第4話

 三


 ――翌日、約束通り繁華街へとツバメと出向いたツルギ。

 日中、イビツの活動力は低下すると言う。昼間活動する人間の反存在としては妥当と言うべきか。

 張り切るツバメに半ば振り回される形で一軒一軒長々と、次々に店を回り、その度に持たされる荷物が増える事に辟易しながらも笑みの絶えぬツルギ。

 そんな彼だからツバメも遠慮などせずにこき使って行く。生活を支える立場だからと言うのもあるだろう。

 それでお互い満足しているのだから、それは良好な関係と呼んで良いのかも知れない。

 そんな二人を遠巻きに、他の誰にも気付かれぬよう物陰に身を潜めるようにして見守る少女が居た。もはや人の住まう太陽の下に易々と出ては行けぬ身の上の少女であった。

 “それ”はツルギがイビツの良い餌だからと言って彼の側にいるが、そんな彼女を見守る“悪魔”はそうではないとからかうのだ。

 二人の様子を一頻り見てから、少女の着るドクロパーカーの下から這い出てきた等脚目の様な、沢山の脚と殻を背負った蟲が影の中へとその身を沈め少女もそれを追うようにして消え失せる。

 果たして誰にも認知されることなく、少女と悪魔が向かう先はイビツたちが身を潜める闇の世界である。

 そしてツバメが目を付けていたという店に苦笑を浮かべながらもついて行こうとするツルギ。しかし彼の足は止まり、その場で振り返る。

 イサミ――誰も彼もが素通りして見向きもしない、影になったその場所を見詰めながら彼は何故かその名を呟いた。

 やがてついてきていないことに気付いたツバメが嬉々とした声でツルギのことを呼ぶと、ツルギもまたその呼び掛けに応えるように影から目を逸らし、笑顔と共にツバメの元へと駆けて行く。

 陰と陽。太極とはしかし、決して混じり合わぬその二つを現しているのである。

 それぞれに一点のみ存在するそれぞれは、孤独だ。


 終

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔憑きの歪な少女イサミ ~邂逅編~ こたろうくん @kotaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