第44話 同好の士
「ウチの短大って、『同好の士』が多いんだよ。例えば・・・・・・、まあいいか、もう辞めちゃったし。理事長を筆頭にさ」
知ってる先生たちの名前が何人も出てきました。
なかには就職課の人もいました。
イヤな人間がみんな「同好の士」に加わっていました。
もしや、と思い、高校の担任の名前を挙げてみました。
「その人は知らない」と素っ気ない返答がありました。「いやなんでもないです」とお茶を濁しました。
「日本文学の研究者の就職口なんて、そんな縁故でもなけりゃないんだよ。今でもみんなでちょくちょく集まるよ。卒業して何年も経つ今でも、君の名前はたまにでるよね」
意外な言葉に驚嘆して、「エ?」と大きな声を挙げてしまいました。どうせ悪い話だろうな、と呟きました。
「とんでもない。みんな心配しているよ。君は成績がよかったからね。それなのに、絶対に私たちの助けを借りないから。短大生って子どもじゃないからさ、助けてほしいというサインを出さない人間は介入しづらいんだよ。今のご時世、少しでも強権にやるとトラブルになるしね。親切心が徒になる。だから、あからさまに困ってても、放置するしかないんだよ。君みたいなタイプは」
援助の手を差し伸べようとしていたことが意外でした。まるっきり自分には関心がないとユミは勘違いしていました。
それをホワイト・デュークに伝えました。
「うちは公立じゃなくて、私立なんだよ。卒業生には活躍して欲しいんだよ。そうでなければ私立の学校は生き残れないからね。だから優秀な人間にはそれなりの就職先が紹介されているはずだよ」
紹介されていたのに、蹴ったのはユミの方でした。
「君、今大変なんだろ。もしよかったら就職先、世話させてくれないか」
紹介してくれたのは工場の事務だった。
「コロナの騒ぎで業績悪化は免れないけれど絶対に復活する会社だよ。確かな技術はあるんだ。実はこの春先に定年になる人がいてね。欠員が出るんだ。もちろん正社員だよ」
「社長さんはもしかして・・・・・・」
「『同好の士』さ。君とショッピングセンターで会ってから、色々な人に声をかけてみたんだ」
恐るべし、「同好の士」。
気づくと外では雨が降り始めていました。
「そっちも降ってきたかい。梅雨だね。いやだ、いやだ」
落ち着いたら今度コミケ行こうね。じゃあ考えといて。そう言ってホワイト・デュークは電話を切ろうとしました。ユミは焦って引き留めました。
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