陰摩羅鬼だけど葬儀社員です。

第45話

「……えー…では、これからのアヤカシの未来を祝しましてぇー……乾杯ー？」決まらないこと甚だしいですが、まずはくりちゃんの音頭で乾杯です。

「あー。この“柿ピー”美味しいー。」料理はしませんが味にはうるさいらくちゃんの選んだ『乾きもの』系おつまみと、“若いツバメ”君のお通し、それぞれが持ち寄った各地のお土産を肴にまずは近況報告です。話の合間にタブレットPCで何やら作業をするのはくりちゃんならではのご愛敬。世界各地のアヤカシ達からの人間社会での生活に必要な各種証明書類の作成は、スゴ腕ハッカーのくりちゃんのテクニックをすれば、飲み会の片手間に片付きます。長いこと生きてますから、大抵の言語に詳しくなりますしね。今もどうやら画面の中には“インド”の『火車』からのメッセージが入っているようです。

「……そういえば、もんちゃん。こないだはゴメンねぇ。」

「……？あー。こないだね。りょうの一件ね。」かなり迷惑でしたが、仕方ないことですからね。腐れ縁ですから。

「何の話？」ぶんちゃんが不思議そうに尋ねるので、先日の“りょう”が抱えたトラブルの顛末をかくかくしかじかと説明します。

「……あいつ毎度毎度そんなことやらかしてるよねー。恋着（れんちゃく）されるのが上手くあしらえないんなら顔面偏差値下げろっての。」らくちゃんのように、『美形』として『餌』を誘き寄せるタイプのアヤカシにしてみれば、美人として生活するには、それなりの対価が伴うのが“当たり前”という考え方です。アヤカシは外見をある程度の範囲内ですが自己決定出来るのですから、結果は自己責任ですよねぇ。たまたま“イケメン”に生まれる人間とは、立場が違います。

「……進歩がないよねぇ。もんちゃんお疲れ様ー。」ぶんちゃんに慰められました。

「ホントにねー。“雄型”だからって胡座かいてると、いつか痛い目見るよって言っといてー。」やはり職場の男女比で、男性優位に歯噛みすることの多い、医師のめーちゃんからも手厳しい一言ですねぇ。

「……いつになったらこの国の“男女平等”は『お題目』じゃ無くなるんだろうねぇ……」それぞれが抱えた『雌型』であることで被った不利益が思い浮かびましたかね。この国の女性達は本当に辛抱強いというか、我慢に慣れすぎというか、主張しないことに順応しすぎていて、諸外国の女性の社会進出の波に置き去りにされて、いつになっても『先進国最下位クラス』から脱出する兆しもありませんからね。お代わりのグラスをあけながら、しんみりした雰囲気になってしまいました。

「……そういえば、さっき“火車”から何かメッセージ来てたよねー？」同じ“死体”を主食にするモノ同士、動向が気になります。

「あぁ、そうね。火車今インドに居るんだけど、ちょっとやらかして警察に追われてるから、パスポート用意してくれって。」

「………うへぇ。アイツ食後の後片付けしないから。」最近は不審な死体にはすぐ捜査の手が伸びますからね。インドの警察も治安維持にやる気を見せているようです。

「もうちょいキナ臭い所に移住するんだって。」

「……それよりは後始末覚えた方がいいんじゃないの？」こんな感じで夜は更けていきます。

「……この辺もなかなか棲み心地よさそうだよねー。………次はK県にしようかなー。」アヤカシの棲み家としては、“他人”に対する関心の浅い『都市部』がやはり快適です。飲み干した梅酒のグラスを灯りに翳しながら私が呟くと、

「あー。そういえばー、県内ニュースでこないだ面白そうなネタやってたわ。もんちゃんにお知らせしようと思ってたから。スマホに保存しといたー。」らくちゃんがおもむろにスマホをいじって、ネットニュースを見せてくれます。

「………えーと……何なに？『遺体ホテル』？…記事は住民反対運動がメインだけど………『遺体ホテル』………いいなぁ。」思わずヨダレが出そうになりましたよ。食べ放題的なアレですかね。

「あー。それ私も見たー。火葬場の順番待ちの間、葬儀会館が各社で共同運営するって言ってたよねー。」

「………受付スタッフ募集したりしないかなぁ……」思わずらくちゃんのスマホをスクショしてしまいました。A県での生活もそろそろ八年目に突入しましたからね。今すぐという訳には行きませんけどね。当社の木魚達磨達仏具の処遇もありますし。ぼちぼち準備をしておいてもいい頃合いです。各地を放浪しながら人間社会に棲みはじめて、早千五百年程になりますか。人間の生活は目まぐるしく変化していきますが、『魄』の味は変わりません。まだまだ当分『餌』に事欠くことはなさそうですねぇ。ふふっ。

……次は、あなたの近くに棲むかもしれませんよ。もし、“人じゃないかも”なんて気付いても、あなたが生きている限り危害は加えませんから、『知らないフリ』でお願いしますね。……どこかでお会いしましょう。

………お元気で。 完