第41話

「……神崎さん」

「なんだ」

「前に言ったこと覚えてますか。……ほら、あれ。神崎さんが漫画を描くように誘ったとき、わたし、言いましたよね。一回だけなら良いですよって」

「ああ」

「あれ、撤回しても良いですよ。どうしてもって言うなら」

「いやだ」

「え! ひどい」

「頭を下げるのはお前の方だ。どうしてもと頼むなら、手伝ってやらないこともない」

「わ、わたしだって恥ずかしいの我慢して言ってるんですから、その辺は汲んでくださいよ」

「知らん。手伝って欲しいなら頭を下げろ」

「うう……。な、ならわたしだって、手伝わせてほしいならそっちが頭を下げるべきだと思いますね」

「ふん。すぐにそっちから泣きついてくるだろうさ。……それはそうと荻原。お前、結局あれはどうしたんだ」

「あれって?」

「タイトルだ。投稿した漫画のタイトル。最後まで決めてなかっただろ。お前がギリギリに決めた」

「ああ……。あれは、えっと………………にしました」

「……ま、悪くはないな」

「あ。それ、一緒ですね。漫画の彼のセリフと」

「別に。たまたまだ」

「覚えてたんですね。それだけ読んだからかな」

「たまたまだと言ってるだろ。ええい、にやにやするな。気持ち悪い!」

「神崎さん。照れてます?」

「照れてない」

「やっぱり照れてる! ふふ。変な顔ですよ!」

「黙れちんちくりん。おい、待て。写真を撮るな。消せ!」

「頭を下げて頼むなら消してあげます」

「死んだほうがましだ」

「そ、そこまで言います……? あ、それじゃあこうしましょう。わたしのお願いを一つ聞いてくれたら、消してあげます」

「話だけは聞こう」

「はい。……それじゃあ言いますよ」

「ああ」

「……」

「なんだ。早くしろ」

「わ、わかってますよ。えっと、その……また、手伝ってくれますか。わたしの漫画作り」

「……」

「……あの、何か言ってくださいよ」

「……だけならな」

「え?」

「一度だけなら、手伝ってやるぞ」

「ケチです。それ」

「ふん。お前もな」

「ま、いいですけど。今回はそれで。……それじゃあ、よろしくお願いしますね」

「ああ」


 荻原の作った漫画。タイトルは『アイワナビー!』という。──私は、なりたい。何に? それはまだわからない。けれど、きっと何かを目指して歩き続けている。僕も、こいつも。そして歩き続ければいつか、どこかには辿り着けるはずだ。いや、歩き続ける道の中に答えはあるのかもしれない。とにかく今はどこかにあるその場所を目指して、進み続けよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アイワナビー! ぽんぽこ太郎 @poopoppop

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