第44話
「わーい、久しぶりねぇー。元気ー?」目的地はやはりなかなか分かりにくい場所にありましたが、スマホというのは本当に便利ですねぇ…。間延びしたやんわりとした声質で話すのはくりちゃんこと
私が“らくちゃんち”こと、『Cafe&Barアラクネ』にたどり着いた時点で既にカウンターに座って、何か飲んでいます。
「元気だよー。他の皆は?」隣に座ると、奥からドリンクを持って『らくちゃん』こと
こちらは見た目黒髪ロングストレートのいわゆる“ワンレン”といったヘアースタイルにタイトなシルエットのニットワンピースで、いかにもBarの店長という雰囲気のお色気たっぷりの美人姿です。
「…そろそろ来ると思ったわ。はい、いつもの“梅酒”の“南極氷”ロック。」スレンダーボディに胸元は深いVネックで、相変わらずの悩殺ボディです。
「あ、ありがとー。」グラスを口にした所てで、店の扉が開きます。女子会メンバーの到着かと思って振り返ると、若い男性がエプロン姿で入ってきましたね。エプロンといっても、いわゆる『ギャルソンエプロン』という男性用の黒いエプロン姿ですが。少し驚いたような表情で、私達とらくちゃんを見比べています。
「……あれ?店長今日店休むって言ってませんでしたっけ?」ということは『従業員』ですか。
「あぁ、そうね。夜の営業は友人達と貸し切りにするつもりだったの。……何かあったかしら?」にっこりしながら軽く首を傾げてみせるらくちゃんを見やって、若い男性はうっすら顔を赤らめながら、落ち着かない感じで手に持った荷物をごそごそしています。
「………いやぁ……久しぶりに休みなら一緒に……と思ったんですけど、また、今度にします。……あの、これ、…良かったらご友人の皆さんでつまんで下さい。……容器は流しに置いてくれればいいので……失礼します。」もじもじしながら近付いて来て、カウンターの上にビニール袋に入った密閉容器を置いてくれました。
「ありがと。いつも助かるわ。気の効く子ね。……また……今度ね?」カウンターからでてきて、らくちゃんはさりげなく男性と腕を組んで出口へと誘導していきます。相変わらずの『手練れ』ですね。従業員氏は、後ろからみても判るほどに“耳まで真っ赤”です。
スムーズに通りまで送っていくらくちゃんを見守りながら、私達は顔を見合せてにんまり笑います。
『……さすがだねー。』扉が開いてらくちゃんが戻って来ると、早速密閉容器から中身を小皿に取り分けてこちらに出してくれます。
『料理をしない』私達アヤカシで、昼間の『Cafe』をどうやって切り盛りしているのか、今ので謎が解けましたね。
「……そういうことかぁ…」再びくりちゃんと、顔を見合せて頷きます。
「……何が?」おつまみの残りを冷蔵庫にしまってから戻ってきたらくちゃんが不思議そうに尋ねます。
「…いやぁ、お店にカフェって入ってるけど、昼間のランチとかメニューどうしてるのかと思ってたから。まさか全部冷凍食品じゃないよねーって。」
「……ふふっ。今回のお店をオーナーから任された時に、最初から“昼間はカフェ”で“夜はバー”っていう条件があったのよ。当然私は料理出来ないし、とりあえず『従業員募集』の張り紙しながらBarだけオープンしたら、お客さんで来た“あの子”が料理人だって聞いてー。」にんまりほくそ笑むらくちゃん。得意分野ですね。らくちゃんの主食は“男性の精気”です。和風サキュバスといったところでしょうか。
「……今のオーナーはイイ人なんだけど、ちょっとお年を召してるから“足りなくて”……そのぶん“埋め合わせ”にもちょうどイイから。」先刻の様子だと『ベタぼれ』ですね。まぁ、純情そうですから
「それに、お料理もデザートも上手で、なかなか評判なのよ。食べてみて。」小皿に盛り付けたお通しは三種、見た目の彩りも綺麗です。
「……本当だ。オイシイわこれ。」くりちゃんもしっかり味見しています。
「……二人っきりでゆっくり楽しもうと思って、気合い入れて作ったんじゃない?」クスクス笑うらくちゃん。『転がし方』が上手いですね。おつまみが美味しくてお酒が進みます。
「んもぉー。分かりにくいよココ!」扉が開いて、入ってきたのは、“めーちゃん”こと
「…そぉ?周りに“白いビル”ないからいいかと思ったんだけどなぁ……」確かに白いビルはここだけでしたが、店の看板が奥まった所で輪切りの丸太に描いてあるだけなので、通りからは分かりにくいです。まぁ、前にもいいましたが、繁盛するのが目的ではありませんからね。カウンターに座っためーちゃんには、いつもの“コークハイ”です。ついでに“お通し”も盛り付けて。
「……え、ナニコレ美味しいじゃん。……まさか……?」早速お通しをつまんで、驚いた表情でらくちゃんをみるめーちゃん。
「作ったのはー、らくちゃんの“若いツバメ”君でしたー。」すかさず口を挟むくりちゃん。
「………ですよねー。看板にカフェってでてるから、料理どうしてるのかと思ったらやっぱりねぇ。」
「ふふっ。“オトコ”はよく料理するけど、食材はちょっと無理ねぇ。」カウンターに肘をついて首を傾げながら、なかなかスゴい台詞を呟くらくちゃん。
「…あとは、ぶんちゃんだけね。」入り口のステンドグラス越しにも、外がすっかり暗くなっているのがわかります。
「あーもう疲れたっ!」前にタクシーが止まったと思ったら勢いよく扉が開いて、やはり入ってきたのは“ぶんちゃん”こと
「お疲れさん。遅かったねぇ。どうしたの?」今回参加のメンバーのなかで、一番近い所(都内ですよ。)に棲んでいるはずのぶんちゃんが一番到着ご遅れるなんて、よっぽどです。
「んもー。…最近移動してきた上司が、機械オンチでさぁ……そのくせプライドだけは一丁前に高い、典型的な“ダメオヤジ”なの。判らないなら触らなきゃいいのに、パソコンいじって、今日の蔵書入力ぜーんぶ削除してくれやがって……今まで残業よ。ふざけんなっての。」らくちゃんが持ってきたグラスを一気にあおって飲み干しながらくだをまくぶんちゃん。公立の施設にありがちな『お飾り上司』の定例部署異動による現場の混乱というやつですね。
「……とりあえずお疲れ様。全員揃った所で乾杯と行こうか。」すかさずぶんちゃんのお代わりのグラスを出しながら、らくちゃんが声を掛けます。
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