幼馴染を娶りました  〜後日談〜

 あの日から十年と言う月日が過ぎていた。

 もう結婚しているのかって?

 してないよ。

 本当は高校卒業を機に婚姻届を出そうと思ってたんだけど、「お互いちゃんと稼げるようになってからじゃないとしたくない!」って紫乃に言われちゃったよ。

 別に婚姻届ぐらいは出してもいいんじゃない?って思ったんだけどこういう所はしっかりしてるんだよね。

 紫乃には頭が上がらないよ。


 最近の悩みはそうだな、紫乃が可愛すぎて困る事かな?

 いや、これはあの日からずっと持ってる気持ちの一つだな。


「かなくん? 何ぼーっとしてるの? 考え事?」


「うん。ちょっと昔の事考えてた」


 かなくんと言う呼ばれ方になったのは紫乃に「みんなと一緒の呼び方なんて特別感ないから嫌だ!」なんて言われて駄々を捏ねられたから、「じゃあなんて呼びたいの?」って聞いたら満面の笑みで「かなくん!」だってよ。

 

「何考えてたの?」


「うーーん、紫乃が可愛すぎるって事かな? 後は毎日紫乃への好きって気持ちが膨れ上がってる事とかかな」


「も、もう! そんな事言って。私もかなくんの事大好きだよ? むぎゅうう」


 声に出しながら抱きついて来る紫乃。

 ね? 可愛すぎるでしょ?

 

「スゥーーーはふぅぅぅ」


「また匂い嗅いでんの? そんな良い匂いかな?」


 紫乃は匂いフェチなのだろう。

 高校時代からその兆候はあったのだが今となっては毎日のように嗅いでいる。


「かなくんエキス充電中でーす♡」


 はぁ、なんでこんなに俺の彼女は可愛いんだろうか。

 でも、俺の彼女でいられるのも後一時間もないんだけどね。


「かなくん。もうすぐだね」


「あぁ、そうだな」


 察しの良い者ならもう気付いているかもしれないが入籍と結婚式を同日に行う事にしている。

 それが今日と言うわけだ。


「もう、かなくんエキス充電出来たかな?」


「うん! 今日からかなくんのお嫁さんかぁ♡」


「はいはい、準備するよ」


「ぶぅぅぅ、かなくん冷たいなー。わふっ!?」


 たまに見せる拗ねた顔が可愛いんだよ。

 だから、俺は意地悪しちゃうのかな?

 ぎゅぅっと抱き締めて頭をよしよしと少し乱暴に撫でた。


「かなくん! 不意打ちはズルだよ!」


「不意打ちされる方が駄目なんだよ?」


「かなくんの意地悪!!」


「うん? ならもうやって上げないよ?」


「そ、それとこれとは話が違うの!」


 紫乃の可愛さが世界三大美女をも優に超ている。


「じゃあ、家に帰ったら続きしようね?」


「あ、う、うん」


 ボンっと顔を真っ赤にさせて俯いた。

 いちいち可愛いのが辛いんだよなぁ。


ーーーーー


「ど、どうかな?」


「き、綺麗だ」


 紫乃のウエディングドレス姿があまりにも綺麗で紫乃に惚れてしまった。

 元々惚れていたのだが更に惚れてしまってもうどうなっているのか分からない。

 普段の紫乃はどこか幼さが残っているのだが、今は大人の色っぽさがある。

 最早反則だろう。


「か、かなくんもカッコイイよ」


「そ、そうか? ありがとう」

 

「ふふっ、もう付き合って十年近く経ってるのにまだ慣れないね」


「そうだな、どんどん可愛くなってるから慣れないんだよな」


「もう、そう言う所だよ!」


「うん? 何が?」


「何でもない!! かなくんのバカ!」


「え!? なんで!」


ガチャーーーー


「新郎様、入場の準備をお願いします」


「は、はい! じゃあ、先に行って来るね」


「うん! 頑張ろうね!」


 俺はロボットダンス世界一の如くぎこちなくその場を後にした。


ーーーーー


「新婦の入場です」


 顔をベールに覆った紫乃が歩いて来る。

 俺はそのあまりにも美しい姿から周りの音が聞こえなくなり、人が見えなくなってしまった。

 しかし、紫乃の横を歩いている義父お父さんだけはしっかりと見えている。

 何故かって?

 鬼がそこにいるからだよ。


 紫乃と同棲するために了承を取りに行ったのだが、娘を好き過ぎる義父に俺は胸倉を掴まれ頬に拳が飛んできた。

 紫乃と義母に宥められていたのだがなかなか許しをもらう事が出来なかった。

 だが、誰にでも弱点はあるもので紫乃が「お父さんとはもう喋らないから!!」と怒鳴ったら顔面蒼白になっていた。

 数十分の静寂ののち「分かった」と言う了承を得る事が出来た。

 最後に「娘を幸せにしなかったら殺すからな」と、脅されてしまった。

 だから、「当たり前ですよ」って言ってやった。


「新郎奏多、あなたはここにいる紫乃を病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


 遂にこの時が来たんだな。

 紫乃と正真正銘の夫婦になる時だ。


「はい、誓います」


「新婦紫乃、あな––––––––」


「は、はい! 誓います!」


 紫乃さんや、焦りすぎです。

 

「それでは指輪交換です」


「あ、あれ? 入らない。ふん!」


 紫乃さんや、手が痛いです。


「それでは誓いのキスを」


「んっ、あ! 痛!?」


 紫乃さんや、勢いが強いよ。


ーーーーー


「うぅぅぅ、失敗しちゃった〜」


 その後もいろんなアクシデントがあったものの無事に結婚式を挙げることが出来た。


「あれも良い思い出じゃない?」


「かなくんは良くても私は嫌なの!」


「ならさ、もう一度誓いのキスする? 二重掛けだよ」


「キ、キスってちょっと恥ずかしい」


「紫乃」


「わ、分かったよ! んっ」


 紫乃が目を瞑り顔を此方に近づけて来る。

 紫乃の唇に俺の唇を優しく被せる。


「「チュッ」」


  紫乃の唇は甘くて幸せの味がした。

 

「んふぅぅぅ、かなくんの事絶対離さないからね?」


「それはこっちのセリフだよ」


「あ、これからはかなくんじゃなくて、。かな?」


「うっ」


「あれれー? かなくん、顔真っ赤だよ? どうしちゃったのかなぁ?」


「もう分かってるだろ? 照れてるんだよ! 紫乃が可愛すぎるから!!」


 俺たちは今日と言う日を一生忘れることはないだろう。

 だって、こんなにも心が満たされているのだから。

 

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幼馴染を救いました ちょこっと @TSUKI_754

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