第47話・アクターズ
「お助けください! 私たちの村が魔獣に襲われているのです!」
通りすがりの2人パーティーの前に現れたのは、村娘風のプレイヤー。
挙動から察するにNPC(ノンプレイヤーキャラクター)ではなく、裏で人間が操作しているプレイヤーアバターのようだ。
「なんだこれ」
双刀を背負った中華風のアバターが首をかしげた。
「知らねーのか? そうかそうか、まあとりあえず乗っとけ」
大剣持ちの相棒が双刀持ちをたしなめる。
「村はこちらです! 早く!」
「おっとそうは行かねーぜ! テメェらはここでおっ死ぬ運命なんだからよ」
すかさず物陰から魔物っぽいコーデのプレイヤーが数名現れた。
「さすが展開早いな」
「なんだこれ?」
事情を知らない中華風戦士は事態を
「戦闘だよ。いいから剣を抜け」
ドテボキグシャ。
あっさり勝てた。
「動きは修羅級っぽいのに弱い……?」
勝ってもキツネに化かされたような感覚しか残らない。
「さっさと行くぞ」
大剣持ちは村人の前に出て先を急ぐ。
「…………回復してる?」
中華戦士がふり向くと、村娘がこっそり倒れた魔物(っぽいプレイヤー)たちに蘇生魔法をかけていた。
そして何食わぬ顔で指を差す。
「見てください! 捕まった村の人たちがあんな目に!」
村の広場でボロボロの服を着た人間たちが、船の巻き上げ機のようなモノをグルグル回していた。
逃げ出そうとする村人をムチでしばく魔物(っぽい何か)。
「おとうさ~ん!」
ムチで叩かれている人の家族らしい子供が、わざとらしく棒読みで泣いていた。
「え~ん、え~ん」
「うわはははは! 泣け! わめけ!」
などと言いながらも、魔物は子供に何かのチケットを渡している。
「この村は我らが秘密結社【マジュッカー】が占拠した! 言う事を聞かないヤツはムチの餌食だ~っ!」
叫んでいる魔物の視線を辿ると、そこには体育座りしている幼稚園児が大勢いた。
人質というより観客のようにしか見えない。
「あっ……俺これ知ってる」
昔懐かし遊園地のヒーローショーだ。
「我らマジュッカーは幼稚園バスを襲いダムに毒を流す計画である! それまで人間どもは何だかよくわからないモノをグルグル回しているのがお似合いだ~っ!」
よく見ると村の建築物はすべて一枚絵の描き割りだった。
子供たちの後ろにある幼稚園バスくらいは3Dで作って欲しいものである。
「ああっ大変!」
ここぞとばかりに魔物たちの前に駆け出す村娘。
「こうなったらニャンターズを呼びましょう! ニャンターズ~~~~っ‼」
「「「ニャンターズ~~~~っ‼」」」」
復唱する子供たち。
「おい何で俺たちのパーティー名知ってんだ?」
「事前調査済みってとこか。さすが称号持ちクランだけはあるな」
「クラン……称号持ちだって⁉」
そういえばネットのどこかで読んだ記憶がある。
あれは確か――
「いいから行くぞ! 俺たちの出番だ!」
大剣持ちは魔物たちのいる舞台に飛び乗る。
「悪を裁くは正義の心! ニャンターズアイアン!」
戦隊ヒーロー風のモーション入力で決めポーズを取る大剣持ち。
「えっ俺もそれやるの?」
「やるんだ!」
「わかった……激辛カレーは俺の魂! カレー好きでも心は真紅、ニャンターズレッド!」
コマンド入力を間違えてダンスを踊ってしまい、
それが返って特撮ヒーローっぽい名乗りになったのは怪我の功名である。
「ふたりはニャンターズ!」
ちゅど~ん!
