後日談4 王女らしく私らしく

 基本的に後日譚は、続編『婚約から始まる物語を、始めます!』にて、描く予定のない話を後日譚とし、前作である此方に投稿しております。主に、後日譚の話の内容は、現在更新中の続編を読んだ後、理解できる内容となっておりますが、そこはご承知願いたいと思います。


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 「…ふう。一体この世界は、如何どうなってんの?…私が知る中身と、真逆の展開みたいね。もしかしたら私と同じ境遇の者が、他にも居たりして…。そして私の味方になれば、頼もしい限りだけどね。反対に敵に回ったら、厄介よね…」


無駄にだだっ広い部屋で、苦悶の表情を浮かべる少女が1人。年端も行かぬ少女に見えるも、の者の呟く口調と思えぬ、違和感を感じさせた。但し、それらを指摘する者は、此処にはいない。


室内の装飾や調度品などは全て、最高級の豪華絢爛さが見られ、身分の高さを伺わせる品ばかり。部屋中央には女子が好みそうな、装飾を施した天幕を付けたベットが、設置されていた。幼な子が使うとは思えぬ、大人が添い寝するにも十分な大きさだ。天幕の装飾もここぞとばかり、贅沢に飾られている。


 「ヒロインが没落するなんて、悪役令嬢に主役を乗っ取られるという、一時期に前世で流行はやっていた、逆転バーションみたい…」


天幕付きベットは、この国の高位貴族達が必ず、所有するものでもある。また平民が一生を掛け稼いでも、絶対に所持不可能な衣装を、少女は身に纏っていた。本物と思われる、色取り取りの宝石をあしらった、誰が見ても高価なドレスだ。間違いなく高貴な身分であるというのに、ぶつくさ呟く姿は異様な光景に見える。


 「王太子であるお兄様も、兄とご結婚なさったお義姉ねえ様も、そして私達とは遠縁のアンヌお姉様も、乙女ゲー設定の…」


誰かが聞いていれば、少女の気が触れたように、疑うだろう。貴族など明確な身分制度のない、努力次第で出世可能な平和な国で、多くの国民が貧しさとは無縁の生を、送る。一般家庭で育った単なる一国民が、娯楽の発展する世界で生きてきた、証でもあった。乙女ゲーの記憶から、生死を分かつと危惧するのは、当然か。


前世で生み出された娯楽、その内の1つが…乙女ゲーでもある。前世で様々な娯楽が存在し、主に女性向けに作られたゲームを、乙女ゲームと称した。以前は冒険や戦闘をメインとする、男性向けゲームばかりであったが、乙女ゲーは疑似恋愛を体感できると、人気を博した。少女もまた前世では、ゲームを


 「乙女ゲー世界に転生するとは、夢にも思わなかったなあ。ゲームタイトルは忘れたけど、間違いない。然も、あれだけ苦労して攻略クリアした、乙女ゲーに…」


嘗ての彼女は所謂、ゲームオタクだ。年齢制限に問題ない限り、課金すれば誰でも遊べる手軽な遊技が、ゲームの醍醐味でもある。思春期に嵌った後、色んなゲームを攻略したりして、それなりに人生を謳歌してきたようだ。前世の記憶を取り戻した今、少女の中身は年齢通りでは、ないようにも見える。


 「お兄様のフルネームを改めて知って、漸く思い出したのよね…。私の腹違いの兄が、まさか攻略対象である王子なんて。アンヌお姉様と、兄嫁のユーリお義姉様は、悪役令嬢だったみたいだし…」


カルテン王国王女として生まれ、『ライトバル』と呼ばれる兄のことも、何処か違和感を持ちながらも、特に気にしたことはなかったが、『ライトバル・カルテン』というフルネームを改めて耳にし、突然記憶が鮮明となる。自らがモブキャラだった所為で、気付くのが遅れたのかも、と…。


 「『エミュリアル・カルテン』という名のキャラなんて、乙女ゲーに登場していなかったはず…。つまり…私は幸か不幸か、乙女ゲーに登場しないモブキャラに、転生したみたいね…」


