第23話 決戦の準備1
人を呪うように成ったのは何時からだろう?
両親が保険金目当てに事故に見せかけて殺された時?
養父母に虐待された時?
人を呪うことが当たり前に成りすぎてもう自分が最初に呪いを使ったのは何時かも思い出せない。
私は今まで呪いで自分の敵を全て排除してきた。気に食わない相手も排除してきた。
そうやって六呪の1人に成った。
でも、頭の片隅ではずっと考えてた。人を呪わば穴2つ。何時か呪いによって命を奪った報いを受けると。
「あ、あぁぁぁ!!」
「「そ、操呪様ぁぁぁぁ!!!!」」
部下たちが真っ青に成って悲鳴を上げる。呪いを帯びた私の糸は全て切り落とされ、左腕と左足も風の鎌で切断されている。
左目も見えない。恐らくさっきの風で潰されたのだろう。
「私の呪い、全く効かないのね」
既に立っている事さえ出来ず、地面に倒れ伏して敵のヴァンパイアを見上げる。
風を纏い、私の呪いを全て無効化した今まで戦った中で最悪の敵。そんな相手でさえ、敵の幹部である四天鬼ですら無い。
「う〜ん?死なせるには惜しいか?」
ヴァンパイアはしゃがみ込み、此方をしげしげと眺める。
「特に妖魔との混血には見えない。唯の人間でこれだけ力を付けたのだとすれば大したものだ」
ヴァンパイアは一度顎に手をやって何やら考えた後、此方に笑みを向けてくる。
「六呪!お前、名前は?」
名前?これから死ぬ相手の名前なんて訊いてどうする気だろう?まあ、隠す意味もないけど。
「操呪の糸井唯」
「唯か!そうか!いい名前だな。なあ唯。お前も吸血鬼に成らないか?」
「はっ!?」
コイツは今なんと言った?私が吸血鬼?
「お前の呪いは見事だった。人の身であの力を得るのは並大抵な事ではないだろう?
俺の様に吸血鬼に成れば妖力が得られる!今以上の力が手に入る。
人間の段階でこれだけの力が有るんだ。吸血鬼に成ってもダンピュール止まり等と言うこともないだろう。必ず俺と同じヴァンパイアに成れるはずだ」
「私が吸血鬼?巫山戯て言っているの?」
「巫山戯ていない。大体何故拒否する?人である事に拘る理由でも有るのか?
呪術師と成り、呪怨会という犯罪組織に身を置き、善良な人々を呪い殺し、人の道を踏み外したお前が何故人であることに拘る?」
「それは…」
あれ?確かに、言われたら何でだろう?何で私、人間で居たいんだろう?
ヴァンパイアに成れば日光を浴びれなく成るから?
そこまで浴びたいと思わないし、日光体勢を得れば解決する。
人間であることに誇りや拘りが有るから?
違う。そんな物無いし、金や自分の利益のために平気で人を裏切って殺せるのも人間だ。私はそんな種族に誇りを持っていない。
逆に人間のままなら、怪我だってすぐ治らない。病気にも成る。老化して衰えるし、寿命も短い。
吸血鬼に成れば全て解決する。
見上げる様に敵のヴァンパイアを見ると、先程僅かに付けた傷は既に完治している。
「私を吸血鬼にする理由があなた達には有るの?」
「忍様は真祖と成り、神妖の座に登られた。素晴らしことだが、敵も増える。有能な仲間は1人でも多いほうが良い」
「私が、吸血鬼に…」
差し出された手を私は残っている右手で掴む。
この日、人である私は終わりを迎えた。
ー○●○ー
「と、言うわけで!『呪怨会』殲滅作戦会議!!ドンドンパフパフゥ〜」
俺の領域に有る俺の根城。その会議室のような広い一室で俺、藤堂忍は明るく議題を伝える。
「忍君。その、もう少し雰囲気を…」
透子ちゃんが苦笑しながらそう言ってくる。
「まあ、そうなんだけど、糸井唯ちゃんが仲間に成ったから一気に呪怨会の本拠地への行き方が解ったんだよね。今その準備中なんだけど、そのうち行けるように成るだろうし、敵の戦力ももう殆どないらしいからさ」
「そうなの?で、行き方って?」
「8つの地点に隠されてる呪いの結界石壊せばそのちょうど中心に出てくるってさ」
「壊すのは誰が?」
「皆以外のヴァンパイア!」
「私達以外のヴァンパイア?」
俺の言葉に透子ちゃんは首を傾げる。そう言えば会った事は有っただろうけど、ヴァンパイアに成ってるのは知らなかったかな?
「順一さんと一緒にグールやダンピュールに成った人達。猿の経立に殺された人達だね。後はこないだ仲間にした夏恋ちゃんとか糸井唯本人とか他にも最近事故とかの現場に行って手遅れな犠牲者を勧誘したりしてたから、その中からヴァンパイアに成れた人達とか」
四天鬼だけに全て任せるわけにはいかない。働かせ過ぎだ。俺はブラック上司ではないのだから休ませてあげないと。
まあ、四天鬼ほど実力保証されてる訳じゃないから心配な面も有るけど、全員ヴァンパイア化して上級怪だから大丈夫じゃないかな?
