ひとひらの言の葉【0:1:1】60分程度
嵩祢茅英(かさねちえ)
ひとひらの言の葉【0:1:1】60分程度
女1人、不問1人
60分程度
-------------------------------
●時代背景
明治初期、鎖国を
●登場人物
由緒ある貴族『
当主としての役目を果たすべく、年齢とはそぐわない振る舞いや言動を取る。
気丈に振舞う癖がついており、本心を
現在十八歳。ものごしが柔らかく心優しい性格をしている。
-------------------------------
「聖人、南面して天下を聴き、明に嚮ひて治む」
----------
「ひとひらの言の葉」
作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)
沙結良♀:
桐馬:不問:
----------
沙結良N
「
(間)
桐馬N
「閉鎖された島国に、
『
様々なモノが
変わらずに、
(間)
沙結良
「お初にお目にかかります。
桐馬N
「そう言って頭を下げたのは、
沙結良
「がっかりされましたか?
当主がこのような子供で。」
桐馬
「…なぜ、そう思われるのです?」
沙結良
「誰が見ても、そう思うでしょう。
現に貴方とは
桐馬
「歳などは関係ありません。
『力』の強い者が当主となる。
そして現在の当主が貴方だった。それだけの事です。」
沙結良
「…そうですね。」
桐馬
「改めまして、
本日より、こちらでお世話になります
どうぞ、よろしくお願い致します。」
沙結良
「では、
桐馬
「
沙結良
「…
桐馬
「はい。」
沙結良
「使いの者に屋敷を案内させます。
本日はそちらでお休みください。」
桐馬
「ありがとうございます。」
沙結良
「では…(使いの者を呼ぼうとする)」
桐馬
「(遮って)
沙結良
「…はい。」
桐馬
「これから、よろしくお願い致します。」
沙結良
「…よろしく、お願い致します。」
(間)
桐馬M
「これが、私の妻となる、
先代当主が亡くなり、一族の中から新しく当主となる者が決まると、
そして当主には『ある役割』があり、そのための『特別な力』を持つ。」
(間)
沙結良M
「本日この家に、新しく
私の、
歳は十八。
そして、こんな私を見ても驚く様子はなく、軽く笑みを浮かべた中性的な顔立ちに、私の不安は、少なからず
(間)
沙結良
「それでも、心の
どう思われたかなんて、誰にも分からないわ。」
沙結良M
「そんな、ひねくれた言葉を
(間)
桐馬
「おはようございます。」
沙結良
「おはようございます。
お早いのですね。昨夜は眠れましたか?」
桐馬
「はい、お陰様で。
部屋もとても立派で…何というか、気遅れしてしまいますね。
屋敷も広く、迷うばかりです。」
沙結良
「広いだけが取り柄の家です。
表には決して立てない
この屋敷は
……とてもくだらない、意地。」
桐馬
「意地…ですか。」
沙結良
「この屋敷には、多くの
それなりの『格』を、
桐馬
「なるほど。」
沙結良
「…朝からつまらない話をしてしまいました。」
桐馬
「いいえ、つまらなくなどないですよ。」
沙結良
「…
桐馬
「そうでしょうか?」
沙結良
「ええ。…とても
沙結良M
「そう
(間)
沙結良
「本日、十四時に来客があります。
桐馬
「分かりました。…依頼、ですか?」
沙結良
「ええ。
客人を迎える前に、道具の準備をしますので手伝って頂けますか。」
桐馬
「分かりました。」
(間)
桐馬M
「朝食を食べ終わると、ある部屋へと案内された。」
沙結良
「ここが、『
普段は人の
桐馬M
「
窓がなく、薄暗い部屋の中には、木製の棚が壁一面を覆い、
その
沙結良
「こちらの棚には『使用済みの
桐馬
「この棚の全てに、
沙結良
「はい。これまで使用された、全ての
…そして、こちらが『新しい
桐馬M
「たくさんある引き出しの中から一つ、スッと手前に引くと、
中には
沙結良
「急を要する場面もあるため、代々、当主
常に一定量を保持しています。
これから、
効力を
桐馬
「分かりました。」
沙結良
「
桐馬
「これも、持っていくんですか?」
沙結良
「はい。使用するかどうかは、依頼者の話を聞いてからになりますが…」
桐馬
「なら、これは私が持ちましょう。」
沙結良
「…ありがとうございます。」
桐馬
「もっと頼ってください。
