第3話銭湯と双子と月

気まずい…今、謝るべきなのか?

俺は1人で悩んでいた。


「天国にも温泉があるんだね」


透き通るような綺麗な声が夜に響いた


「この世界のこと聞いたの?」

「うん、少しだけ」

「そうか…」

「…あのさ、さっきはごめん。俺チサのこと何も考えずに酷いこと言った」


俺は上手くチサの顔を見ることが出来ない。


「うん、いいよ許す!こちらこそ、森の中から助けてくれてありがとう」



チサの笑顔にドキッとした。

なんだろう、心臓が少しだけ苦しかった。



すると、銭湯に着いた。


「いらっしゃいませー!!」


奥の受付から高い声が聞こえた。

俺たちは受付の方へ向かって歩いた。


「あっ!サトルさん、いらっしゃいませ!」


受付の小柄のツインテールの女の子が俺に挨拶をしてくれた。


「サトルさん後ろのお姉さんは?」

「えっと、今日から屋敷に住むことになったチサだ」


俺はチサに視線を送った。


「チサ、こちらがここの銭湯で働いているユキだ」

「ユキちゃんよろしくね」

「チサさんいらしゃいませ。困ったことがあったらなんでも声をかけてくださいね」


俺はポケットから銀貨を2枚取り出し


「男女別でよろしく」

「はい!右手が男湯、左手が女湯になります!ごゆっくり〜」


「出たらここのロビーで待ってるから」

とチサに伝えて俺は男湯に向かった。



20分後



あ〜さっぱりした。

俺は近くにあった牛乳瓶を買って一気にごくっと飲んだ。やっぱり風呂上がりの牛乳は格別だな。

すると、しゅっと何かがこちらに向かって飛んできたから手でキャッチした。

手の中を見ると、ピンポン玉だった。

飛んできた方向を見ると1人の男の子が俺の方を見て笑っていた。


「サトルにぃ、1本勝負しようぜ」


卓球かぁ、久しぶりにしようか。

俺は立ち上がり卓球台に向かった。


「セツ、負けても泣くなよ?」

「もう泣かねえよ」

とセツがサーブを打った。飛んできた玉を少し回転をかけて返した。


勝負は先に7回点を取った方が勝ちというルール。

今、俺が6でセツが5点。

なかなか手強い。だが、絶対負けない。

おっ!ちょうどいい高さの玉が来た!俺はラケットをかたむけスマッシュを決めた。


「くっそー!!」


セツが膝から崩れた。


「セツ上手くなったな」

「そりゃあ毎日いるからな」


セツもここで働いている。ユキとは双子だ。


「じゃあ、サトルにぃ俺仕事に戻る。ばいばい!また、来て勝負しよ」


セツは男湯の方に向かって行った。


「おまたせ」


俺は声がする方を向いた。

またドキッとした。

風呂上がりのせいか、頬が火照ってて髪が若干まだ濡れててすごく色っぽい。

俺は慌てて視線をそらし


「それじゃあ帰るか」

「うん!」

出口に向かって歩いて行った。



さっき来た道を歩いて帰る。

チサは何故かずっと上を向いて歩いていた。


「どうしたのか?」

「天国ってさ、月がないんだね。星はいっぱいでキラキラしてるのに」


確かにチサの瞳の中はキラキラしていいる。


「俺さ、月見たことないんだよね。月を知らずして、先に死を知ってしまったから」

「え?」

「だから月っていうのが人から聞いた事と本で読んだことしかわからない」


俺は生まれた時から身体が弱くて、ずっと入院していたから、外に出た記憶がない。


「見てみたい?」

「うん、だってみんな口揃えて綺麗だって言うんだ」

「じゃあ、私がサトルに月を見してあげる!」


え、チサは俺を見てまた笑顔で笑っている


「どうやって?」

「それはまだ分からないけど絶対死ぬ前にサトルに月を見て欲しいってすごい思ったから」

「俺もう死んでるけど」

「そうだね、じゃあ生き返るまでに!」

「ああ」


俺も空を見上げキラキラした空を見て、もしかしたら見れるかもしれないと密かに楽しみが出来た。

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月を知らない少年は月を知る少女に出会う 緒飛 @setu222

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