異世界異世界って言いますけど現実もそれくらいに唐突
一粒の角砂糖
脱!現実……?あれ?
「はぁぁぁぁ!?お前回線有線じゃないだろ!!オンライン来んな!ばーかばーか!」
痩せ型の少年が、深夜3時にテレビに向かって中指を立てながら子供のように叫ぶ。
隣から壁ドンと共に「うるせー!」と明確に聞こえた気がするが、そんなのはお構い無しでコントローラーを投げる。
「あー無理格ゲーなんかやってらんねー!……ギャルゲしよ。」
頭を掻きむしりながらフケを落とし、お目当てのソフトのケースを開ける。
「うわぁ、誰だよ整理してないやつ!探すのだるいんだよなぁ……。」
一人暮らしの少年。独り立ちをわざわざして通っているはずの大学をサボっているために近隣の友達もいないが故にこのソフトの配列や中身をいじるのは彼自身しかいない。
ちなみに親には半分見放されてるから泊まりに来るなんてことは無い。
こんなツッコミを入れながら、昔の事をやんわりと思い出す。
知り合いに荒らされたソフトの配列。
こんなことですら笑いあいながらに片付けたりしていたなぁと。
1人ゆえの寂しさと独特の倦怠感を感じながらお目当てのギャルゲのソフトをグロゲーのパッケージに入れていた過去の自分を恨みながら、ゲーム機に差し込みそのパッケージに抜いた格ゲのカセットを入れる。
今度直せばいいか。と頭の隅で思っていた。
「あー明那ちゃん……俺はもう辛いよ。」
テレビの画面に手を触れる。
明那と呼ばれるキャラクターは応答せずにゲームの名前を喋るだけ。
ゲームを買ったご主人様と喋る機能は残念ながらついてない。
「よっしゃ!……ってあれ……?は?メンテ?」
ギャルゲ……のはずなのだが、そういえば他プレイヤーとの対戦するモードもあったな。と納得しかける。が
「くそがぁぁぁぁぁぁあ!」
コントローラーを投げる。
再び「うるせー!」と聞こえるが「黙れー!」と怒鳴り返す。
上がった息を落ち着かせるために、冷蔵庫を覗くがいつも飲んでいる炭酸水が見つからない。
「ゲームも出来ないしコンビニ行くか。」
アパートの一室から、深夜に1人とぼとぼと歩くのだった。
「あーここで通り魔に襲われたり、トラックに引かれたりしないのかなぁぁぁぁ。」
頭の後ろで腕を組みながら堂々と大声で歩く。夜なのか田舎なのかはたまた相手にすらされてないのか警察からも近隣住民からも特に文句を言われたことは無い。
深夜だからか物流トラックだけが走る車道をじーっと見ながら「いっそ死んでしまおうか?」と思う。が、課題のレポートをやることを忘れていたと我に返る。
足を動かしながらただ歩くのも暇なのでTwitterの絵描きアカウントの投稿を見返す。シルヴァミという名前で絵描きをやっている彼は大手会社の……という訳には行かないが稀にライトノベルのキャラデザインや挿絵を担当しておりそれなりに名前の通った作家としてネットで活動している。昨日の酒に酔った勢いで投稿した何気ないTwitterの一言にものすごい剣幕を放っている文章がリプ欄にあるが返すのも面倒なので画面の電源を落とし、ズボンのポケットにしまった。
その途端に自販機の下で集会をする猫をみかけて微笑み、ご機嫌にコンビニに近づいて行く。
「あの。」
唐突に女性に声をかけられる男性。
異世界について頭がいっぱいだった彼は深夜テンションで妄想をぶちまける。
「あーはいはい。異世界行けるとか思っちゃってる人のとこに突然にくる女の子。世界を救ってくださいとか頼まれて行っちゃうとかいう溢れかえったパターンね俺知ってる。でも現実にそんなのはありえないし妄想も大概にしてくれな……」
と、オタク特有の早口でペラペラペラペラといつもモゴモゴとしているはずののどちんこを震わせてきどりながら振り返る。
「私の世界に来てください。」
オタクトークを叩き切るように少女は真っ直ぐ青年の顔を見て言った。
「は……?今なんて?」
咄嗟のことに、思いもしないことに脳が追いついていない。
「私の世界に来てください。」
ガシッと手を掴まれた。
「……は、はぁぁぁぁ!!??!!??」
コンビニの近くだったので店員が走って異常が無いか確認しに来たが、女性を心配そうに見ている。どちらかと言うと青年が異常事態なのだがそんなことには気づけるわけもなかった。
__________________
「ま、まぁとりあえず上がって……。」
「ありがとうございます。」
