Ooh ! Oh!

naka-motoo

WAR!

 戦いが日常であるという生活。


 異常が日常となっている世界。


『今朝、東京23区に第458回目の空襲警報が発令され且つ攻撃が実施されました。焼夷弾が計4,762発投下され確認されているだけで死者357人、負傷者1万3,201人、行方不明多数となっております。都は自衛隊の出動を要請しましたが先週一週間での殉職者累計が1,843人となっており、防衛省は防衛行為以外への隊員投入を拒否。救出は難航を極めています』


 疫病に端を発した国際競争力の反転によって途上国が労働力輸出等により先進国を凌ぐ貿易黒字を実現。

 獲得した外貨により油田・炭田開発を進めようとしていたところ、これまでに公表されていた石油・石炭等の化石燃料の採掘可能年数が産油国と先進国による捏造であったことが判明。

 したがって戦争に使用できる燃料は極力自然エネルギーによるものとされ、少ない燃料で使用可能な焼夷弾等が『エコ兵器』として使用され、攻め込んでくる途上国からの攻撃を甘んじて受けている。


 少子高齢化の進んでいた日本は戦闘員の確保もできず、政府は『一億総活躍』と称して後期高齢者の徴兵も検討したが、先月の総選挙で大量票を持つ高齢者層がこぞって徴兵制に反対、与党の支持率が一桁台に急落したために断念した。


「どうなるのかな」

「わかんない」

「いきのこれるかな」

「知らないよ!」


 わたしと向かいの家のアンドが通う高校は開戦時から間引登校となり、わたしとアンドのグループは自衛隊員の戦闘服を縫製する『ボランティア要員』として作業に当たっている。


「昔は奉仕隊って言うたのさ」


 辛うじて大戦を知ってるひいばあちゃんが教えてくれた。


「今朝の空襲で生徒3名が亡くなりました。黙祷します」


 校長の号令で作業に入る前に30秒だけ黙祷する。

 時間が惜しいし、いつまた焼夷弾の投下を受けるかわからない。


 焼夷弾はドローンで投下される。

 海を渡ってくる必要もない。


 途上国から普通にオーダーと割増のレンタル料金の支払いを受けて、普通の『商取引』として爆撃用のドローンをチャーターする国内軍事コンサルタント企業がある。


 なぜ?


 経済が一番大事な世界だから。


 命よりも道義よりもカネが優先だから。


 午後の作業が始まってから10分と経ってなかった。


『緊急空襲速報、緊急空襲速報、間も無く大規模なドローン編隊が23区上空に到達する見込みです。頭上に注意し、強い熱風に備えてください』


 緊急地震速報のシステムをそのまま使った空襲速報システム。


 アラーム音の長さと音の大きさとで、これまでで最大規模の投下だろうと予想された。


 もっともその空襲の情報も軍事コンサルタントどもの自作自演なんだけどね。


「アンド!逃げよ!」

「う、うん!」


 隊列を組むこともない。


 自己責任だから。


 縫製作業をしに来るのも『ボランティア』なんかじゃない。


 来ないと、食糧の配給が受けられないから。


 必死に作業をするのも勝つためじゃない。


『考課』を受けて食糧の配給量に差が出るから。


 バカだよね。


「整然と歩け!」

「知るか!バカ!」


 わたしとアンドは自分たちの責任と判断で退路を選択し続けた。


「あ、アンド!あぶない!」

「うわっ!」


 わたしはアンドの頭上に落ちてきた焼夷弾をネコババしてきたモップで打ち落とした。


「行くよ!」

「シラン!どこへ!?」


 わたしはじいちゃんが聴いてた歌のタイトルを思い出した。


「神田川!」

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