4話 今日もまた【いじられる】

 俺は“いじり”は嫌ではなかったのだが、もうそれはいじりじゃないだろ、という『いじめ』に近いものものをされ続けていた為、ある日の放課後に担任の先生に相談をした。


「…それで、お前はクラスの一部の生徒に“いじめ”的なことをされている、と。」


「はい。でも、僕はいじられることは嫌ではないんです。して欲しいとかではないんですが。でも、最近は一部の人が完全に“いじめ”に近いことをしてくるんです。


「例えばどんなことだ?」


「好きな人を言いふらされ、本人の前ででもです。あとは、偶に物を隠されたり、恥ずかしいことを大声で叫ばれたり、です。」


「…あとは?」 「…え?えっと」


「黒瀬、お前それは“いじり”だよ。」


「…え?でも“いじり”って相手が嫌じゃないことですよね?でも僕は嫌だと言っても──」


「いやいや。暴力振るわれたのか?暴言吐かれたのか?物を隠されたにしても、そのままにされたり、汚されて返されたりしたのか?」


「…いえ、そこまではされて、ないです。」


「じゃあそれは“いじめ”じゃない。いじめってのはな。いまさっき俺が言ったようなことをいうんだよ。」


「そ、そうなんですか?」


「そうだよ。…はぁ。怖かった。あのな、黒瀬。先生が4年くらい前に教えてたクラスでも1回だけいじめがあったんだよ。でもな、その時いじめを受けてたやつは毎日暴力を振るわれたり、暴言を吐かれていたと言ってた。その時は先生が対処して収まったが…。」


「それなら、僕が今されてるのは“いじり”なんですか……。」


「そうだ。そんなに心配しなくても“いじめ”ってなぁ、そんな簡単に起こらんよ。」


「そうですか…」



 それで話は終わった。…つまり俺がされてるのは“いじり”の一環なのか。そうか。


 先生に相談して、これが“いじり”では

ないとお墨がついてしまったので、俺はもう“いじめ”ではないのだと疑わなかった。



 だが、俺の心はどんどんストレスを抱えていることが分かった。


 朝から何でいじられるのかが気になって仕方がなくなり、嫌なことを嫌だと言ってもやめることはないので、だんだんただ苦笑う表情をしながら我慢している。


 あれからも何度も「これはいじりなのか」

と疑うこともあったが、1度「いじめではない」

と言われた俺は、心で思うだけでそれ以上踏み込むことはもう無かった。


 親に相談するという手もあったが、親より先生の言うことの方が正しいと思っていたおことや、以前から親には俺は“いじられキャラ”であることを伝えていたこと、1度「“いじめ”ではない」と言われていたこともあり、これもまたそれ以上は無かった。




 『気持ち』は見えるものではない。そんなことは分かっている。別に、見えてほしいと思っているわけではない。


 でも、少しでも他人の気持ちを『分かってあげようとする』心は必要だ。気持ちは見えない。でも、分かろうとすればすぐに分かるものなのだ。


 

 もし、友達でも先生でも気づいてくれれば良かったのか。自分で動けば良かったのか。



そんなことを想いながら、今日もまた俺は






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みえないきもち 紫月 玖優 @minatsuki_06

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