第41話 弱み

 「どういうことですか」

 「あの場所、警察が囲んでたんだけど、君以外、誰もあの場所にやってこなかったらしいんだ」

 「Bosque」も含めて、ショッピングセンターは全店休業です。ユミ以外の人間を見逃すはずはありません。ユミは人間が死に絶えた後のようなショッピングセンターの光景を思い出していました。寄せ木細工のように様々なスペイン建築の様式が混じった外装の前でホワイト・デュークが立っているのも思い出しました。

 そこはひと気がなく、暗く沈んでいました。石畳の回廊、外国から持ち込んだ、異文化のいいとこどりをした、バブル期のハチャメチャででたらめな外装の前に立つゴスロリ服の老人、思い出すだに奇妙なものです。

 「だからね」

 ホワイト・デュークは続けます。

 「ショッピングセンターのまわりに人がいなかったってことは、コインロッカーのときしかないんだと思うんだ」

 「なにがですか」

 「なにがって、君の弱みを握る機会だよ」

 ユミは唾をゴクリと飲み込みました。

 「君は本当になにも気づかなかったのか。君が捕まったときとか、要らぬことをペラペラしゃべられたら困るだろう。だから、余計なことは教えないし、作戦が上手くいった後、警察に自首されでもしたら終わりだろう。だから、君にとっての痛点、弱みは握っておきたいんだよ。それを使って脅迫もできるしね。また受け子として使うか。直接金をゆするか」

 「だって、だって・・・・・・」

 今さらながらに、自分が恐ろしいことに手を染めようとしていたことに気づきました。身体が震えてなりません。

 「怖かったろうね。怒っているわけじゃないからね」

 「わたし、自首した方がいいですか」

 「だって、何もしてないだろう。それに自首したところで何も知らないんだから、協力できないしね。黙っていなよ。もう相手と連絡も取れないだろ」

 怖いから確認していませんが、きっとTwitterの相手のアカウントは消えているでしょう。

 「偉そうだね。ごめんね」

 さすがは短大の老教師です。若者の扱いには慣れています。とにかく、若者は無根拠に「自分が馬鹿にされた」と感じるのがいやなのです。実際にバカにしているかは関係なく、ちょっとした皮肉を言っても真に受けたりします。そういう機微をよく知っているのです。

 「それにあまり君のことを叱れるような立場じゃないんだよ、今の私は。娘にはこっぴどく叱られたし」

 危ないことをしたのを咎められたのだそうです。

 ホワイト・デュークは幼子に語りかけるような優しい口調で言いました。

 「薄々気づいてはいるだろう。私は警察と協力して一味を一網打尽にしようとしたんだよね」

 ホワイト・デュークは一度聞いた話をまた始めました。ユミは戸惑ってしまいました。

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