俺は片目を瞑り、結果石破壊に向かったヴァンパイア達を見守っている蝙蝠型の式神に視界を切り替える。
ー○●○ー
「ほい!終了ぉ〜」
先ずは一箇所目。既に結果石は破壊されている様だ。無精髭を生やした気怠げなおっさんがタバコを咥えて倒れ伏す呪術師に座っている。
「終わった?飯塚さん?」
俺は式神から声だけを出して確認する。
「おう!忍!終わったぜ!」
軽くそれだけ言うと、飯塚さんは美味そうにタバコを吸う。
ヴァンパイアの身体にはタバコ程度の毒は意味をなさない。よってどれだけ吸っても害は無いが、逆に吸うことで得られる気分を良くする様な効果も無いので吸う意味は無いのだが、それでも吸っている。
最早、意味の有る無しに関わらず、吸うことが習慣に成っている様であり、それだけで人間の時にどれだけヘビースモーカーだったか解る。
工場の事故で、機械に挟まれて死んでいた所を助けて勧誘したが、あの事故が無くてもそう遠くない未来に肺がんで逝っていたであろう喫煙量だ。
「ご苦労さま。戻ってきて」
「おう!」
飯塚さんはゆったりと腰を上げるとノロノロとその場を移動する。
一箇所目は無事終了。次だ。
ー○●○ー
2体目の式神に視界を移す。あ!こっちはちょっと苦戦気味?
「はぁぁぁ!!オン・キリ・キリク!!」
「あっ」
呪術師の死体が転がる中で、1人の呪術師が放った呪いが少女の姿をしたヴァンパイアの胸を貫く。
「上級怪がなんだ!!ヴァンパイアがなんだ!!僕は六呪の1人『禁呪』だぞ!!」
呪術師は血走った目で俺からみても明らかにヤバそうな呪いを連発していく。
「『病呪』も『音呪』も『炎呪』も死んだ!!『操呪』とも連絡がつかない!!
それでも僕たちは呪怨会の最高幹部だぁぁぁ!!!」
絶叫と共に『禁呪』の身体に大量の虫が纏わりつき、混ざり合っていく。
これって…
「ギシャァァァァァ!!!!」
虱、蛇、人。その他百足や蜘蛛、蟷螂等、様々な虫が人体と混ざり合い、大きな妖魔と成る。
そう。蛇虱人蠱。
「ヤッバ!!」
思わず声が出てしまった。唯の呪術師が触媒と成った 『蛇虱人蠱』でも啓生さんが四天鬼を引退したいと思うくらいには強かった。
ましてや今回触媒に成ったのは『六呪』だ。いくら俺が神妖と成って全体のレベルが底上げされていると言っても、ヴァンパイアに成りたての娘にこれは厳しいだろう。
既にテレビ画面の様な役割をする式神に様子を映しているが、見守る四天鬼の皆も険しい表情に成る。
「忍君!!私が助けに行こうか?」
若干慌てた様子で透子ちゃんが訊いてくる。
「でも、もう間に合わないでしょ?とりあえず摩耶ちゃん!!一旦逃げて!!」
式神越しに逃げるように伝えるが、摩耶ちゃんは動かない。恐怖で固まってる?
「……はぁ〜」
『禁呪』が触媒と成った『蛇虱人蠱』を眺めてボーと息を吐く摩耶ちゃん。
「ギシャァァァァァ!!!」
一方『蛇虱人蠱』はそんな摩耶ちゃんの様子に構うこと無く、鋭利な鎌や爪、針や尾で彼女の全身を突き刺し、切り刻む。
「ギィィィィ」
「アハッ!!」
全身を切り刻まれながらも彼女は笑う。
「ギィ?ギッギギィィ!!」
それと同時に彼女に触れた『蛇虱人蠱』の身体は毒々しい緑色に変色し崩れ始め、『蛇虱人蠱』も藻掻き苦しみ始める。
「あれ?」
「これって…」
「俺の予想より強かったかな?あの娘?」
映像の中で摩耶ちゃんはトボトボと歩いて悶え苦しむ『蛇虱人蠱』に近づき、手でその身体に触れると、『蛇虱人蠱』の全身が緑色に変色し、崩れ去っていく。
摩耶ちゃんは『蛇虱人蠱』が完全に崩れ去って緑の液体になると、結界石も同じく緑の液体に変えて悠々とその場を後にする。
「すっごい」
思わずと言った様子で透子ちゃんが声を出す。
確かに此方の予想以上だった。何だか狐に抓まれた感じがするが、ともかく四天鬼でもない摩耶ちゃんが5人目の『六呪』討伐と2個目の結界石の破壊を成し遂げた。
さて、次の場所はどうだろうか?俺は3体目の式神に視点を切り替えた。
トラックに轢かれても異世界に行けるとは限りません! 黒豆 @n5280h
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。トラックに轢かれても異世界に行けるとは限りません!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます