僕たちは武蔵野

@kensakiitarou

武蔵野と呼ばれる僕たち

また、僕たちが死んだ。重機の音が重くのしかかるように大地に響く。いつからか増えていた種族の足音がひっきりなしに伝わってくる。


どういうわけか口々に言葉を交わすそいつたちは僕たちと違って饒舌だった。そして図々しくもあり勝手にいろいろなものに名前を与えていた。


僕たちは武蔵野……と今は呼ばれている。僕たちが僕たちになったのもこの頃だと思う。


武蔵野となずけたのは君たちだったね。人間。


勝手にやってきて、木を倒したり生き物をたくさん殺したり、そうかと思えば違う木を植えてみたり知らない生き物を野放しにしたり。


いったい何がしたいのか全く分からない。


こちらから問いを掛けようとしたこともあったけど、それでも気が付いたころには僕たちはどんな形をしていたか忘れてしまうほど変容させられていた。


勝手に大都市と決めて人間だけで盛り上がって出来上がった東京。それを抱くように扇状に広がるとされている僕たち。


でも僕たちは君たちがいたずっと前からいたんだけどなあ。


3万年前から人間が暮らし、この頃はまだ少し変な生き物としか思ってなかった。


それが様々な文化と歴史を重ねて傲慢になっていった。自然と人間が共存してきた豊穣な土地である。なんていう人間もいるみたいだけど勘違いだと思う。そもそも僕たちは共存なんてしているつもりはないし、支配されていることもない。


君たちの遊びは僕たちを殺している。共存と言いつつ木々や生き物を奪い、そして新たな誰か別の物を僕たちに与える。

それを喜んで「武蔵野」とひとくくりに呼ぶのは少し笑える。


でも、人間にとってそれが僕たちであってこれからも僕たちであり続けるんだろうな。


そんな僕たちのど真ん中に美術・図書・博物が融合する世界初の文化施設角川武蔵野ミュージアムが出来上がった。


自然を大切に、なんて面白おかしい言葉を生み出しながら張本人たちはこうして自然を弄んでいる。


僕たちは今までも僕たちであったし、これからも僕たちであり続ける。それが「武蔵野」と呼ばれるかどうかなんて気にするのは君たちだけで、僕たちは一切の変化も享受できる。


減った分、また僕たちは生まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕たちは武蔵野 @kensakiitarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