第43話 トムとジェリー
「あのときに着ていた服は実は銀座にあったカリー屋さんの制服なんだ。潰れちゃったんだけどね。その服をベースに、生地から全部私が指定して、オーダーメイドで作ったんだ」
『金持ち、スゲー』と心のなかで呟きながら、ユミはあきれて白目を剥いてしまいました。
「それがさ、娘がことの顛末を知って、怒り狂っちゃって大変だったんだ」
「危ないですからね」
管轄の警察署の応接セットで事情を話していると、息せき切って、娘さんがやってきたそうです。
「それがさ、私を一目見た途端、『どうしてそんな格好なんだ』って。そこからだんだん怒りの表情に変わってって。その服のせいで犯人は逃げたんだ、とか、恥ずかしい、とか警察で私のことをわめき散らしてね」
娘さんのことをユミは不憫に思いました。
「警察の人はみんな笑いをこらえるのに必死そうだったよ。私はそんなことはお構いなしなんだけどね。不自然な姿をさらすのはもう止したんだ。みんなから妙な視線を送られるのは、覚悟していたし、もう慣れたしね。でも、娘はそんなことなかったんだ。
一人だけ、警察の人のなかで泣いている人がいたんだ。はじめは娘に同情したんだと思ってたんだけど、帰って気づいたよ。あれは違うよ」
「なにが違うんです」
「あれは私と『同好の士』だよ。あのおまわりさん、きっとコスプレ好きなんだよ。制服着てたし」
「制服着たくて警官になったと・・・・・・」
「だって、女子高生だって制服で学校選ぶでしょ。あれは正しいよ。正義だよ」
ホワイト・デュークの語気が荒い。
「職業なんてやってみなけりゃ自分に向いてるか分からないんだから、やる前なんて全部イメージでしかないよ。ちくしょう、声かけとけば良かった」
その状況で声をかけていたら、娘さんが何をするかわからない、とユミは思いました。
「娘さんとは、どうなったんですか」
「いやね、『仕方ないよ。これが父さんなんだ。真実の姿なんだ』って言ったら、『てめえじじい、いい加減にしろよ、オラ』って殴りかかってきてさ。その勢いとか力が強いのなんの。警察の人、総出で娘止めてさ。止めながら、みんな大爆笑さ。娘は真剣なんだけどね」
警察署内を逃げまどうゴスロリ服の小柄な老人、鬼のような顔で追いかけ回す中年の女性、これで笑わない人がいたらお目にかかりたい。ユミはホワイト・デュークに気づかれないように忍び笑いをしていました。
「本当の姿を世間様に見せると決めてから、女房に言ったんだ。『老い先短いから、もう本当の姿でいさせてくれ』って。やっぱり怒り心頭だよ。それで出てっちゃった。
でも、コスプレのおかげで彼女たちはこれまでご飯を食べてきたんだよ」
「どういうことですか」
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