2ページ目「青い人魚の歌」

もうずっと前から消えてしまいたかった。

悲しい人魚の物語。

それはきっと、何もおとぎ話だけではないのだ。

現実でも起こり得るつまらない悲恋の物語。

あの人魚は···きっと私だ。

出逢った頃は美しく、キラキラ輝いていた碧い海。

夢中になりすぎた代償に私の足には

この想いと同じだけの鉄の重りがついた。

その重みでだんだん深く沈んでゆく私。

キラキラした水面は遠くなり、

段々息ができなくなった。


苦しくて吐き出す言葉はただ音のない泡になり、

誰にも届かないまま消えてゆく。

深く、深く、静かで孤独な深海へ

落ちてゆく私の足は、

ひんやりと柔らかい砂に触れた。


シャランと鎖が揺れた。


冷たい水が身体にまとわりつき

涙を流すことすら忘れていた。

そこにあるのはもう

ループする愛しい人の記憶しか持たない私だった。

海の底でただ想い出の歌を歌いながら

どれくらいの時を独りで過ごしただろう。

そんなことを思いながらまた

痛む胸をかばうように泡を吐く。

ふと気づくとその泡は前よりも小さく濁っていた。


「あぁ、私は自分の事を愛していたんだ。

あの人を愛しすぎたばかりに

自分の気持ちしか見えなくなっていた。」


気づいた時、ふと足が軽くなった。


「何をこんなに迷うことがあったのだろう。

愛している···それだけでこんなにも幸せなのに。」


いくつも脳裏に流れ出す

愛しい人の笑顔と穏やかな声。

あれほど痛みで引き裂かれそうだった胸に

ほんのり温かな灯りが灯ったようだった。


少し、また少し、足の重りが軽くなるのを感じた。

吐き出す泡は段々大きく、クリアになっていき、

パチンと弾けた。

身体がふわりと浮き上がり、

明るい場所へと自ら夢中で泳いでゆく。


いつしか体を纏う水は水面から差す太陽の光で

キラキラ輝いていた。

何も気にせず長い髪を思いっきり振り乱し

水面(すいめん)から空へ向かって顔を突き出した。


新しい空気が全身を覆う。


思いっきり深呼吸をした私の

白くしなやかな二本の足に、

もう鉄の重りはなかった。


「ここからまた始めよう。痛みと愛しさを抱いて。」


空に溶けるように私は歌った。


♪貴方を憎むくらいなら

海の泡になりましょう。

それでも希望を歌うならば

痛みも連れてゆきましょう。


答えはひとつ、

暖かで優しい感情を

貴方が教えてくれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


⚠最初(もうずっと消えてしまいたかった。)と

最後の(暖かで優しい言葉を貴方が教えてくれた。)は、Twitterの診断メーカー「こんなお話いかがですか」で出てきた一文です。

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【 短編朗読集 】 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami

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