第6話 策略 

 5歳の誕生日、女の子が連れて来られて父上である国王陛下が言った。



「ヴィクトルよ、カロンヌ公爵令嬢のクリスチーヌ嬢だ。お前の嫁になるから仲良くするんだぞ」



「おはつにおめにかかります、ヴィクトルおうじ。カロンヌこうしゃくがむすめ、クリスチーヌでございます」



 小さい子にしては綺麗なカーテシーで挨拶した蜂蜜色の髪をした女の子は青い目を細めてにっこりと可愛らしく笑った。

 その後、何度もお茶会で会ったがいつも礼儀正しくニコニコしている婚約者だったが数年後のある日、私が予定に無い日にお茶会の会場へ気紛れに足を向けるとそこには憤怒の形相で怒鳴るクリスチーヌが居た。



 怒鳴っている内容はドレスの色が被っているとか、自分が持っていない数量限定で輸入された髪飾りをつけてきたのは自慢なのかとかくだらない内容だった。

 あの時は確かクリスチーヌが10歳の時だったか…、お茶会の会場に顔を出すのをやめて気晴らしに庭園へと向かった。



 そこには弟と弟との婚約が囁かれているシャルロット嬢が居た、自分達以外の婚約者同士はどんな会話をするのか興味があったのでこっそり観察していると…。



「ふふん、お前の家より素晴らしい庭園だろう。ここに来れるのも私のお陰だから感謝するがいい」



「うふふ、本当ですわね。こちらの庭園何て素敵なんでしょう…あっ」



 ん? 何やら今の言い方には含みがあったような、そんな事を思っていたらシャルロット嬢が足をもつれさせた。

 いや、違う、踏み出した様に見える足をガブリエルの足首に引っ掛け、さり気なく肘を脇腹に打ち込んで薔薇の茂みに共に倒れ込んだ。

 あの辺りに植えてある薔薇は大輪が咲く品種で、当然それを支える茎や刺も立派で…。



「申し訳ありませんガブリエル様、わたくしが足をもつれさせたばかりに…! まぁ、わたくしを庇ってこんなに傷だらけになってしまわれたのですね、すぐに治癒師を呼びましょう」



 ガブリエルは刺が刺さって痛みでヘタに動けない様だ、既に9歳だから人前で泣いてはいけないと教育されてるせいか涙目のまま固まっている。

 私と共に居た側近はシャルロット嬢がやった事に気付いていない様子だったが、護衛騎士は流石の動体視力で目撃したらしく固まっていた。



 護衛騎士にはコッソリ口止めし、今後シャルロット嬢が来る日がわかるなら教えてくれるように頼んだ。

 いつも私は王太子として厳しく教育されているが、ガブリエルは気楽な立場なのに身分を笠に着て横暴に振る舞っていると聞いている。



 先程のクリスチーヌといい、役に立っていないのに偉そうにしている者には思うところがあったのでシャルロット嬢の行動には内心スッキリしていた。

 その日以来時間がある時はコッソリとシャルロット嬢とガブリエルを観察して楽しんだ。



 その後婚約が決まったシャルロット嬢はガブリエルが護衛騎士や侍従に辛く当たっているとさり気なく話題を変えたり、気を逸らしている事に気付いたのは私だけでは無かった。

 シャルロット嬢が学院に入る頃には少なくない人数が彼女が王妃になってくれれば、と言っていた、私も同意見だ。



 その頃のクリスチーヌは学院内でも見目の良い男を侍らし、未来の王妃という事を口にしては横暴に振る舞っていた。

 何度もたしなめたが私の前だけしおらしくするものの、仮面舞踏会という名の乱行パーティーにも度々顔を出している事も手の者の報告で知っている。



 純潔だけはと言いながら後ろを使っているとか知りたくも無かった。

 クリスチーヌの愚かな行いの証拠を集めて父上に見せ、卒業と同時に結婚する予定を引き延ばす事に成功した。



 即婚約解消を期待したのだが政治的判断でそれは叶わなかった。

 しかしシャルロット嬢の同級生の男爵令嬢が学院でガブリエルの周りを彷徨いていると報告が入った事により事態が動く事になる。



 どうやらその男爵令嬢はガブリエルの側近をたらし込みつつガブリエルに近付いているらしい、だがガブリエルは気にしつつも一応婚約者がいるからと余り関わろうとしなかった。



 そこで在学中の手の者を使いガブリエルの予定をさり気なく伝えると偶然を装って会い、更に好む食べ物や趣味等の情報を与えて親しくなる様に仕向けた、すると思惑通り常に側に侍らすまでになったので次の行動に移る。



 クリスチーヌとの婚約解消を望んだ時に内々にシャルロット嬢を婚約者にしたいと打診はしたが、その時は私とガブリエルの間でゴタつくと側妃が産んだ他の王子を担ぎ上げる派閥が活気付く事を防ぐ為とガブリエルが自棄を起こす事を恐れて実行出来なかった。



 しかし計画通りに進めばガブリエルとクリスチーヌの失態という事で片が付くはずだ。

 ガブリエルの行動はすぐにわかる様に私の側近の弟達で固めてあるしな。

 そうして根回しを進めていたらガブリエルが見事にやってくれた、卒業パーティーで取り返しのつかない事を。



 その報告を聞いた時は思わず神に感謝した、父上と相談して余計な軋轢が生じぬ様私からではなく王室からの発案で婚約を決めるという形にした。

 元婚約者のクリスチーヌは修道院に入りたくないあまり修道院への道中で護衛騎士を誘惑し、騎士は純潔を散らした責任を取らされたらしい。



 私としてはシャルロットと結婚出来た今、正直クリスチーヌに興味は無い。

 息子2人に娘も生まれ、父上の執務を手伝いながら忙しくも幸せな毎日を送っているしな。



 愛を囁くと普段感情の表現が乏しい妻が頬を染める姿を見られるのは夫である私の特権だ。

 たまに構い過ぎて仕返しというかお仕置きされるが仔猫が引っ掻く様なものでそれすら可愛らしい。



 側室を持たない私はあと1人か2人子供が居ると安心だと家臣達から言われている、今夜も引っ掻かれるのを覚悟で心ゆくまで愛しい仔猫を愛そう。



◇◇◇


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