糸と鎖。

水無月猫

   ふたつの生き方

 私は、いや、本当は誰しもが本物と偽りの区別をすることができる。先日、あるテレビ番組を見て私はこう思った。

 なんで、嘘ばかりなのかと。

 私は、誰も知らないところから、ずっと見守ってきた。しかし、この世界は、変わらず嘘でできている。


「おはよう、典子のりこさん」

 私のことか。

「おはよう、天崎くん」

「学校には、慣れたかい? 困ったことがあれば、僕に頼ってよ」

「えぇ、それはどうも」

 やはり、あなたもですか。

 授業が終わり、私は帰る支度をした。

私は、この世界で一番この時間が好きかもしれない。

学校から解放されるこの時間が。

 

なぜ、あんなにも空は綺麗なのに、人は……。


  ****


「ただいま」

「今日は、学校どうだった?友達とかできたの」

「いえ、楽しくなかったわ」

「そうなの。あら、残念」

 会話はそれ以上続くことはなく、私は、自分の部屋に向かった。

 ふと、私は学校で出された宿題を思い出した。

 今日のレポートを書かなければならない。

 題材は……友達。

「締め切りはあと二日か」

 それから、悩んだ末、書くことを諦めた。実際は書けなかった。

 友達とは、どこからが、友達なのか。

 偽りの関係でもそれは、友達なのか。

 わたしは、明日、もう一度、視野をもっと広げて観察しようと思った。


 次の日の朝。

 朝は、少し酸っぱいみかんとジュースを摂取し、学校に向かう。空気は、冷たく、夏の終わりを感じてしまった。

 だが、やはり、空は美しい。雲一つない空に私の姿が映りそうだった。

 自由とは何か。鎖のない世界のことか。この世界では、真の自由というのが分からなくなる。


  ****


 自分の席に着くと、ある会話が耳に飛び込んで来た。

「ちょっと、私のハンカチ返してよ」

「いーやだこった。だって、このハンカチ、お前に似合わないもん」

「返しなよ。高山くん」

「うっせぇな、天崎。お前には関係ないだろ」

「関係あるさ。だって、花田さんは僕たちのクラスメートじゃないか」

 この会話を聞いていると、滑稽で仕方がない。

 好きなのに糸が結ばれない。

 偽りなのに鎖の関係。

 これでは、どこに行けば本当の回答が見つかるのか。

 昼食時間に、私は立ち入り禁止と書かれているドアを開け、屋上に入り、空を眺めながらサンドイッチを食べた。三種類の風味らしいが、どれも同じ味としか思わなかった。食べ終わった後、何故か虚無感を抱いた。そして、私は屋上から、グラウンドで遊ぶ彼らを見続けた。


「そうか……答えは近くにあったんだ」

 

 私の見た先には、糸で繋がっているのか、鎖で繋がっているのかが分かったが、答えはそうではない。答えはその先にあったんだ。

 わたしは、帰り道にランドセルを背負った天崎と高山と花田の三人が話しているのを見かけた。その繋がり、二つのどちらなのかが分からなくなった。


「ただいま」

「お帰り。すっきりしたようね。友達とは何かが分かったの?」

「えぇ、分かったわ。あなたが、昔に言ったことが正しかったみたい」

「何か言ったかしら」

「ねぇ、私たちの関係は一体、何なのかしら?」

「それは、私たちが誕生したときから決まってるわ。でなきゃ、私たちも人間ってことになるでしょ」

 それが事実。人間というのは、カワレル生き物らしい。その後、彼女は、学校へ足を運ぶことはなかった。学校の上の空に小さな雲が一つ浮かんでいた。

糸と鎖の連続性を見抜けるか、見抜けないかは、誰にも分からない。

本当に大切なのはその関係を安易に切ろうとしないことだ。それでこそ、人間というマニュアルに準じている。


 人は変化を求めるが、自然は変化を求めない。

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糸と鎖。 水無月猫 @kaedehukuda

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