エミュリアル・カルテンは、カルテン国唯一の王女殿下である。王太子ライトバルにとって、母親の異なる妹に当たる。簡潔に述べるならば、側妃の産んだ子であった。この国では王妃は1人、側妃は2人の子を出産している。


 「王太子と母の違う弟が、存在している描写はあっても、妹がいたという描写はなく、名前も一切出なかったはずよ。ということは…私は、モブ以下の存在なのかもしれない。アンヌお姉様は私を、妹同然に可愛がってくれて、ちっとも悪役令嬢じゃないし、私もアンヌお姉様が大好きなの。ユーリお義姉様も尊敬できる方で、すぐ仲良くなれたわ。あと…お兄様も好きだけど、腹黒な性格はちょっと…」


王女とは思えぬ言葉セリフで、エミュリアルは独り言ちた。王女という身分柄、常に傍には誰かが控えている。周りに誰も居ないのは、王女専属部屋にいるからだ。それを良いことに、兄に対する愚痴を零す。前世の彼女の性格に近い、素の状態で……


 「腹黒いお兄様も、ユーリお義姉様の前では子犬に変化チェンジするのよね…。私の中での王子のイメージは、すっかり崩れてしまったわ…」






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 「ライトお兄様。ユーリお義姉様のご体調は、あれから…如何いかがでして?」

 「、良い頃合いだな。実は…ユーリが、懐妊したんだ。」


側妃側の私達母子は、お義姉様が倒れたと知らされても、直ぐに動かず状況を窺っていた。王妃様と側妃の母上様とは、良好な関係を築いているけれど、私達母子は常に控えめな態度で、適切な距離を保ってきた。王妃様は私と弟に対しても、実の子のように接してくださるけど、王妃様に対する礼儀を弁えるようにと、側妃の子としての謙虚な振舞いを、母上様から教えられている。


母や弟は国王陛下から、報告を受けたようである。最近の私は母や弟と、別行動を取ることが増えた所為で、お兄様は態々私の部屋まで、訪ねて来られたのだろう。お兄様も王妃様同様に、家族として母の違う私と弟を、可愛がってくれている。


 「…まあ!…おめでとうございます、お兄様。次期王太子問題も、これで解決致しますわね?」

 「…まだ生まれては、いないぞ。いずれ、そうなるだろうが。側妃を…と要求する貴族達が、二度と口を出せぬように、対策しなければならん…」


私は心の底から、新たな王族の誕生を祝う。現時点では、我が弟が次期王太子候補であり、私はその次となる。しかし、私も弟も王座には興味がなく、王女の私は他国に嫁ぐ可能性が、最も高い。次期王太子とならない限り、他国の王妃候補として嫁ぐことになる。


当初は照れたように、デレっとだらしない顔のお兄様も、私の一言で現実を思い出したのか、貴族達の思い浮かべ、腹黒い顔に激変した。私の前で、そんな怖い顔をしないでよ…と、心中で叫ぶ私にお構いなしの様子で、周りを凍らせるほどの冷気を放っている。


 「…お兄様、お顔が怖いですわよ。ユーリお義姉様に、嫌われましてよ。」

 「…いや。ユーリはそれほど、心が狭い人ではない。それより、エーミ。話は変わるが、君の婚約者殿に会いたくないか?…正式に赴くのは難しいが、こっそり会いに行くつもりがあれば、私が連れ出してやろう。」


お兄様の仰る通り、私には王家が決めた婚約者がいる。ユーリお義姉様の実弟に当たる、ハーバー国の第一王子殿下である。我が国に限らず王族は、幼少期に婚約者候補が決められる。我が国でも10歳になれば、正式に決められるのだ。


我が国とハーバー国は、比較的に近い距離にあることから、何代かに一度王族同士で婚姻するほど、親しい付き合いにあった。但し、お兄様と私が隣国の姉弟と婚約し、同世代で兄弟姉妹が婚姻するのは、初めてのことであるようだ。それだけ国同士の関係が良好と言える、証拠であるのだろう。