私は貴方の夫です。それに、当主のために動くことが、私の役割ですから。」
桐馬M
「『当主のために』。
だが、その想いよりも、目の前にいる小さな少女に
子供とは思えないほど
(間)
桐馬
「本日の来客は、『ハズレ』でしたね。」
沙結良
「『ハズレ』…ですか。
問題を抱えた客人の
桐馬
「っ!これは失敬…
気を悪くされたのなら謝ります。」
沙結良
「いえ。謝る必要はありません。
『
桐馬
「…」
沙結良
「
桐馬
「
沙結良
「…はい。」
桐馬
「
私の配慮不足です、申し訳ありません!」
沙結良
「…
顔を上げてください。」
桐馬M
「頭を上げると、少し悲しそうな表情をした
すぐに
(間)
沙結良M
「
特殊な儀式を
桐馬さんが『身内』となって、私は浮かれていたようだ。
涙をグッと
…
それで良かった。弱みを見せてはならない。
当主としてあるべき姿を
あれ以上踏み込まれたら…涙が出ていたと思うから…」
(間)
桐馬M
「
人を寄せ付けない造りになっている。
『呪い』を取り扱う家柄ゆえの事だろう。
屋敷の裏手には小さな
御勉学をされているようだった。」
(間)
桐馬M
「縁側に座り庭を眺めていると、
沙結良
「屋敷には慣れましたか?」
桐馬
「
ええ、だいぶ慣れました。
…
沙結良
「ええ。…呪われた家の者が、
行くものではありません。」
桐馬M
「そう言った
桐馬
「人の多い場所に行くと、何か不都合があるのですか?」
沙結良
「いえ、不都合はありませんが…」
桐馬
「ありませんが?」
沙結良
「こんな家柄の者だと分かれば、白い目で見られる事は分かり切っていますから…」
桐馬
「…以前、何かあったのですか?」
沙結良
「…当初、私は他の生徒と同じく、街の学校へ通っていました。
ですが他の生徒の親が、『
自分の子供に言ったのです。
それから、学校に、私の居場所は無くなりました。」
桐馬
「そんな…」
沙結良
「実態の分からぬものには『恐怖』を感じるものです。
桐馬
「…」
沙結良
「だから先生には屋敷に来て頂いています。
ですが、それすら『
桐馬
「そんな…」
沙結良
「先生にお手間を取らせているのは事実ですから。申し訳なく思っています。」
桐馬
「
迫害を受ける
沙結良
「…仕方のない事です。」
桐馬
「
沙結良
「…慣れていますから。」
桐馬
「そんな事に慣れないでください…私では力不足かも知れませんが、私は貴方と共に
沙結良
「…
桐馬
「もっと頼ってください。私にも、他の者にも。
少なくともこの屋敷には、貴方の味方しか居ませんから…!」
沙結良
「…お優しい言葉をかけてくださるのですね。」
桐馬
「普通の事しか言っていませんよ。」
沙結良
「
今までそんな者をたくさん見てきました。それが人間の
桐馬
「私はずっと、
いいえ、他の者より色んな物を背負い耐えている事も、
屋敷の者には優しい一面がある事も、私は知っていますから…」
沙結良
「…ありがとう、
桐馬
「出過ぎた真似かもしれませんが…」
沙結良
「いいえ、嬉しいです。」
桐馬
「…それなら、良かったです。」
沙結良
「
桐馬
「今はまだ、覚えることが多いので…
ですが、いつか
沙結良
「え?」
桐馬
「屋敷に
沙結良
「あ…」
桐馬
「…いや…すみません、ちょっとこれはズルかったですね…」
沙結良
「…え?」
桐馬
「私達は夫婦ですから。
沙結良
「っ!」
桐馬
「…照れていますか?」
沙結良
「…照れてなどいません…」
桐馬
「私は照れています。」
沙結良
「…ふっ。」
桐馬
「笑いました?」
沙結良
「だって……
桐馬
「どうぞ笑ってやってください。
私は、貴方の笑った顔が見たいのです。」
沙結良
「…よくそんな歯の浮くような言葉が言えますね。」
桐馬
「心外ですね。思った事を言っただけですよ。」
沙結良
「貴方は私の心を乱すわ。」
桐馬
「それは嬉しき事です。」
沙結良
「…今まで貴方のような方に出会った事がないわ。」
桐馬
「あはは、そうですか。私はね、
貴方に『普通の幸せ』というものを知って欲しいのですよ。」
沙結良
「『普通の幸せ』、ですか。」
桐馬
「はい。私はその横で、貴方を支えますから。」
沙結良
「
桐馬
「頑固、ですかねぇ?」
沙結良
「ええ、頑固だわ。」
桐馬M
「そう言うと、
(間)
沙結良M
「『普通の幸せ』…そんなものを私が願っていいものなのか…
