第2話 天国について

俺は、軒下で座り込みずっと考えていた。

さっきの出来事、いつから傷つけてしまったのだろうか。

あの時、なんて声をかけたら正解だったのだろうか。

わからない。

「どうしたんじゃ」

「わっ!!じっちゃん…」

気配を消すことが得意な、和服姿の白髭を生やしている俺の恩人でもあり、この屋敷の総帥。

「言いたくないなら言わんでもいい」

じっちゃんは俺の横に腰をおろし手に持っていた本をゆっくり開きはじめた。俺はとても嬉しかった。ただ横に居てくれるだけでこんなにも心が落ち着くから。

「俺、さっき酷いこと言ってしまった」

「そうか、相手には謝ったのか?」

「まだ、謝ってない」

「それはいかんのう、まず自分が悪いことをしてしまったら謝ることが大事じゃ。…今ここで反省しても解決はせんぞ」

俺はその場から立ち上がって食堂へと向かった。




屋敷の食堂は広い。10人ほど座れるつくえが真ん中に置かれている。すぐ横には台所があり、今日のメニューはリンカ特性のオムライスだ。

「さぁ召し上がれ」

リンカはチサにスプーンを渡した。そして向かい側に自分も腰をおろした。

「美味しい?」

「はい、美味しいです!」

「それは良かったわ」

チサはオムライスをすくいかけたスプーンを止めてリンカに話しかけた。


「あの、さっきサトルが言っていたことは…どうゆうことなんですか?わたしが死んでいるって、よく分からないんですけど…」


リンカは少し考え込んで、チサの瞳をしっかり見つめてゆっくり口を動かし始めた


「さっきサトルが言っていたことは間違っていないわ、チサちゃんここはどこだと思う?」

「え…じゃあ、あの世ってことですか?」

「うん、ここは天国なのよ」

「天国…」

「でも、チサちゃんは私は生きてるって言ったでしょ?」

「はい、死んだって実感がないんです。でも、森で目覚めて違和感は少しありました」

「その答えはね、死んだ時の記憶がないからよ」

「死んだ時の記憶…」

「安心して、みんな記憶にないの私だってなんで死んだなんて覚えてないもの」

「リンカさんもですか?」

「ええ、そういう仕組み。死因がわかるのは生き返る時だけ」

「どのくらいで生き返るのですか?」

「それは人によるけど、普通の人なら3〜5年ほどかかるわ。でも、私達は例外なの」

「え?」

「普通の人は天国に来る時卵の姿で来るのよ。でも違ったでしょ?」

「はい、気づいたら森で倒れてました」

「私もそうだったの、そういう人は何十年後かに生まれ返ることが出来る」

「何十年…」

「まぁ、ここでもう1回生き直すって感じかな」

「リンカさんはいつ頃ここに来たのですか?」

「私は今が28だから16年前かしら」

「12歳の時ですか?!」

「そうそう、私も最初は訳わかんなくてずっと泣いてた。基本身体のまま天国にやってくるのは20歳までの子供だけなの」

「私16歳だ…」

「あら、サトルと同じ年なのね」

「そうなんですか?」

「サトルは3歳からここにいるのよ」

「え?!」

「本当よ私もびっくりしたわ。こんな小さい子が…って、だから人付き合いが苦手なのよ。ろくに教育を受けていないからね」

「じゃあ、さっきのも…」

「本人は多分悪気はなかったんだと思うけど、流石に言っていいことと悪いことがあるのはそろそろ分かってもいい歳だからね。だから簡単に許したらダメよ!でも、チサちゃんが許すなら別に構わないわ」

「あっ、はい」

「じゃあ、ご飯の続き食べましょ」

「そうですね」

チサは少し冷めたオムライスを口に運び、ここで生きていくことを密かに決意したのだった。






あれから、5分ほど俺はドアの前に立っている。

さて、行こうと手をドアに手を伸ばす。でも、引っ込めてしまう。それの繰り返しだ。

今度こそ…


ばん!


目の前のドアが全開に開いた。

しかし俺の手は何も触れていない…

前を見るとリンカさんが立っていた。

「サトル、今からチサちゃん連れて銭湯に行っておいで、今風呂が壊れてるから使えないの、いいね?」

「えっ、あっ、はい」

「チサちゃん準備出来た??」

「はい!」

さっきと違って元気な声が聞こえた。

「それじゃあ行ってらっしゃい」

とリンカさんから追い出された。

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