第5話 一日の友達

ここは田舎だ。

いや違う。

ド田舎だ。

年に1回ある唯一の楽しみの夏祭りも無くなり、親戚も来ない。

いつものおばちゃんの駄菓子やで一人えびせんを食べる。

ふと気配を感じると女の子がこちらを見ている。

着ているものから都会の子である事がわかる。

チラチラとこちらを見ている、僕には日常の駄菓子屋があの子にとっては

珍しいのか、入りたそうにウロウロしはじめる。

僕は仕方なく声をかける。

「早く入ればいいじゃん、怖くないよ」

「ここ入っていいの?」

「いいに決まってるよ。お店なんだから」

女の子が恐る恐る入るとともに目を輝かせる。

「うわー凄い!これが駄菓子屋ってところね」

女の子にとって初めて見る光景なのだろう、やっぱり都会っ子だな。

「君は駄菓子屋に来るのは初めて?」

「うん、あ、初めまして私『ミキ』っていいます。用事があって今日の夜まで

 ここにいます。丁度夏休みだし夕方まではゆっくりできるの、よろしくね」

「僕は正樹、よろしく」

「正樹君今日は暑いね、私の住んでいる所よりかは涼しいかもしれないけど汗かいちゃった」

「じゃあかき氷たべる?おばちゃーん!かき氷のイチゴ2個ちょうだい!」

僕が声をかけるとおばちゃんは氷柱を取り出して切り始めた。

古い代からの使っているらしく珍しい物だ。

また、ミキは目を輝かせる。

「映画で見た昭和時代のかき氷製造機ね!凄いなぁ」

ミキ今は令和だ、僕の中ではこのかき氷が現役なのだ。


「はい、かき氷イチゴ2つね」

おばちゃんが持って来たかき氷をミキは恐る恐る口に入れる。

「うわー、氷がフワフワして美味しい!家の製造機と全然ちがう!」

ミキはパクパクと口の中に氷を運ぶ、

あ・・・そんなに食べると・・・

「痛たたた・・・」

やっぱり・・・かき氷頭痛だ。ミキのスプーンからかき氷が落ち

熱いアスファルトに落ち消えていった。

「慌てて食べるからだよ。かき氷は消えないからゆっくり食べなよ」

「でもこの暑さよ、正樹君のかき氷も溶けかかっているよ」

気付けば結構溶けている。溶けた水分をジュースの様に飲んだ。

「痛い!」

注意しておきながら僕も頭が痛くなる。

心配そうな顔をしたミキはやがて笑い出す。

「正樹君も同じじゃない。ふふふ」

その笑顔に僕も笑い出す。

「かき氷っていうとお祭りを思い出すなぁ」

「そうだね、今年は無いけど神社でお祭りをするんだよ」

「へーそうなんだ!見てみたいぁ」

「来年はあるのかまだわからないけどね」

「そう言えば、友達が金魚すくいをして大事に育てたら鯉みたいに大きく

 なったの。あれにはびっりしたわ」

「凄いな、見てみたいな大きな金魚」


気付くと役所の「帰りの音楽」が流れる。

もう帰らなければいけない。

「あ・・・」

ミキが悲しそうな顔をする。

「帰らなくちゃ・・・」

「そうだね」

ミキが立ち上がる。

「正樹君、今日はありがとう。楽しかったよ」

「僕もだよ」

「またね!」

ミキが走り去っていく。

またねか・・・

今日で帰るのに口癖なのかミキは帰っていった。


次の日、駄菓子屋に来るがミキはいない。

まるで昨日のアスファルトに消えたかき氷の様に誰も居ない。

「おばちゃーん、えびせん1枚取るよ」

えびせんを食べるとミキが来るようなそんな気がしたがそんな事は無かった。



平凡な夏休みが終わり、新学期。

先生とともに女の子が入ってくる。

あれは・・・

「えー、今日から新しい友達が増える。さあ、自己紹介を・・・」

ミキだ・・・

「初めまして!今日からこの学校に来ました『三木 幸子』です。よろしくお願いします」

ミキは名前じゃ無くて苗字かよ!と心でツッコミを入れる。

ミキはこっちに気付き手を振る。

「あー!正樹君同じクラスだったのね!」

「なんだ、三木さんは正樹と知り合いだったのか?」

「はい、下見に一日ここに来た時会ったんです」

「そうか、じゃあ三木さんは正樹の隣の席に座りなさい」

「はーい」

ミキ・・いや三木は僕の隣の席に座る。

「これからもよろしくね」

「ああ」

何も無い素振りを見せたけどきっと笑顔がこぼれているだろう。


楽しく過ごしていける、みんなにとっては「1日目」だけど、

僕にとっては既に知り合いという気持ちで嬉しかった。


そして、あの時の「一日の友達」は「これからも友達」になっていくのだから。

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多色多彩の栞 飯田橋諭 @satosi_iidabasi

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