今まで考えた事もなかった。
でも
いいのかもしれない、そうなれるのかも知れない…そんな気がしてくる。
求めてはいけないと今まで必死に
私はそれが怖かった。今までの覚悟が
いつか自分が良くない感情に潰される、そんな事を考えて、不安がこみ上げてくる。
そんな事を思いながら息を
(間)
桐馬M
「本日も来客がある。夕食前の十七時頃。
客人は、当主として出迎えた
『こんな子供に何ができるのか』と。
そんな言葉を吐かれても
当主としての振る舞いを重んじる
沙結良
「
不満に思うのであれば他を当たれば良いでしょう。
私も
…見たところ、貴方には複数の呪いが取り憑いていますね…
心当たりがあるからこそ、本日屋敷へいらしたのではありませんか?」
桐馬M
「
どうやら図星のようだった。」
沙結良
「まず、生き霊が二体ほど憑いています。
生き霊は強い想いによって本人の意思とは関係なく取り憑きます。
これらは問題なく
桐馬M
「そう言うと、
ゆっくりと墨を
沙結良
「そして問題なのは…呪いです。
これは明確に『貴方を呪う』と意思を持った者が、術者に頼み呪ったもの。
憑いた呪いを跳ね返すには危険を
…人を呪わば穴二つ。
呪われた者も、呪った者も、
ですから
強い呪いは
桐馬M
「
客人の指先を
沙結良
「これで貴方に憑いていた呪いは、この
呪いの効力を完全に失くすまで、こちらで管理し
桐馬M
「屋敷の者が、手際良く傷の手当てを
沙結良
「これで儀式は終了です。
また何かあれば、いらしてください。」
桐馬M
「そう言われた客人は、来た当初とは打って変わり、
(間)
沙結良
「
これは当主である私にしか触れる事ができません。
他の者が
なので…他の道具の片付けをお願い出来ますか?」
桐馬
「はい、分かりました。」
沙結良
「…先に、例の部屋へ行っています。」
(間)
桐馬M
「こうして少しずつ、
私は嬉しく思いながら道具を片付けた。」
(間)
沙結良M
「今朝、母と祖母の夢を見た。
(間)
桐馬M
「
ここへ来て、屋敷の造りに慣れた頃、庭が見渡せる縁側に一人座り、
ぼんやりと庭を眺める時間が増えた。私の特等席だ。
それが今朝、思わぬ先客がいた。」
桐馬
「おはようございます、
沙結良
「
桐馬
「珍しいですね、
沙結良
「…」
桐馬
「
沙結良
「(
(我に返って)ええ、そうね。…なんだか、庭を見たくなって。」
桐馬
「そうですか。
…何か、ありましたか?」
沙結良
「どうして…そう思うの?」
桐馬
「うーん…ほら、急に『庭が見たくなった』って。
何かきっかけがあったのではないかと思いまして。」
沙結良
「…そうね…
今朝見た夢のせいかもしれないわ。」
桐馬
「夢?どんな夢を見たのですか?」
沙結良
「実家の…母と祖母の夢。」
桐馬
「…良くない夢でしたか?」
沙結良
「いいえ。…でも、なんだか懐かしく感じて。
桐馬
「そうだったのですね。この屋敷へ来るのは、骨が折れますからね。」
沙結良
「ええ。
当主の私が、そうそう本家を離れる訳にはいかないし…祖母は足が悪くて。
だから、これから先、会う機会が、ないのかもしれない。
それこそ、次に会うのは祖母が亡くなる時なのかも、なんて、考えてしまって。」
桐馬
「…ご家族がどんな方か、聞いてもいいですか?」
沙結良
「祖母は…
裏方で
けれど、祖母も、母も、その力が弱かった。
そして母は何かを覚える、という事が苦手な人だった。
だから祖母は、母に対してとても厳しく接していたわ。
そのせいね、強い力を持って生まれた私に、祖母は毎日毎日、朝から日が暮れるまで、色んな事を教えてくれた。」
桐馬
「そうだったんですね」
沙結良
「母も、幼い私が覚えやすいようにと、
…母は当主になるような力や素質は無かったけれど、
それでも
母なりに、色々考えて。」
桐馬
「
沙結良
「いいえ大丈夫、辛くはないわ。」
桐馬
「なら、良かった。」
沙結良
「…私が
もちろん母も喜んでくれたけれど…
祖母は自分の家から『当主』が出る事に、強く
私は当主になったけれど、母は…その見込みも無かった母は、
辛い思いをしてきたのではないかと、そう、思っていたの。
でも私の記憶の中の母は、いつも笑顔で。」
桐馬
「優しい方だったのですね。」
沙結良
「そうね、とても優しい人だった。
祖母が優しくない、という訳ではないのだけれど…
