なんかこう釈然としない

幽美 有明

私が年上のはずなのに

 遠距離恋愛というものは今も昔もそんなに大差がないと私は思ってる。でも変わっていることもある。

 昔は手紙で、今はメールやSNSといった連絡手段で互いの近状を知る。

 昔は一週間など時間のかかっていたものが、リアルタイムのやり取りになったことで互いのことがすぐわかるようになった。

 でも変わらないこともある。距離。距離だけは今も昔も変わってない。もし変わっていたら遠距離恋愛なんて言葉になってない。すぐには会いに行けない距離。都道府県を超えて時には国すらも超えて恋をする。普通の恋愛ですら今はSNSでやり取りをすることが多い。だから遠距離恋愛が難しいものではなくなっている。

 そんな私も遠距離恋愛をしている。会いに行くのに半日かかる距離での恋愛。会いに行くだけでもうそれは旅行になるくらいには遠くて。だから私から会いに行ったのもまだ一回しかない。

 私の相手は一つ年下で今は東京の大学に行っている。元々同じところに住んでいたからその頃は会うのに苦労はしなかった。でも会える距離にいるからこそ、そんなに頻繁に会うこともなかった。夜にSNSで話をしてそれだけで十分だった。

 私が高校を卒業して、就職してからも、関係性はそこまで変わらなかった。しいて言うならデートの内容が変わったくらい。車の免許を取ったから少し遠くまで行ったり、海に言ったり山に言ったり。そう遠出することが多くなった。そういうことは互いに成人するまでしないって約束したからしてない。していないったらしていない。

 でも彼が東京の大学に進学することになった時からは大分変ってきた。元々は地元の大学に行くはずだったけど、お父さんの転勤で家族全員で東京に行くことになって。大学も地元じゃなくて東京の大学に行くことになった。

 そうして直接会うのが難しくなってからは、SNSで話す時間が大切になった。お盆とかに帰ってきたときは、ほとんどの時間を一緒に過ごすようになって。会えないときがすごく寂しくなった。そして何より彼が大変な時に近くに入れないことが何より悔しかった。

 距離が離れてるから、抱きしめることも甘やかすこともできなくて。私にできるのは相談にのったり話を聞くことだけで。尚更会いたい気持ちが強くなちゃう。

 いまだってそう。


<[はぁイライラする]

                          [またお父さんの事?]>

<[そう。家で愚痴ってたらうるせえって怒鳴られた。外じゃ言えないから家で言ってるのによ。イライラしてても言うなってのかよ。自分はいっつも愚痴をこぼしてるくせに]

[家に居る時くらいは大目に見てほしいよね。自分の部屋で言ったらだめなの?]>

<[それでも聞こえるんだとよ。たくっ、家がだめなら何処ならいいんだよ。ただでさえ稼ぎが減って俺もバイトしてどうにかしてるってのによ。こっちだって疲れてるんだっての]

                 [なでなで、私ならここで聞くから。ね?]>


 近くに居たら、本当に頭撫でてあげれるのに


<[ありがと。にしてもいつまで我慢してなきゃいけないんだよ]

                     [お母さんに相談できないの?]>

<[どうやってもあいつの耳に入って、最後には自分で何とかしろ大学生だろって言われるのがおちだよ]

                 [でも私以外にも相談したほうがいいよ]>

<[……あおいだったら話すけど。他の人だと心配かけちゃうだろ]

                 [心配かけられて困る親なんていないよ]>

<[少なからずあいつは心配しない]

            [それでもお母さんとか、妹さんとか心配するでしょ。 

               それに私にだってできることに限りがあるし]>


そう近くにいない私は直接慰めてあげることができない。


  [私にできることは何でもするけど、それでもできないことだってある……]>

      [だから、本当にダメなときはちゃんとお母さんとかに相談してよ]>

<[……]

          [私だってできる限りのことはするけど、限りがあるから]>

<[葵だけいればいい]


 私だけいればいいってそんなこと言われても。私だけいればいい? え? 


           [きゅ、急に愛の告白とかしないでよ///照れるから!]>

    [とにかく私だけいてもダメなんだからちゃんと家族に相談すること!]>

                        [あぁ……もう恥ずかしい]>


 今近くに居なくてよかった。絶対顔赤くなってるから見られたらもっと恥ずかしくなるから!


<[別に本当のことだし……]

              [そりゃあ私だって近くにいるなら色々するけど]>

               [慰めたり抱きしめたり甘やかしたりするけど]>

                    [近くにいないからできないじゃん]>

<[それでもいい]

<[こうやって話してるだけで落ちつくから]

                              [うぅぅ///]>

<[よしよし]

                [今日の和樹かずきは格好良くて反則!]>

<[そうか?]

          [これじゃあ私が年下みたいじゃない。本当は年上なのに]>

<[んー]

<[葵が年下か……]

<[それはそれでありだな]

                                [なっ!]>

<[だってそうしたら甘やかしてあげれるだろ]

                         [もう寝る、おやすみ!]>

<[おやすみ]


 恥ずかしくてつい逃げちゃった。だってだって! 恥ずかしいものは恥ずかしいし。なんか納得いかないし。私の方が年上なのに!

 でも和樹に甘やかされるのもそれはそれで悪くないような。だめ、だめ! 私が甘やかすんだもん。

 何よりあのままじゃ会いたくなちゃうし……

 会いたいな……

 早く会いたいな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんかこう釈然としない 幽美 有明 @yuubiariake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