一見すると、まるで甘々のメロドラマのようにもみえる。これはこれで、読者をワクワクドキドキさせるであろう。
しかし、それだけなのか?
おそらく。・・この物語は『多層構造』になっている。
甘く愛らしい恋愛小説としての第一層。
娘は父親の所有物。奴隷、使用人、主人といった完全な差別世界。隔離された世界間では片想いすらあり得ない。そんな歴史的背景を垣間見せる第二層。
そして。ウィルスと人との、関係性やその歴史を匂わせるような、第三層。
じっくりと読んでみると、ひょっとして?と思わせる記述が点在するのだ。・・この物語は奥が深い?
・・いや。もっと気軽に恋愛物語を楽しめばよいのだ、それも正解でしょう。
・・たが、しかし・・
この物語は、そんな『偏屈な読み方』にすら応ずる懐の深さを持っている。
あなたは。
第何層まで潜れるだろうか?
古代ローマを舞台にした、じれじれもだもだすれ違いラブコメです。
身体の一部が獣化してしまう未知の感染症が蔓延り、感染者が差別されているという世の中。
現代のコロナ禍の状況にも通じる設定は、斬新ながらも身近に感じます。
しかし、重さは全くありません。
作者さまお得意の両片想いが楽しくて、さくさく読み進められるお話になっています。
純真そのもののヒロイン・ユリア、朴訥ヒーロー・ルシウスを中心に、勘違いからのすれ違い、どうしてそうなる行き違い、そこへ兄やら使用人やらも交え、拗れ絡れの立体交差。
何度「なぜだァァァァ!!」と悶え転げながら叫んだか分かりません。なぜだァァァァ!!(※いいぞもっとやれ)
当時の貴族文化の描写も詳細で、作品の雰囲気に華を添えています。
二人の想いが通じ合い、幸せな生涯が綴られるラストはとても爽やかで清々しく、心にじーんと沁みました。
感染症そのもの以上に、差別や偏見など、人の心が生み出す闇は深いものですが、それを乗り越えるのもまた人の心でしょう。
笑えて悶えてときめいて、そして現代への教訓も感じ取れる、素敵なお話でした。面白かったです!