第45話 一筋の光明

 おそらく救いの手が差し伸べられるのはこれが最後だろうと直感しました。不遇な年月を過ごして気づいたのは、「誰も助けてくれない」ということでした。綺麗な言葉は飛び交います。逆に醜悪な言葉が襲いかかってくることもあります。社会運動も起きます。暴動も起きます。しかし、それで助かるのは本当に困っている人間でも一番熱心に運動した人間でもありません。それを上手に利用し、正義と見せかけて乗じる人間です。本当は助けてくれる人というのに一番警戒すべきですが、今回のホワイト・デュークばかりは本当に善意のようです。これを逃すと次はおそらくありません。

 「待ってください。先生、お受けします」

 とユミは善意を逃がさないようにすぐに返事しました。ただ疑り深くなってしまってしまったようで助けてくれる真意を聞きたくなりました。

 「一度君の喫茶店に行ったことがある。『Bosque』だっけ。君は気づいてなかったけど。なかなか制服の着こなしが良かったんだよ。こういう人間は助ける価値があると思ってね」

 「それが理由ですか」

 「君も『同好の士』ですよ」

 それは拒否したかった、というより、そんな趣味はない。けれども就職先を紹介してもらった弱みから、曖昧に笑って答えました。ホワイト・デュークは「それじゃ先方には承知すると言うからね。詳しいことはあちらから連絡があるからね」と言って、電話を切りました。

 外の雨は勢いを増し、本降りになったようです。

 ユミはベッドに突っ伏して、声をあげて泣きました。


 後日、一つの事件がテレビで報道されました。

 生活に困った二十代の女性が、特殊詐欺の受け子になって、逮捕されたのです。

悪事に走りそうなすれからした風貌ではなく、真面目だけが取り柄でありそうな、地味な女でした。動機は解雇による生活苦でした。

ユミは出社する間際にそのニュースで連行される、うつろな女の顔を見て、全身が泡立ちました。

 後日、あの劇団員が、自殺したことを知りました。事情を知っている人に聞いてみると、自殺の理由は生活苦ももちろんありますが、それと同じくらい人とのつながりがなくなったことで追い詰められたこともあるようです。「実家に帰る」と言っていた「実家」との折り合いも、演劇をすることで悪くなっていて、頼るにも頼れない状況であったようです。

 それを知ってユミは背筋の凍るような気分を味わいました。自分がギリギリで助かったのだと自覚しました。

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