予防接種の待合室

カゲユー

予防接種の待合室

「おせちに入っている栗きんとんに込められた意味を知っているか」

「金運上昇だろ。黄金色の見た目を金塊とか小判に見立てているかららしい」

「じゃあ伊達巻はーーー」

「それはーーー」

 今年頭から流行している病のワクチンが先週ようやく完成ししばらくが経ち、俺たちのような庶民でも予防接種できるようになった。混雑を避けるためわざわざ仕事を休みド平日の昼間にきたのだがそれでも待合室は老若男女で溢れている。

「おいおい、もう行事の際に食べる料理の意味と由来一年分知りつくしちゃったじゃねーかよ。それなのに呼び出し番号がまだ『263』てのはどういうことだよ」

『452』と書かれた紙をひらひら振るこいつは同僚。俺と同じことを考えてたようでこいつもこの時間帯に予防接種をしにきたようだ。長い待ち時間の暇をつぶすためさっきからずっとどうでもいいことを話し合っている。「しょうがないさ。今回の予防接種はいままでみたいに注射でチクリ、とはいかないんだから」

 今までのワクチンにあったのかは知らないが今回のワクチンには’’鮮度’’があるらしい。鮮度が悪くなったワクチンには微塵も効果がない、そのためすでに感染した者から抗体を抜き取りすぐに打たなければいかないのだが……。

「感染者がまた拘束具を引きちぎったぞー!!」「はやく新しいやつを持ってこい!!」

 今年の流行り病、通称’’火事場錯覚病’’は普段抑えられている身体のリミッターが常時解放され女子供でも大の大人を持ち上げられたり世界レベルの走力を出せるようになる病気だ。一見いい病気に思えるかもしれないが、この病気は常に物事を人間の百パーセントの力でしか行えなくなる病気なのだ。しかもたちの悪い幻覚も見えるようになり感染者は常に錯乱状態にある。そのため暴走した感染者が作った破壊の爪痕、被害者が絶える日はない。世はまさに世紀末一歩手前だ。

「だけど我が組織の先を考えないテロリズムには困ったもんだぜ」

「細菌兵器作っといてワクチンは他任せだもんな。画竜点睛を欠くってのはまさにこのことだ」




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