなんで人助けなんかしてんだ?」
『特に理由はないさ。助けたいから助ける、それだけさ』
「はは、善を為すっていうのは、みんな理由がないもんなんかもな」
男は乾いた声で笑う。
「俺は警察官になるのが夢だった」
壁にもたれながら、小さく溜息を吐く。
「俺の親父が警官だつたもんでよ。憧れてたんだ。いつか親父みたいになりてぇと思ってな」
『子が親に憧れるのはよくあることだね。さぞ仲は良かったんだろう』
「はは、ご明察だ。良かったよ。親父、おふくろ、俺、みんな本当に仲が良かった。毎日毎日一緒に食卓を囲んで、よく笑ってたさ」
男は嬉しそうな表情で話す。本は黙って聞いていた。
「ホントに幸せだった。ずっと、この先もずっと続くってそう思ってた」
少しだけ間が空いた。
「試験があってさ、その日。ちゃんと勉強してたから、合格だってのは受けててわかった。自転車漕いで、急いで家に帰って、朗報だーって報告しようと思ったんだよ」
男はひとりしゃべり続ける。
「2人とも殺されてたんだ。包丁でな」
数秒の沈黙、照明の光が、男の目を照らすと、うっすらと輝く。
「犯人はすぐに捕まったよ。親父が昔捕まえた奴だった。でもそいつが途中で逃げたって聞いたからさ、俺はそいつを探しに行ったんだ。そして見つけた」
男は横目で本を見ながら話を続ける。
「幸運だと思った。逃げ出してくれて、俺に見つかってくれて。俺はそいつを殴り殺した。何度も何度も、殴り続けた。自分の指の骨が折れるぐらいな」
『そうかい』
「ははははは、笑っちまうよな、誰かを助けるつもりが、いつのまにか、人殺しをする人間になっちまうなんてよ。そっからの俺はずっと逃亡生活だ。目指してた警察官に追っかけられる毎日なるなんて予想出来なかったよ」
男は大笑いする。怪物に気づかれるかも、なんていうことは、考慮しないぐらいには大きく。
「俺は、きっと多分、あの嬢ちゃんが言ってた警官に、追われてたんだ。逃げてたら、急にわけわかんない場所に来てよ」
「多分、その警官も俺と同じようにここに来たんだろうな。そして、死んだんだろ?」
『ああ』
「運命ってのは皮肉なもんだよな、どれだけいいことしたって、報われないかもしれないなんてよ」
『そうかもしれないね』
そこから、何分間か経過した。
「なあ」
男は横目で本を見る。
『なんだい』
「俺がやったことは悪だと思うか?」
男は問う。
「俺があのクソったれを殺したのは悪なのか? 俺の何が悪いんだ? 俺は自分がやったことは良いことだと思ってる。あいつは俺の家族を殺したんだ。死んで当然だ。あんなゴミクズなんてこの世にいちゃならねぇんだよ。なあ、俺の行いは悪か、善か? 善だよな。俺は正しいことをしたよな? 俺は紛れもない正義だったよな?」
男は問い続ける。自分の内に秘めた感情を全部曝け出して。
『今こうやって君と会うまで、私はいろんな人に出会った。親から虐待を受ける子、家に引きこもりな子、自分という殻に閉じこもり、大切な友人の手に気づかなかった子、他にももっとだ。そして最後に君だ』
男は本を見つめたまま動かない。
『善と悪、そんなものは、人それぞれだ。自分にとっての善が誰かにとっての悪になるかもしれない』
男は無言だった。ただどこか悲しく、寂しそうな遠い目で見つめる。まるでその先に来る言葉を理解してるかのように。
『君が自分の行い善と言うなら、それは間違いなく善だろう。だから私は君に、君自身に問おう。君は自分が正しかったと思うかい?』
本はやさしい口調でいう。男は泣いた。子どものように、自分の感情を表に出し泣いていた。本はそれを、ただ静かに見守っていた。
警察官になりたいと思った。
そう思ったのは、親父のせいだろう。親父はいつも優しかった。俺がどれだけ失敗して躓いても、俺の親父は、おふくろは、やさしく俺を抱きしめてくれた。俺はそんな2人が大好きで、愛してた。心の底から、この人たちの子で良かったと本気で思った。毎日がずっと幸せだった。
そして、そんな幸せを俺は奪われた。
俺の大好きな親父は、おふくろは、もうどこにもいなくなってしまった。
心に穴が空いた。それが埋まることなんて、たぶん一生ないんだろう、そう思ってた。
犯人が逃げ出した、そう聞くまで。
周りの友達は俺を慰めてくれた。でももうどうでも良かった。俺は町中を探し続けた。警察よりも早く、俺が見つけないと、そう思ってたからだ。
だから見つけた時、俺は歓喜に震えた。そいつは、包丁で俺を脅していたが、そんなことはどうでもいいぐらいに、俺は嬉しかった。
そいつの包丁をはたき落とすと、鳩尾部分に思いっきり拳を叩きつけた。
ヨロヨロと倒れ込むそいつを、俺は馬乗り状態で、身体の自由を奪うと、顔面目掛けて拳を振り下ろす。反動で自分の手が痛くなったが気にしない。殴り続ける。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もそいつが死ぬまで。
はははははははははは
そこから先は、あの本に話した通りだった。俺は逃亡生活を送り、今に至る。
近くで、何かの音がする。すぐに何かわかった。あのバケモンだろう。俺の笑い声に反応したのか、この建物が教えたのか俺にはわからなかった。
『今なら、君を外に出すことができる。一度見ただろう? 今から外に道を繋ぐ。君はそこに飛び込めばいい』
本はまるで生きる気がないように、地面に寝そべっていた。もっとも、それが普通の状態なのだが。