ポーズを決めると、背後に派手な爆発エフェクトが入った。
ハリネズミのような煙のツノが美しい。
最終回もかくやと思わせるほどの火薬量であったが、攻撃扱いではないのでダメージの心配はない。
「出たなニャンターズ! 出会え、出会え~っ‼」
2人の前に戦闘員風の魔族風プレイヤーが現れた。
側転すると1人が2人、2人が3人と増殖する。
最終的には6名に増えた。
分身モーションではなく、本当に6人のプレイヤーがいるらしい。
「
どうやって5人も隠していたのか、仕掛けが知りたいところである。
「イィーッ!」
「イーッ!」「イーッ」
戦闘員のかけ声はイーと相場は決まっている(ただし昭和)。
「攻撃入力は使うな。モーション入力で戦うんだ」
大剣持ちは背中の武器を抜かない。
「何で?」
「対戦扱いになったら相手の声が聞こえなくなるからだ!」
「つまり戦うフリをしろって訳ね……」
大変な茶番になったと
「とうっ!」
ダンスモーションで
「イーッ!」
ぶっ飛ぶ戦闘員。
「たあっ!」
負けじと体操モーションでキックをかます中華戦士。
「イィーッ‼」
戦闘員が3人まとめて吹き飛んだ。
「あいつら復活してね?」
倒れるそばから避難して、舞台袖から再び襲撃して来るのだ。
「劇なんだから当然だろ?」
「いつまで続けりゃいいんだ……」
その終わりは突然やって来る。
「やるなニャンターズ……だが我々にも切り札があるのだ! 出でよタイガドラゴン!」
建物の陰から巨大なサバトラ柄の竜が現れた。
トラなのかサバなのかドラゴンなのか、はっきりして欲しい。
「ドラゴン⁉ しかもデカい!」
「恐れるな! アレで決めるぞ!」
「アレって何だよ」
「合体技だ!」
「おう……あれか」
2人が左右対称のモーションを入れると巨大な大砲が現れた。
街の広場で大道芸をするために購入した複数名向けモーションMODである。
「ニャンターバズーカ!」
バズーカなのに光線が出た。
「ぐわああああああああ~~~~~~~~っ‼」
爆発四散するタイガドラゴン。
バラバラボトボトと飛び散るは肉片……ではなく、魔獣っぽい大盾を持ったプレイヤーたちである。
「あいつ集合体だったんだ……」
思わず感心する中華戦士であった。
「これが最後のタイガドラゴンと思うなよ」
頭部は1人のプレイヤーが担当したいたようで、首の切断面(?)から両足が生えている。
「人間に悪の心がある限り、第2第3の……ガクリ」
「ああっタイガドラゴンが! おのれニャンターズ、覚えていろ!」
人質の子供を放り出し、逃げ去るマジュッカーたち。
「ありがとうニャンターズ!」
ここぞとばかりに駆け寄る村娘。
「これで村は救われました! さあ、みんなもお礼を言いましょう!」
「「「ニャンターズありがとう!」」」
声を揃える子供たち。
「ありがとうニャンターズ! ありがとう!」
そこで村娘はフッと消え去った。
「幻惑魔法⁉」
どうやらニャンターズが気づかぬうちにアバターを移動させ、幻だけを残していた模様。
「いや
戦闘中は使えない制限つきモーションMODである。
気がつけばバラバラになったタイガドラゴン担当者たちもいなくなり、村を構成する書き割りも次々と消滅していく。
森の広場にポツリと残されたニャンターズの2人。
「何だったんだあれは……?」
「劇団アクターズ。【ワンダーランド】の称号持ちだ」
元は引退したスーツアクターの集団だったらしいが、小劇団やアクセサリー職人と合流し、総勢50名ほどの大規模クランを結成したとネットに噂が広まっている。
演目は今回のようなヒーローショーに留まらず、オペラやミュージカル、果ては時代劇にも及んでいるとの話だ。
狙いを定めたプレイヤーたちの前に突如現れ、茶番劇に巻き込んでは去って行く。
魔法や剣戟の手腕から見て、団員のプレイヤーランクは超羅刹級を筆頭に、ヒラの平均が修羅の竹級といったところか。
「称号は団長のジルバンが持ってるが、彼はメンバー全員で称号持ちだと豪語してるらしい」
「団長? さっき子供を人質にしてた奴か?」
「いや村娘の方」
「……彼って言ってたよな?」
「ああ男だ」
「女声だったぞ⁉」
「だが男だ。ボイスチェンジャーは一切使ってない。他にも声帯模写で鳥や動物など多彩な演技をこなすらしいぞ」
称号持ちにふさわしいバケモノぶりであった。
「しかし何で劇なんだ? ゲームなのに」
「面白いからだ!」
胸を張って答える大剣持ち。
おそらく今回のヒーローショーは、アクターズによって生配信されている。
大剣持ちも収録した動画を公開するつもりだった。
「強さを求めるばかりがゲームじゃない。だからヘスペリは面白いんだ」
「なんか対戦って気分じゃなくなったな」
「俺もだ。街の広場でモーション漫才でも
ニャンターズの得意技は、多種多様なモーションを使った演舞である。
「そうだな。芸を
称号持ち集団は手際と段取りが凄すぎた。
ぜひ参考にしたい。
「……ひょっとして俺たちスカウトされた?」
「それなら去り際に勧誘メッセージを残すだろ」
「そっかー。じゃあ
数週間後、ニャンターズは分身MODを使った演舞で、南東エリアの話題を独占する事になる。
彼らがアクターズに入団するまでの紆余曲折は、また別のお話で。
超魔王ランチュウ 島風あさみ @asami9223
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。超魔王ランチュウの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます