後日談5 王族を甘く見るなよ

基本的に後日譚は、続編『婚約から始まる物語を、始めます!』にて、描く予定のない話を後日譚とし、前作である此方に投稿しております。主に後日譚の話の内容は、現在更新中の続編を読んだ後、理解できる内容となっておりますが、そこはご承知願いたいと思います。



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 「一体これは、どうなっているんだよ。もしかして俺も、転生とかいうやつをしたのかな…」


前世らしき記憶を思い出し、自分は頭がおかしくなったかと、混乱した。一体何をどうすればこうなるのか、誰かの首根っこを捕まえ、洗いざらい吐かせたい気分にもなる。まだ幼い幼児が、何かできるはずもなく。


いつから気付いたのか、定かじゃないけれど…多分、生まれた後徐々に思い出していったのでは、なかろうか?…それが自分の過去の記憶だと、ハッキリ気付いたのは、今なんだろうけど。そういえば、生まれて間もない赤ん坊の頃から、不思議な記憶があったなあ、と…。


…夢や妄想、幻想という類じゃないと、何となく分かった。あの記憶は、あまりにも生々し過ぎるからな…。今は、過去の世界の自らの記憶で、現実に生きた俺の人生の証と、言えるのかな……


まだ言葉も操れぬ頃に、周りの人間に自分の意思を伝えるのは、容易なことではなかった。身振り手振りという体の動きで、何とか意思を伝えたものの、この子供は天才と言わしめる結果になる。国の皇族達が親バカぶりを発揮し、俺を可愛がるとか夢にも思わず。


次第に俺は、自分の置かれる環境が特別だと、知らされた。平民でも只の貴族子息でもなく、王族の一員だったとは。俺が国王の息子だなんて。前世で何か犯したっけと思うぐらい、身分だと頭を抱えたい。


 「サミュエルバンス王子殿下には本日から、カルテン国の歴史を学んでいただくことになります。因みにライトバル王太子殿下は、10歳までに全てを学び終えられております。第二王子殿下も同様に、お出来になることでしょう。」


王太子でもある兄上は、本物の天才だと断言できる。俺は単に、前世の記憶を持つだけだ。兄上を見ていると、やはり本物の王子さまは凄いな…と、思わせるだけの能力を持っている。だから俺がいくら学んだところで、兄上には決して及ぶことはないだろうと、思っていたけれど。


 「第二王子殿下も剣の腕前が、メキメキ上がっておられますな。王太子殿下の剣の腕前は、中々の上達ぶりでしたが。第二王子殿下の腕前も、王太子殿下に決して負けておられませんぞ。」

 「それでしたら学業の方も、王太子殿下に引けを取らない、秀才ぶりを発揮されておられますな。」

 「もし、王太子殿下の身が、第二王子殿下がご存命をなされるうちは、我が国は安泰ですかな。」


如何やら俺も其れなりに、王族らしい能力を持っていたようだ。但し、俺を公に褒める者が増えれば増えるほど、貴族達の忠誠心も分離させ兼ねない、危うい状況に陥ることになる。要するに、王太子派と第二王子派の派閥に、貴族からの支持が別れてしまう。最終的には王位継承権の問題に、発展させていくことに……


 「…お~い、物騒なことを言うなよ。王太子同様、第二王子も優秀だと褒めているようで、実際は…王太子派ではない者達が、第二王子が王位を継いでも良いと、第二王子派の者達が俺を担ぐつもりか…」


このまま兄上が国王に即位すれば、純粋に兄を支持する貴族を除き、支持しない者達には面白くないだろう。隣国王女と政略結婚した兄上は、正妃である王太子妃と極めて良好な仲の上、側妃は娶らないとまで宣言している。兄上は貴族に任せず、自ら率先し政治に口を挟むし、貴族達にも一切隙を見せないからな。


俺の母親は側妃で、曖昧な地位にいる。母上はカルテン国の貴族令嬢で、母上の実家も伯爵家という、特段身分も高くなく低くもない。だからこそ母上側に取り入れば、甘い汁を吸えると考えているだろう。俺が王太子に選ばれれば、将来間違いなく国王となる。そうなった時、真っ先に自らの娘や孫を、俺の正妃や側妃に嫁がせようとするはず。大人しい俺になら、自由に操れるとでも考えたのだろう。


 「私は国王になりたいとは、一度も思ったことがない。今のカルテンには兄上より優秀な王族は、存在していない。私は兄上かれを押し退けてまで、王となる気は更々ないのだよ。それに…兄上かれを敵に回すのは、得策ではないからね…」


貴族達が本格的に担ぎ出す前に、俺は王位に興味がないのだと、貴族が俺を褒める度に何気なく言い触らす。王族という地位を、この上なく面倒と思いつつ、本音を隠した。兄上を押し退けるどころか、国王には絶対になりたくない。もし…実際に兄上を敵に回そうものなら、即位する前に内乱が起きるだろう。


 「あの兄上を本気で敵に回せば、俺か兄上のと、そのぐらいには覚悟が必要になるだろうな。間違いなく、俺の覚悟が…。兄上を敵に回す気もないけど、それは怖…じゃなく絶対に避けたい。平和な世界にいた俺には、戦争なんて重責過ぎる。平和が一番だ…」






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 「何か問題が、起きたのか?」


王宮の緊迫した異様な雰囲気に、国王陛下の父上よりも先に、俺と側妃である母上は気付いた。何時も通り王宮の鍛錬場で、俺が鍛錬していた時。王太子宮からバタバタと走る、侍女の足音が聞こえた。その後、使用人達の騒がしい声も。


 「…いいえ、何も伺っておりません。聞いて参りましょうか?」


普段と異なる様子に俺も気になり、後ろに控える護衛騎士に問うた。彼も何も知らないらしく、状況を確認しに行ってくれる。しかし、数分後に戻って来た彼の様子は、どう伝えるべきかと悩む風で。


 「…サミュエル様、お待たせ致しました。王太子宮の侍女達が、王宮医を呼びに行ったようです。何でも…王太子妃様が突然、お倒れになったそうです…」

 「……えっ?!…ユーリお義姉様あねうえが、お倒れになった?…父上と兄上はまだ会議中のはず…」

 「…はい、そのようです。」

 「…やれやれ、。これは、大変な事態になりそうだ…」


俺はすぐさま鍛錬を止め、自室へ戻ることにした。父上や兄上も単に執務中であるならば、直ぐにでも連絡が入っていただろう。但し、今は月に1・2回開かれる、国の重要な政務に関する会議中であり、例え妻に起きた一大事でも、肝心の兄上どころか父上にも、国の一大事以外の報告は遮断される。


側妃の子である俺には、特に何もできることはないが、王太子妃の一大事を平気で見過ごすなど、俺にはできなかったのだ。要するに俺は、他人事のように見て見ぬふりをするのが、嫌だったのだろう。


 「…あらっ?…今日は何時いつもより早く、鍛錬を終えられたのね。サミュエルの耳にも、入りましたの…?」

 「…はい、母上。ユーリお義姉様あねうえがお倒れになったと、伺っております…」


俺が自室に戻って直ぐ、母上は俺の部屋を訪ねて来られた。今はまだ母上の部屋の近くに、俺の部屋は置かれているけれども、俺が10歳とおを過ぎる頃には、母上と過ごす時間も徐々に減っていくだろう。


 「…母上はそうなられた理由わけを、何かしらご存じなのでしょうか?」

 「…いいえ、わたくしは何も。突然のことでしたから…。王太子妃殿下は執務中に突然、気を失われたそうですわ。今は王宮医が、診ておられる頃でしょう。」

 「…ああ、なるほど。原因はまだ、判明しておらぬようですね。何もなければ良いですが…」

 「…そうですね。王妃様もお見舞いに出向かれると、侍女達が話しておりましたので、わたくし達は信じて待ちましょう。」


血の繋がる親子も、日常的に敬語で話す。この世界では王族も貴族も、それが常識である。流石にもう慣れたが、俺には超面倒だ。国王夫妻の父上や王妃様は別格でも、兄上夫妻も…仕方がないと思うも、母親と姉とは


 「姉上は…ご存じでしょうか?」

 「侍女に確認させましたので、ご存じでしょう。」


最近、姉上は母上と俺とは、距離を置いているようだ。口喧嘩したとか怒っているとか、嫌っているわけではない。母上があまりに心配性なので、姉上はウザがっているだけで。母上も姉の意を酌み、子離れする努力はするものの、俺に絡む回数が増えたような…。俺、マザコンじゃないんだが……


ユーリお義姉様あねうえは俺にとって、兄嫁でもある。家族という関係であれ、このような場合には決して出しゃばるなと、母上から教わっていた。王や王太子も駆け付けらない状況で、先に側妃親子が出向くべきではない。王太子の実母である王妃様が、出向かれるならば尚更。俺達は安易に騒がず、吉報を待つだけである。


 「…で…殿下、落ち着いてください!…今直ぐ殿下が出向かれたら、王太子妃様のお身体にも触ります…」

 「…そうですよ、殿下!…今は王妃陛下が、付き添っておられますので…」

 「…放せ、お前達っ!…我が妻が怪我でもしようものなら、ただでは済ませぬからなっ!」


あれから数時間が経った頃、漸く兄上が義姉上あねうえの元に駆け付けた、という報告を耳にする。…否、耳にしたというよりも、兄上が騒ぎを起こした場面を、実際に目撃したんだけどね……


本来ならば別の宮での騒ぎは、此処まで届かない。しかし、移動中に騒ぎとなったらしく、兄上の怒鳴り声だけでなく、兄上を諫めようとする護衛騎士達の声、バタバタ走る何人もの靴音も、やけに騒がしく響く。義姉上を溺愛なさる兄上は、心配のあまり平常心を失っているようだ。何を言われても、聞く耳持たず状態で。


 「へえ~。義姉上が…ねえ?」

 「…まあ!…お目出度いですわ!…王国民達には何時いつ、公表なさるのかしら?」


真実を知ったのは、それから暫く経った後のこと。真相を知る王妃殿下が、絡んでおられるのは間違いなく、義姉上の意向で秘匿とされ、国王陛下にも伏せられるとは。漸く公表するという段階で、俺達母子も兄嫁の妊娠を知らされ、母上は珍しく浮かれたようだけど。


 「…あの兄上を振り回すとは。義姉上を敵に回す方が、…」


義姉上は王太子宮を、既に支配下に置かれたとか、何とか…。それに俺も、腐っても王族の端くれなんだし、貴族達の言いなりにはならないよ。






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 こちらの前作の本編には、影響しない後日譚です。続作となる『婚約から始まる物語を、始めます!』の本編とも、直接は関係していません。


前回は、王太子の妹・第一王女が初登場しています。今回は、王太子と第一王女の弟が、初登場となりました。メインストーリーは、ユーリの妊娠が判明したシーンを、義理弟から見た視点で語ります。


サミュエルは転生者のようですが、今のところゲームに似た世界とは、気付いていません。もしかしたら、転生したという記憶はあれど、前世がどういう世界かは覚えていても、自分自身のことは何も、覚えていないかもしれません。何方にしろ、その辺はあまり重要ではないので。


夏休みも終わったことですし、番外編はこれにて終了とします。あと1話ぐらい書くつもりでしたが、今はもう書く内容が思いつかないので、またの機会に書こうと思います。



※続作『婚約から始まる物語を、始めます!』を、現在更新中。前作は既に完結済みで、続作では書けない話を前作後日譚として、時折投稿しています。いつもご覧いただき、ありがとうございます。続作の応援も、宜しくお願い致します。


※自作小説の情報や補足など、『無乃海の小部屋』にて投稿しています。宜しければ気が向いた時に、お気軽にご覧くださいませ。

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