コンビニ袋を片手に自室へのドアを開けて、少女を中に入れる。
やばい。超ヤバイ。どうしよう。ほんとに異世界に……。
レポートのことなんてとっくに頭の中になかった彼には異世界へのフラグだと信じてやまない下心しか無かった。
意外とゲームをしてるベット付近以外は散らかしてないようなので、絨毯の上に座らせて小さな机を挟んで対面で話す。
「いただきます。」と丁寧に手を合わせ、箸を器用に使ってコンビニに売っている2割引のカルビ弁当を美味しそうに食べる。
「えっとつまりどう言う……?」
焦った青年は、食事中の彼女に食い気味に尋ねる。
「え、だから、私のところに来て手伝って欲しいんですよ。」
「あ〜……。」と声を漏らす。
来た。これは来た。小さな机の下で見えないように小さな小さなガッツポーズを決める。
「え、具体的にはどう言う流れですか。勇者とかそう言う……?」
小声で自信なさそうに尋ねると彼女はぱぁっと明るい顔をする。
「そうなんです!!魔王を倒したり!魔女を仲間にしたり!ドラゴンをペットにしたり!!」
「おお!!!かっこいい!!!」
「でしょう!!!……それで来ていただけますか……?」
先程と同様に手を掴まれる。
口元にカルビのタレがついていることはさておき真剣な眼差しが彼に向けられる。
「……分かりました。行きましょう。」
決まった。これは心も鷲掴みにしてメロメロにしてしまうウハウハルートかぁ……。
「それじゃあシルヴァミ先生!機材を持って私の編集社に……。」
「へ?」
あれ。きき間違えかな。
「今なんて?」
「だから。先生。私と一緒に漫画。書いてくれるんですよね?」
「は?へ?」あたまの中は?でいっぱいだ。
漫画?先生?考えていくうちに
あっ、と気がつく。
「もしかして、昨日の……。」
さっきコンビニに行く途中に見た。
あのTwitterのリプ。
急いで画面を開く。
「それ。私です!」
【異世界憧れるから漫画書いてみてぇなぁ〜誰か誘ったら絶対やるのに。女の子抱きてぇ〜www】
ああ。やってしまった。
頭を抱え全速力で脳をフル回転させる。
「行かなきゃダメです?」
Twitterの投稿を片手間に消してそう尋ねる。
「……来てくれないんですか?」
そんな目をされてもな。
眉をしかめながら現実を見つめる。
「……明日の昼見に行きます。それで決めてもいいですか。」
これで引き下がってくれたらいいんだけどな。
「分かりました!それではまたあした!!!」
元気よく返事して、「それでは!!!」と玄関から飛び出す。隣人も呆れたのか「うるせー!」とは聞こえなかった。
「なんだったんだ……。」
机の上にはさりげなく千円札が一枚置いてあった。
少年は疲れたのか、そのまま倒れるようにして眠りについた。
__________________
時刻は9時。
事前にTwitterのDMで言われた住所に彼は足を運んでいた。
彼はボロボロの集合住宅の前にポツリと立っていた。
「本当に大丈夫か?これ。」
恐る恐るドアノブに手をかけて、それを押す。
「「「「シルヴァミ先生!!!!いらっしゃいませ!!!!」」」」
100dBの双方から聞こえる居酒屋顔負けの挨拶に、耳を塞ぐ青年。
「うるさーい!!!」
と、咄嗟に声を張り上げる。
「先生来てくれてありがとうございます!!」
とお構い無しに声をかけてくる昨日の女性。
「まさか……ほんとに。」と声を漏らす長身のスレンダーな女性。
「あ゛り゛が゛ど゛う゛ご゛じ゛ゃ゛い゛ま゛し゛ゅ゛」と泣きながら青年に抱きつく低身長の童顔の少女。
「でゅふ……シルヴァミ先生……来てくれた……えへ、えへへ……。」と不敵な笑みを見せながら色紙を差し出してくるぽっちゃりのオタク気質の女の子。
「……。ここで漫画書くの?」
「はいっ!」
「……そんな自信満々に言われてもな。」
困り顔をしていると全員の顔がだんだん不安そうになって、場の雰囲気が重くなるのが目で見えるほどになってきた。
耐えかねた青年は「わかった。やるよ……。」と嫌々両手をあげる。
降参の合図だ。
「やったぁぁぁ!!ようこそ私の
少しだけうるさくなりそうな漫画家生活が始まろうとしていた。
異世界異世界って言いますけど現実もそれくらいに唐突 一粒の角砂糖 @kasyuluta
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