第42話 罠の罠

 「電話があったのを警察に通報したんだよ。それで警察の指示でわざとウチの住所を漏らしてね、ショッピングセンターを見張ってもらってね。犯人にバレてはいけないから、ウチの周りをさぐるようなことはしないけれども、犯人はウチを見張っていただろうね」

 これも聞いた話です。

 「それでね、うまく犯人の誘導に乗るふりをして、待ち合わせ場所を決めて、待ち合わせの目印に着ていったのがあの服だよ」

 「あの服ですか・・・・・・」

 ユミは意味ありげな反復になったような気がしました。

 ――赤い壁、幾何学模様の窓枠、その前に立つ、ゴスロリ服の老人。

 光景を思い出していました。

 「あれが真実の私さ」

 「あれ、あの服って犯人の指定した服じゃないんですか」

 ユミはそう思い込んでいました。

 実際は――。

 「え、先生がご自身で選んだんですか」

 イヤホンの向こうで、元老教師が哄笑していました。

 「そうだよ。ひっひ・・・・・・。まさか、ゴスロリ服なんて。苦しい・・・・・・。そんな目印、犯人や警察が指示するわけないでしょう」

 笑いながらホワイト・デュークがそう言いました。そりゃそうです。家にあることを知らないと、とっさに犯人はそんな指示が出せるわけがないのです。

 ホワイト・デュークはまた高笑いしました。しばらく、ユミは老人の哄笑を聞き続けなければなりませんでした。電話を切ってやろうかと思ったのですが、警察に垂れ込まれても困るのでそのまま待ちました。やがて笑いが収まると、改まってホワイト・デュークは話を再開しました。

 「コスプレが好きでね。若い頃からね。はじめは・・・・・・、なんだったかな。忘れちゃったけど、洋画系のガンマンとかから始まって、アニメ系もやったな。それが自然と女装にスライドしていってね。だって女子の服の方がキレイでしょう」

 そりゃ、そうだけど・・・・・・。心のなかでユミはあきれていました。それが「自然」なのかどうかもわかりません。

 「ナース、ボディコン、ハイレグ、ビキニ、巫女、十二単、色々なものを試したよ。日光江戸村で、衣装の貸し出しをやってて、お姫様の衣装を所望したら、さすがに係のくノ一の人が面食らっていたよ。『しまった。くノ一にすればよかった』って言ったら、完全に引いてたよ」

 ユミも絶句してしまいました。

 「ちょっと自慢していいかい」

 ダメです、とは言えませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る