逆さま猫の鳴いている場所

雨世界

1 心から、君を思う。

 逆さま猫の鳴いている場所


 登場人物


 道草日向みちくさひなた 高校一年生 十六歳 女の子


 三ツ石碧みついしみどり 高校一年生 十六歳 男の子


 草花くさはな 猫 日向の猫 三毛猫 日向を導く


 深津茂ふかづしげる 老年の先生 この辺りの歴史に詳しい


 プロローグ


 おーい、どこにいるの? 


 君と一緒に、暑い夏の日に、汗だくになって、探した場所。


 本編


 ……僕が、ずっと一緒にいるよ。


 ある日、私は逆さま猫の鳴いている声を聞いた。


 逆さま猫


 それは、私の空想の世界の話。

 それは、言葉の風と雨の森に生息する不思議な、とっても不思議な青色の猫の話。


 心から、君を思う。


 ある日、あなたは世界の中からいなくなった。(どこか遠いところに行ってしまった。……私の前から、本当に唐突に消えてしまった)


 自分が動けば世界が動く。生きることは動くこと。だから強制的に止まった世界を動かしたければ、まずは自分がなんの目的がなくても動き出せばいい。そうすれば、勝手に世界は動き出すんだよ。


 回想


 私が逆さま猫の鳴き声を初めて聞いたのは、……確か、小学校五年生のころだったと思う。

 その日は、とても暑い夏の日で、世界には太陽の光が満ち溢れていて、蝉の声がうるさくて、緑が、すごく目に美しく見えて、それから、とても気持ちのいい風が、世界の上に吹いていた。


 その当時の私は、麦わら帽子をかぶっていて、白いシャツと、青色のハーフパンツを履いていて、足元はサンダルで、なんとなく、夏の日の中をぶらぶらと歩いて、よく家の近所を一人で散歩をしていた。

 その散歩の途中で、私は家の近所にある深い緑色の森の中につくられている、小さな神社によく行った。

 その神社は人々に忘れられたような、古い神社で、私のほかに神社を訪れる人を見たことはなかった。(神社の名前は、わからなかった。どこにも名前が書いてなかったからだ)

 そこは私だけの聖域(アジール)だった。

 私だけのために存在した秘密の場所であり、小さな世界であり、私だけの逃げ場所だった。


 そんな涼しい風のふく、優しい日差しの差し込む神社の古い木の階段のところに座って、私はいつものように一人ぼっちで泣いていた。(私はいつも、泣くためにこの秘密の場所にきていた)


 そんなある日、「にゃー」と言う小さな猫の鳴く声を私は確かに聞いた。

 その猫の鳴き声を聞いて、私ははっとしてすぐにその泣き顔をあげて、周囲の様子を伺った。

 その鳴き声は神社のほうから聞こえた。

 神社の境内にある、古い木の手すりの上のところ。

 私はその小さな猫の鳴き声の聞こえたところを見た。

 

 すると、そこには『逆さま猫』がいた。


 ……全身、青色の毛並みをした、とても不思議な小さな猫。

 その猫は、その緑色の瞳から、『ずっと、涙を流していた』。その不思議な猫は、逆さま猫は(逆さま猫は私が勝手に名付けたその不思議な猫の名前だけど)ずっと、ずっと、私を見ながら、(私と同じように)泣いていたのだった。


 夏の風と、森の緑色と、それから、蝉の鳴き声が聞こえた。

 私が逆さま猫と出会ったのは、そんな暑い夏の日のことだった。

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