出られる、か。この建物から。改めて部屋を見渡す。薄暗い照明、ボロボロな壁、床、廃墟のようで不気味だが、なぜが嫌悪感はなかった。この建物に長い時間いたからか、慣れてしまったのだろうか。
「いや、俺はいい」
俺は立ち上がる。すると、本が追いかけるように、俺の前に来る。
『それは、どういう道を進むか、理解してるのかい?』
「別に進んで死のうってわけじゃない。これはけじめみたいなモンだ。俺に許された、最後の行いなんだ」
『私は君を助けたい。ここで死なせたくはないんだ。それに、あの怪物は君たちを栄養にしている。いつかこの建物が、怪物を外に放すことになったら、被害はさらに拡大してしまう。私はもう寿命だからね、止めることはできない。でも、最後の力で君を助けることは可能だ』
「はは、だったらその力は俺よりマシなやつに使え。それにな...」
『それに?』
「自分の感情に、心に気づいたからかな、なんとなくだか、わかる気がするんだ」
扉を開け廊下に出る。音がする方へ目線を動かすと、あのバケモンがいた。
『わかるとは? 言っとくが、あの怪物に説得は通じない。私も何度か試したが止まる気配がなかった』
冷静沈着というイメージだったが、焦るような口調で言うものだから、思わず笑ってしまった。
「そらそうだろうよ。お前が言ってたじゃねえか、自分にとっての善意が、相手にとって悪意なんだろう? あれが悪意の集合体って言ったって、あのバケモンにとっては、紛れもない正義なんだ、きっと...」
きっとそうだ、俺もそうだった。自分がやったことは、行いは正義だって、正しいんだって思ってた。いや、そう思いたかったの間違いか。そして、それは、あのバケモンも...
「さあてっと」
肩を回し、首を回し、意味があるかもわからない準備運動をする。
「あんたは見ててくれよ、最期ぐらい、絶対やり遂げて見せるからさ」
怪物が触手を伸ばす。俺は怪物に向かって、一歩を踏み出した。
私は黙って見つめていた。動きを止めた怪物を、長い時間がたって、ようやく怪物に動きがあった。怪物の体は徐々に溶けていく。体を構成していた触手は溶け、目玉も、全部溶けていく。それは、怪物にとって死を意味しているのだろう。
壁の一部が剥がれていく。だけではない。建物全体が役目を終えたかのように崩れていく。このままでは押しつぶされてしまうかもしれないが、私は動くことはしなかった。私は怪物が消える最期の瞬間まで、1秒たりとも目を離さないようにした。それが彼との約束であるからだ。
やがて、怪物は呻き声も叫び声も上げず、静かに消滅していった。
私は自分の在り方を知らない。
自分の起源もわからない。生みの親もいるかさえわからない。気づいたら存在していた、ということしか私にはわからない。
初めて人にあった時、私はどことなく初めてな気がしなかった。そう不自然な程に。
もしかすれば、私は元は人間だったのかもしれないがそれを確認する手立てはどこにもない。
困っている人間を見ると、私はとにかく助けたくなる。これも、もしかしたら、過去の私が後悔した出来事に由来しているのかもしれない。わからないが...
あの建物と、あの怪物を見つけたとき、私は苦悩していた。
怪物を倒すことも、説得することもできず、一方で、建物を破壊することも考えたが、それで外にあの怪物が放されることを考えると、到底できなかった。
私は建物の中に転移してくる人間を外に出すことに専念した。同時に、街中にいる悩んでいる人間の話を聞いていたりもした。
だが、私では力不足だった。それでも、諦めまいとした結果、黒猫にも見放されてしまうとは思わなかったが...
黒猫の場合、彼は自由奔放という名の体現者みたいなものだから、あれはあれで、自分の在り方を理解してるようにも見えなくもない。
建物が完全に崩れる瞬間も、本は空から眺めていた。元々人通りが少ない場所だったことは調べ済みだが、念には念を二次災害が起きないことを確認する。
外は雨が降っていた。あちこちで水溜りができていることから、かなり前から降っていたのだろう。
私は確認し終えると宙に浮くのをやめた。
地上何メートルあるかもわからないが、私は落下する。
アスファルトの水溜りの場所に落ちて、私はようやく、自分の終わりを知る。
それにしても、っと私は思う。
私ではどうにもできなかったあの怪物を、彼は討ち果たした。彼は完全に取り込まれたのはこの目で見ていたが、一体何をしたんだろうか。
彼は言った。わかる気がするんだと。
本は1人苦笑する。
案外私とやったことは同じことかも知れないな。
彼は知っていたんだ。善も悪も。両方の気持ちを、彼はあの時理解していたんだろう。
それは、私にはできないことなんだろう。少なくとも、人である、だけじゃない、彼だからこそ為せたことなんだろう。
わかると言ったんだ。自分がしてきたことを改めて理解したからこそ彼は悪意に歩み寄ったんだろう。争うのではなく、悪意を理解したんだ。
そして、それは悪意という善意に届いたんだ。
『見ててくれよ、最期ぐらい、絶対やり遂げて見せるからさ』
ああ、見たさ。君が成したこと。しっかりとね。
私はここで終わる。そして、彼の功績を見たものは誰もいなくなるだろう。だが...
私は知っている。誰も知らない英雄の話を。
本の物語は静かに終えた。
異端なる者たち ジャンルは縛らず、私が書きたいように @tohatowa
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