リセマラ 一回目

「名前、性別、レベル、種族までは合ってる…って、俺脆すぎね!?」


さっき一回転んだ程度でHPが5まで減っている。じゃああと一回すねでもぶつけたら俺死ぬよね?!


「魔法使えないのはなんとなく分かるけどな、この中だとスタミナが一番多いって俺への当て付けですか!こんちくしょう」


まあこの外見、喋り方、さっきずっこけたこと、などもろもろ踏まえて、もう気づいていると思うが、俺はオタクだ。それも、陽キャなどが話す、ああ!アニメって面白いよね!という感じではなく、昨日のさす妹、14分あたりのまゆが玲に告白するところまじ萌え、と言ったようなガチオタだ。そんなオタクが学校以外に外に出るとしたらブルーレイが発売されるか、めぐにゃんのフィギュアが出るかくらいだ。こんな俺にもっと走れってことかよ!俺が人生でやりたくないことTOP5に入るぜこれは!!


「あ、あの…」

「なんだなんだ!俺は今自分の不甲斐なさに後悔しているところであってもうちょっと筋トレかなんかしてりゃよかったなって陽キャに染まったよう考えをしているところ、で…」


そこには綺麗な美女が立っていた。綺麗な美女とか頭痛が痛い風に言ってしまったが、それほどに美しく、麗しい可憐な女性だった。頭にはウィンプル(詳しくはggrks)をかぶり、白と黒の衣装を身に纏ったいわゆる、シスターだった。


しかも巨乳。


しかも碧眼パツキン。ということはもちろんこれは…


「恋愛イベントキタコレ。絶対この子俺のこと好きだわ…」


これこれ。俺はこれを求めていたの。よくやったぞ!ゲーマス!!異世界転生モノでよくあるこれ。一人の女の子と愛を育むか、ハーレムを目指すか、悩ましいところだが…


「少し、宜しいでしょうか?」

「なんだい?子猫ちゃん。式場はどこがお望みかな?昔ならではの良さを生かした和風?それとも白いウェディングドレスが映える洋風?俺はどちらでも構わないぜ。」


決まった。俺のこの最高にかっこいいプロポーズ。シスターちゃんだってあまりの俺のかっこよさに口を開けて微動だにしない。木造の家に住みたいな。子供は女の子と男の子一人ずつ。


「すみません、道をお聞きしたいだけなのですが?」


うん。あーあー、ミチね!俺も気になってた!!やっぱ結婚生活にはミチって大事じゃない?って、道?


「え、あ、あぁ。知らないです…」


思いもよらない返答に、俺はキョドりにキョドってあろうことか下を向いてぼそぼそと答えた。死にたいってこういうことかよ…俺、こんな短時間で二度も醜態を晒してしまっている。


「つかぬことをお聞きいたしますが、もしかして、貴方様はニンゲンでは…」

「え!?人間を知ってるのか?どうやったらここから帰れる?君も人間なのか?!」


シスターちゃんの口から思いがけず人間という言葉が聞こえ、俺は食い気味でシスターちゃんに詰め寄った。あぁ、驚いてる顔もクソ可愛い…


「やはり!貴方様は人間なのですね!!」


俺の言葉を聞いたシスターちゃんは目を輝かせ、俺の手を握った。その時俺がどんな表情をしていたかはここでは説明しない。察しろ。いや、察するな忘れろ。


「あぁ!!なんたる偶然!こんなところでニンゲンに出会えるなんて!感動!感激!甘美!!」


びちゃり。


顔を赤くしてそう叫んでいたシスターちゃんの頬に何かが飛び散った。ん?赤くて、どろりとしていて、これは?


「な、なんか飛んだぜ?大丈夫か、…」


俺が紳士にもシスターちゃんの頬を拭おうとしたその時、


「ほぁ…?」


俺はそこで世界一間抜けな顔をしていたに違いない。さっきシスターちゃんに手を握られた時と比べ物にならないくらい、滑稽で、無様な顔を晒していた。


「いだあああああああ!!!!!」


痛い痛い痛い痛い。手首がないことを自覚すると同時に、耐え難い痛みが俺の脳を焼く。痛みは思考を奪い、冷静さをも奪っていく。17年生きてきて一度も感じたことのない痛み。さっきころんだことなんて比べ物にもならない。なんで?なんでうでがないの?あかいえきたい?あえ?


「ああ!なんたること!!やはり、ニンゲンはこれほどまでに弱く、小さく、哀れな生き物…!ごめんなさい、痛いでしょう?すぐに楽にして差し上げますから。」


シスターちゃんが何かを言っていることだけ俺には認識できた。シスターちゃんは煌めく銀色の何かについた赤い液体をなめとると、俺に接近してきた。


「うっっっっっ」


今はっきりとわかった。俺の右腕がなくなった。痛い痛いいだい。痛いよお。なんで?俺はなんでこんな痛みに耐えている?死にたい死にたい死にたい。こんな痛みに悶えるくらいだったらこんなちっぽけな一生捨ててやる。


「あー」


ぐしゃ


俺は口を大きく開け、そのまま舌を噛み切った。ほぼ生存本能に近かった。喉がゴポゴポとなり、視界がぼやける。息ができない。右腕が痛い。はやく。はやくはやくはやく。おれをすくって


『生命反応消滅。生命反応消滅。現在のステータスではイベント攻略は不可能と判断しました。自動的にリセマラを開始します。』


俺が最後に聞いたのは自分の声でもシスターちゃんの声でもなく、無機質な機械音だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界転生するならチート能力欲しいよね?リセマラしない? 名無死 @little_robot

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る