祖母は、当主になれなければ、価値はないと思っているようだったから。」
桐馬
「…」
沙結良
「(一息吸って)…ごめんなさい、私ばかり喋ってしまったわ。」
桐馬
「いいえ、
沙結良
「…ありがとう。」
桐馬
「夢にご家族が出てきて、懐かしくなって。少し、寂しく感じたのかもしれませんね。」
沙結良
「そうね…だからこうやって、のんびり庭を見たくなったのかも知れないわ。」
桐馬
「ここの庭は広い。手入れもしっかりされていて、ゆっくりと眺めるには、
うってつけの場所ですからね。」
沙結良
「…
桐馬
「私も、ゆっくり庭を眺めているんです。心が落ち着きますから。」
沙結良
「そう…そうね…」
桐馬
「…落ち着きました?」
沙結良
「え?」
桐馬
「夢を見て、いつもと違う朝を迎えて、きっと
…庭を眺めて、落ち着きましたか?」
沙結良
「…そうね、落ち着いた、と思う。」
桐馬
「それは良かった。」
沙結良
「
あ、無理にとは、聞かないけれど…」
桐馬
「ははっ、至って普通ですよ。普通の家庭。
それでも、
沙結良
「…そう。」
桐馬
「私も、婿に選ばれて、
沙結良
「(照れて少し俯きながら)…また…よくそんな事が言えるわね…」
桐馬
「本当の事ですから。」
沙結良
「…ならいいけど。いいけれど…!」
桐馬
「
沙結良
「私は…不安だったわ。」
桐馬
「…それは、私の印象ですか?」
沙結良
「そうじゃなくて…
…婿となる方が、私を見て、どう思うのか。」
桐馬
「可愛らしい方だと思いましたよ。」
沙結良
「…っ、そうじゃなくて…」
桐馬
「?…違うんですか?」
沙結良
「…こんな子供の相手をさせられて、がっかりするんじゃないかと…
そう、思っていたから…」
桐馬
「ふふっ、それは
沙結良
「…私も…」
桐馬
「ん?」
沙結良
「私も、婿となる方が、貴方で良かったわ。」
桐馬
「…
沙結良
「…っ。それじゃあ、私は朝食まで部屋にいますっ」
桐馬M
「そう言うと、
桐馬
「…
ふふっ。少しは気を許してくれたのかな…」
桐馬M
「家族の事を『話すのが辛い』と言ったのは、自分に対して発した言葉なのかも知れない。
…
うちの家庭は決して『普通』ではなかった。
それを人に話すのは、誰の得にもならないからと、そんな理由を付けて口を閉ざした。」
桐馬
「雨の匂いがする…」
(間)
沙結良
「私ったら、なんであんな事言ったのかしら。」
沙結良M
「婿となる方が、貴方で良かった。
本当にそう思っている。
けれど、それを口に出すなんて…
ああ、きっと
そして、そんな
沙結良
「だからって…!」
沙結良
「(呟くように)…だからって、あんな事…口に出すものじゃあないわ…」
沙結良M
「私は
自分の発した言葉と、それを投げかけた時の
恥ずかしさに耐えていた。」
(間)
桐馬M
「
親族の間で『死』の呪いが
だがほんの少しずつ、浄化しきれない『想い』や『執念』などが蓄積され、
数十年に一人、呪い返しを受ける者が出てくる。
その呪いは
そのような者が現れると、当主から宣告を受ける。
当主だけが呪いの
…そして、私はその手紙を十五になった
呪いが
それでも十年生きられればいい
つまり、私は二十五までには死ぬ、という事だ。
このお告げをきっかけに、私の家族は少しずつ崩壊していった…」
桐馬
「
桐馬M
「この事を知ったら。つらい想いをさせてしまうのだろうか。
笑って日々を過ごして欲しい…
そのために、私は
そう、頭で分かっていても、
そんな自分勝手な事を、望んでしまう。
そんな事は、あってはならない。
…なのに…反面、私の死で打ちのめされるであろう彼女が、とても愛おしく感じてしまうのだ。」
(間)
沙結良M
「今日、一通の
差出人は、
それが、当主
何が書かれているのだろうと封を切り、目を通す。」
桐馬(代理として読み上げてください)
『
当主殿に、
それから我々家族は、
様々に
それが、今や手の届かない場所で生きている
これは決して
どうか、誤解なさらぬよう、申し上げます。
当主殿には、どうか
手前勝手な願いであることは重々承知の上で、それでも尚、お願いしたいのです。
どうか、息子を、
(間)
沙結良M
「頭の中が、真っ白になった。
呪い返しを受けた者の寿命は、短い。
十年
…いつ死んでも、おかしくない。
なのに。
何故、
私が、幼い子供だから?