正式な社交場では、『エミュリアル王女殿下』と呼ばれるが、王妃様やお兄様も含む家族からは、『エーミ』という愛称で呼ばれている。今の容姿に似合う可愛いらしい愛称だと、当の私もお気に入りだ。ごく平凡だった前世の私とは違い、非常に可愛いらしい系の容姿だし、前世のアイドル並みに可愛いと、思っている。そんな自分を、ちょっぴり恥ずかしく思うも……


ゲームに似た異世界には、アンヌお姉様やユーリお義姉様のように、またお兄様や我が弟のように、イケメンや美女がわりと多いらしい。いくら私が可愛くなったとはいえ、彼らというの前では敵わないだろうな。


 「お兄様が隣国に、連れ出してくださるのですか?…でしたら、側妃様おかあさまがご納得なされるよう、計らってくださいませ。」

 「ああ、全て任せておけ。側妃様が腰を抜かされることのないよう、上手く手配しよう。」


カルテン国王女として私は、礼儀作法を学んでいるものの、1人になると素が出てしまう。家族は勿論のこと、貴族達や侍女達にバレていないはず。但し、私専属の隠密達にはバレているかもね。この王女、胡散臭いな…レベルで。


それはさておき、私が王城から抜け出そうものなら、過剰に心配したり泣き出したりと、母上様が騒ぐのは目に見えている。だから、母が過剰な心配をしないよう、上手く誤魔化してほしいと、私は兄に訴えた。王城で働く者ならば、側妃が心配性であることは、誰もが知る事実であろうか。お兄様も当然ながら、知っているはずだ。腰を抜かすという表現も、決して大袈裟ではないし。


 「以前から一度は、お会いしたいと思っておりました。最近はお母様の目を盗むのも、一苦労ですもの。お兄様が手伝ってくだされば、何も仰れませんわ。」

 「…はははっ。側妃様は、子離れできないようだ。エーミの輿入れ時は、号泣なさるだろう。町娘に変装し城を抜け出して、エーミは誰に似たのかな?」


お兄様の仰る通り、お転婆王女の私。過去の自由な暮らしを思い出し、城内がどれほど広かろうと、不自由さや息苦しさを感じた。お兄様は過去の記憶もないのに、私と


 「お兄様、他人事ではございません。昔からよくお1人で、城下に行かれましたよね?…今も、時々……」

 「エーミに一本、取られたか。実は父上も昔は、城をよく抜け出したとか…」

 「………陛下…」


苦笑気味な兄の様子に、まさか…と絶句する。私は気を取り直し、婚約者との運命の出逢いに期待しつつも、心の奥へと仕舞い込むのであった。






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 此方は前作本編には、影響しない後日譚となります。また続作『婚約から始まる物語を、始めます!』の本編とも、直接は関係がありません。


王太子ライトバルの妹、第一王女が初登場しました。今回の前半は、王女側から見た第三者視点で、後半から『エーミ』視点へと変わります。当人視点の方が描きやすいという点から、後半より変更致しました。続作では登場予定はありませんが、気が変わってチョイ役で登場させる、機会があるやも。


『番外 王太子殿下の本心』にて語る通り、国王は唯一王妃を溺愛し、側妃母子も大切にしているので、王家の全員が仲良く暮らしています。王太子夫妻の番外編を書いていたら、側妃達は…と彼らの立場も気になって、側妃側のストーリーも書いてみたくなりました。


後日譚は、まだ続きます。但し、この話の続きではありません。



※続作『婚約から始まる物語を、始めます!』を、現在更新中。前作は既に完結済みで、続作では書けない話を前作後日譚として、時折投稿しています。いつもご覧いただき、ありがとうございます。続作の応援も、宜しくお願い致します。


※自作小説の情報や補足など、『無乃海の小部屋』にて投稿しています。宜しければ気が向いた時に、お気軽にご覧くださいませ。

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