第7話 手をつないでもいい  

 息子が小学校を卒業した春休み、私と息子と2人で、東京ドームへ野球観戦に行った。一塁側の内野席で、巨人と西武のオープン戦だった。


 私は初めてのドーム観戦で、よくわからないまま、ドームに入っていった。ファンサービスのために、ルーキーが立っていて、ハイタッチをしてくれた。


 私と息子はわくわくしながら、座席についた。選手たちはもう練習を始めている。その様子を見ながら、私と息子はお弁当を食べた。


 試合が始まった。ドーム全体が興奮につつまれ、大きな応援の声、楽器の音、応援歌が響きわたった。ものすごい迫力だ。私と息子は圧倒されて、一緒になって応援した。


 試合は巨人が負けてしまったが、とても楽しかった。息子も私も、試合の興奮覚めぬまま「楽しかったね」とお互い言いあった。


 試合が終わって、水道橋へと人の流れが混雑してきた。


 その時私は息子に聞いた。


 「手をつないでもいい」


 「いいよ」


 私は息子の小さな手を握った。あたたかい手だった。


 それが、息子と手をつないだ最後だった。


 それから約半年後、私は家をでることになる。


 まだ小さかった息子の手のぬくもりを私は忘れない。


 息子は忘れてしまったかもしれないけど、私は忘れない。


 あの楽しかった野球観戦を。2人で何度も「楽しかったね」と言い合ったあの日を。


 読んでいただきありがとうございました。



 

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夢のBカップ 有間 洋 @yorimasanoriko

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