たとえ当主であろうと、呪い返しは
この事を
当主として。妻として。
しかし、それは
当主であれど、私は子供だ。そう、ただの子供。どうしようもないほどに。
私は
(間)
沙結良N
「その日の夕食。」
桐馬
「今日も美味しいですね。
ここへ来てから、毎日の食事が楽しみなんですよ。
っと…こう言うと誤解されそうですが…
沙結良M
「微笑みながら
桐馬
「…
さっきから箸が進んでいないようですが…」
沙結良
「…大丈夫です。すみません、考え事をしていました。」
桐馬
「そうですか。
…食事の時くらい、考えるのはやめましょう。
眉間にシワができちゃいますよ?」
沙結良M
「
なんで何も言わないのだろう。言ってくれないのだろう。
そんな事を考えながら、呪い返しについて、私から話を持ち出す事もできない。
これから先、共に過ごすと思っていた人が残り少ない命だなんて…
そんな、そんなの……!」
桐馬
「…
沙結良
「………えっ?」
桐馬
「…相当お疲れのようですね。今日は
温かいお茶をお持ちします。ゆっくり眠れるように、おまじないです。」
沙結良M
「こんな時ですら、
気遣うべきは私ではなく、自分の体であるはずなのに。」
桐馬
「
聞いてくださいますか?」
沙結良
「話、ですか…?」
桐馬
「
そこで、お話したい事があります。」
沙結良
「…あの部屋で?」
桐馬
「ええ、先代当主との、約束なんです。」
沙結良
「先代との、約束…ですか?」
桐馬
「はい。詳しくは
私を信じてください。」
沙結良M
「それは、今、私の頭の中で渦巻く事への言葉なのだろうか…
私の目を見て話す
(間)
沙結良N
「次の日。」
(間)
沙結良M
「
なんだか胸騒ぎがして、良くない事が起こりそうで…
働かない頭で部屋を出る。」
桐馬
「
沙結良
「
桐馬
「あまり眠れていませんか?
…私のせいでしょうか?」
沙結良
「…いいえ、大丈夫です。」
桐馬
「
沙結良M
「力強いその言葉。けれど不安は
(間)
沙結良M
「鍵を使って、扉を開ける。」
桐馬
「
沙結良
「えっ、でも…」
桐馬
「お願いします。
私を、見ていてください。」
沙結良M
「そう言うと、
桐馬
「さて…
そのことについて、お話します。
私は、『呪い返し』を受けています。」
沙結良
「…っ」
桐馬
「…あまり驚かれないのですね。」
沙結良
「……えぇ。実は昨日、
桐馬
「そうですか…
(独り言で)あの家は本当に勝手だな…
ですが、今は別の話をしましょう。
私は十五の時、呪い返しを受けたと先代当主から
その
沙結良
「この部屋で…待つ?」
桐馬
「ええ。
ですがその前に。
一緒に頂いた
恐らく、先代当主が自身の力を込めたものでしょう。
私はその
きっと、今日まで私を生き伸ばしてくれたのは、この
そして、私は…………………今日、死ぬ。」
沙結良
「そんなっ!!」
桐馬
「(穏やかに)
先代当主が、何故このような事をしたのかを。
次の婿の決定権は先代当主が残す遺書を
では、なぜ『呪い返し』を受けた私を選んだのでしょう?
…余命のない私を。」
沙結良
「…分からないわ…」
桐馬
「はい。私も分かりませんでした。
『この部屋で待つ』という意味も。
沙結良
「…」
桐馬
「私が命を落とすなら、今日だと言うことは分かっていました。
そして死が近づいた時、この部屋にある
何か関係しているのではないかと考えるようになりました。」
沙結良
「
桐馬
「はい。
『当主以外の者が
沙結良
「…ええ。」
桐馬
「今日死ぬ人間が、ここにある
すると、呪いは私に移り、共に消し去る事ができる。」
沙結良
「そんなことっ!」
桐馬
「ええ、つい最近までそう思っていました。
ですが、先代当主は、そのような事を望んでわざわざ私を生かし、
ここへ婿として来させたのでしょうか?」
沙結良
「…どう言うことか、分からないわ…」
桐馬
「これから、お見せします。」
沙結良M
「そう言って
沙結良
「
桐馬
「
沙結良M
「…その言葉に、私は動けない。
動けない私をよそに、
その瞬間。
すべての棚が独りでに開き、
そして、
パチパチと音を立て燃える
私はその異様な光景に、目を奪われていた。
全て灰となり、床一面を覆い尽くしていた。」
(間)
桐馬
「…
沙結良M
「名前を呼ばれて、私はやっと意識を取り戻す。」
桐馬
「
沙結良M
「
沙結良
「あ…ええと…」
沙結良M
「部屋に保管されていた
呪い返しは
その存在に気付けない。
急いで桐馬さんに意識を集中する。
…その体は、呪いとは無縁と言わんばかりに、
人間、生きているだけで大小
しかし今の
心底
そしてその事実を、私は無意識の内に顔に出していたのだろう。」
桐馬
「呪いは、消えたようですね」
沙結良M
「
沙結良
「〜〜〜っ!!!
無事だから良かったものを!!!
こんなっ!!こんな無茶は!!!
もう、やめてくださいっ!!!」
沙結良M
「私は
桐馬
「あはは…心配をかけました」
沙結良
「本当にっ!!
………はぁ…
…こうなる事を、知っていたの?」
桐馬
「いいえ。ただの、勘です」
沙結良
「〜っ!もうっ!!」
桐馬
「きっと、先代当主も、賭けだったのでしょう。
『呪い返し』は
沙結良
「心臓に悪いわっ!!
貴方はいつも!無茶ばかり!!」
桐馬
「そうですか?
でも…心配をかけてしまいました、すみません」
沙結良M
「気付けば私は、ボロボロと涙を流していた。」
沙結良
「…もう、私に隠し事はしないでくださいっ!!」
桐馬
「(優しく)…はい」
沙結良
「私の側に居るって!!ずっと側に居るって!!
そう…言ってたでしょう?
その約束を…守って…!!」
桐馬
「(優しく)…はい」
沙結良
「……守って…ください…」
桐馬
「ふっ…あはは!!」
沙結良
「…なっ!」
桐馬
「
沙結良
「当たり前です!!私は当主ですから!!」
桐馬
「…当主ですが、私の妻でもあります。私の前では気を張らないでください。」
沙結良M
「そう言って、
優しく涙を
沙結良
「……
桐馬
「え?」
沙結良
「髪が、白くなっているわ…」
(間)
桐馬M
「
『例の部屋』で
黒かったはずの私の髪は、すっかり
(間)
沙結良
「とても目立つわね」
桐馬
「(困惑しながら)ええ…どうにかならないでしょうか…」
沙結良
「…ふふっ!いいじゃない?とても綺麗よ?」
桐馬M
「
桐馬
「これなら、当主の
私ばかりが目立ちますね」
沙結良
「貴方の隣に居たら、結局私も見られるじゃない!」
桐馬
「いいじゃないですか。面と向かって意見を言えないような輩は、
こちらから笑ってやればいい。」
沙結良
「…そうね…」
桐馬
「私は
沙結良
「そうして
桐馬
「それじゃあ」
沙結良M
「そう言って差し出された彼の手に、自分の手を重ねる。」
桐馬
「出掛けますか、街に。案内してください、
沙結良
「私もそんなに詳しくはないわ。けれど…」
桐馬
「けれど?」
沙結良
「貴方と一緒なら、どこにいても楽しそうだと、そう思うの」
ひとひらの言の葉【0:1:1】60分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly
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