第六章以降

第1話【瓶の中の夢】


私はエミリアに生命を救われた。


元々、私は仲間たちと少し色が違った。

それを人間たちは「劣っている」と見下していた。

だからだろうか、実験途中で動けなくなった私は「もうすぐ死ぬ」と言われていた。

そして生きたまま液体の入った瓶に入れられて…………何ヶ月も棚に並べられていた。


そんなある日、私は瓶に入れられたまま人の手に渡っていた。

私の姿が見えなくなったらしい。

そのため「死んで液体と混ざった」と思われていたようだ。

……たしかに、私の存在いしきは薄れて液体と同化し始めていた。

もしかすると私はあのまま死んで、瓶から出られずに再生したのかもしれない。


あの研究室内で死んでも、室内でまた再生生まれるように。


「液体をこうして太陽に翳すと、時々虹色に煌めくのさ」


そう言って、私の入った瓶を揺らす男。

私が入った瓶を興味津々という表情で、それでも目はジッと瓶を見ている女性……ううん、間違いなくを見ていた。

なんでそう思ったか?

…………からだ。

そしてちょっと驚いた表情になって、瓶を持つ男に笑顔で言った。


「おじさ~ん、これちょうだい」


あとで、私が入った瓶はとてつもない金額だったことを知ったけど……そのときは《 物好きなヤツだ 》と思った。

その女性は瓶を胸に抱いて、そのままどこかへと向かう。

着いた先は…………テントの中。

私の中に恐怖がよみがえった。


「安心して。ここから出してあげるし、仲間がどこにいるか分かっているならそこまで連れて行ってあげるから」


人間の言うことは信じられない!

私の心の声が聞こえたのか、ちょっと困った表情になった女性。

そのとき、肩から外して瓶の横に置かれたカバンから、ぴょんっと飛び出した……


《 スライム! 》


なんで!?

パニックを起こした私に、その見たこともないくらい小さなスライムが話しかけてきた。


エミリアというこの女性は信じても大丈夫だと。

仲間から捨てられた自分たちを助けてくれたこと。そのために聖魔師テイマーにまでなってくれたこと。


《 仲間を……助けて 》


瓶越しにそう訴えた私に、ピピンと名乗ったそのスライムが上下に揺れる。

エミリアを信じて事情を話してごらん、って。


《 …………うん 》


怖いけど、私とピピンが会話をしている間、もう一体のやっぱり小さいスライムと何か話している人間を信じてもいい、と思った。

二体のスライムを助けた人。

ピピンは私から離れて女性のところへ行くと、もう一体のスライムに揺れて話をしている。そして女性の手に擦り寄ると上下に揺れる。

その仕草から会話は出来ていないようだけど、意思は通じているのがわかった。


「お話終わった? 瓶のコルク開けても大丈夫? このお皿に出せば……え? こっちのどんぶりの方がいいの? そっか、瓶の中が見た目より広い場合もあるからだね」


ひとつひとつを確認し合う女性とピピン。会話はピピンの揺れ方で成り立っている。


「じゃあ、開けるね。気をつけるけど、瓶から出るとき落っこちないでね」


そう言いながら瓶の蓋を開けるとそっと傾けて中の液体を流し出していく。真横になったところで自分から瓶の外に這い出した。


《 あっっ! 》


瓶の縁に手をついて身体を出したところで手がすべって落ちてしまった。咄嗟にくるであろう強い衝撃に目を閉じたものの、衝撃は何か柔らかいものだけだった。


「っっっセーフ!」


上から聞こえた、焦ったような声にそぉーっと開いた視界に見えたのは……人の指。私の身体は女性の濡れた手の上にあった。


「あ、動かないでね。リリン、そこのタオルを……ありがとう」


薄い緑色のスライムがタオルを上に載せてはねてきた。女性が手を拭くためだと思われたそのタオルは、濡れた私を載せるためのもの。女性は私の濡れた全身を柔らかいタオルで優しくくるんで拭くのを優先して、自分の手を濡らしたまま。


「え? あ、そっか。濡れた手で拭いてたら乾かないよね」


ピピンが別のタオルで女性の手の甲を拭く。それに気付いて自分の手が濡れたままだと気づいた女性が、私を包んでいるタオルをテーブルに置く。

ふわり、と優しい暖かさの風が吹く。


「どうかな? 少しは暖かくなった?」


どうやら私は顔面蒼白だったらしい。長い間ずっと液体に入っていたのと仮死状態でいたからのようだ。


《 なぜ……たすけ、た、の? 》


声が枯れる。上手く話せない。

そんな私にキョトンとした顔をした女性はすぐに人懐っこい笑顔で言い切った。


「助けたいと思ったから」


助けたいと思う気持ちに理由なんて必要いる

そう言える女性の優しさに、私は安心して身を委ねた。



目覚めた私が助けを求め、見返りもなくみんなを救ってくれた女性について行き、新たな仲間たちと賑やかで楽しい日々を過ごすのはきっと…………瓶の中で繰り返しみていたではない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

《 番外編 》私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 アーエル @marine_air

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