第40話 飄々
「はい。どちらさま」
電話の主は老人らしい、ゆったりとした口調で話し始めました。喉に何かがひっかかるような声だったので今日はあまり人と話していなかったのでしょう。
「あ、お電話をいただいたようなのでかけたのですが」
声を聞いて相手がホワイト・デュークだと、ユミは知りました。もっとも、かけるまえから予想はついていたのですが。
ホワイト・デュークは一度だまされかかったこともあり、慎重にユミの身許を確認しました。ユミに名前と住所まで言わせました。ユミはその要望のままに答えてから、「あの、先生からかけてきたんですよ。こっちが疑うなら分かるけど」とちょっと不満を言いました。
「形だけだよ。形だけでもやっておかないと娘に怒られるんだよ」
そうか奥さんには逃げられたんだっけ、とユミは声には出さずに心のなかで確認しました。
「警察まで呼んで変なコトしちゃったんだからさ。まさか自分の教え子が現れるとは思いもしなかったがね。大丈夫、余計なことは言ってないから」
「あのときのことをきちんと教えてくれませんか」
ホワイト・デュークはそれに応じて、経緯を説明し始めました。
緊急事態宣言が出てから、逆に振り込め詐欺が増加傾向にあるのだそうで。みなCOVID-19の感染リスクがある以上、一緒に住んでいないのならば家族の元には行けません。電話で安否を確認したり、連絡を取り合ったりする機会が普段より増えているのです。そこに乗じた詐欺が増えているのだそうです。
ホワイト・デュークの元にも電話がかかってきたのだそうです。すぐに詐欺だとわかり、警察に通報したのです。そして、警察に協力する形であのショッピングセンターにやってきたのだそうです。受け子をとにかく捕まえようという作戦だったそうです。ホワイト・デュークのもとにやってきた警察は、ホワイト・デュークに指示を出し、電話のやりとりをさせました。とにかく接触する機会を作るように、警察の指示の下誘導していきました。半日がかりだったそうです。犯人側も、こちらに怪しい点がないか、そしてカモを逃がさないように必死だったようです。
「やっぱり詐欺でしたか。薄々は分かっていたんですけど」
「君は気づかずにあそこに来たのか」
「はい。信じて貰えないかもしれないけど、待ち合わせ場所で荷物を受け取って、それを駅のコインロッカーに入れろって。一応荷物の中身も聞いたけど、『知らない方が良い』って。それで五十万円の報酬が貰えるはずでした」
「ふうむ。相手が誰かも知らずにか」
ホワイト・デュークは深い溜息をつきました。そして独り言のように「貧すれば鈍するだな」と呟きました。そのまま何かを考えているようでした。その間、ノイズだけが聞こえました。やっぱり出頭しろと言われるのかな、とユミは思いました。
「先生あの・・・・・・」
「いやね。それは逃げて正解だったかもしれないね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます