月を知らない少年は月を知る少女に出会う
緒飛
第1話森の中にいた少女
少年は、風を切るように森の中を走っていた。
木々はの少年の身長よりも何十倍も高く生い茂っていて、根元には黄色や赤色などのキノコがまばらに生えている。
一面緑のこの景色は、今の少年の視界から途絶えることはない。
少年が走っている地面は、この馬鹿でかい木の根の部分でいくら飛んではねても、びくともしないとても太くて頑丈な根っこだ。
耳を傾けると、
「水の流れる音がする・・・」
少年は、右側から聞こえた川の音の方へ走った。
駆け抜けている途中にシカ、リスなどの動物たちもこの森で暮らしている。
すると、流水が見えてきた。
川の流れは、穏やかで深さは、ひざくらいの浅さ。
近くに、野いちごが育っており少年は1つちぎって口の中に入れた。
「美味しい…」
そして、手をお椀の形にして水をすくい喉に流し込んだ。
少年はかるっていたリュックの中を覗きこんだ。
リュックの中には3つのダチョウの卵ぐらいの大きさの卵が入ってある。
この卵は頑丈だから簡単に割れることはない。
「あと5つか」
少年は立ち上がってまた木々の中に戻って行った。
日は暮れて緑の景色がオレンジ色に染まってきた
「あと1つはどこだ」
少年は走り回っていた。
どこを見渡しても卵が落ちていない。
目の前の生い茂っている葉に手で抑えてどけた。
すると、少年は立ちつくした。
今日いち目を見開いた。
目の前に白いワンピースを身にまとっているいる少女が倒れていたからだ。
少年は近づき息を確認しようと顔を覗かせると、倒れていた少女がパチと目を開き、勢いよく起き上がった。
◇
「…いった」
俺は、おでこを抑えた。
ごつ、とお互いのおでこが衝突したのだ。
少女もおでこを抑えてうずくまっている。
俺は少女に声をかけようとしたが
「ねぇ、ここどこ?」
先をこされた。
「ここは森の中だけど」
少女は周りを確認すると
「なんで私は森の中にいるの?」
「あなたは誰?」
すごい質問をしてくる。
俺はさっき詰んだ野いちごを手の上に出して少女の口に入れた。
「ねぇ、はふっ…」
これで少しは静かになるだろう。
俺は立ち上がって
(まずこの森からでないとだな)
だいぶ日が落ちてきている。
「俺は、サトル。あのさ、立って走れる?」
食べ終わった少女はこっち見て
「私、チサ」
と、口を開いた。すると、少女の視線が足に移った。
(あっ、裸足か)
俺は、チサに近ずいてひよいっと膝の下と背中を支えて持ち上げた。
「えっ?!」
「しっかり捕まっとけよ」
俺は森の出口に向かって走り出した。
森を出ると小さい町がある。
俺は町の門をくぐり、俺の住んでいる所まで走った。
3分ぐらい走ると目の前に少しでかい屋敷のような建物に着いた。
俺は彼女をおろし、建物のドアを開けた。
すると、
「サトル遅すぎ!」
と少し怒った声が奥から聞こえた。目の前にたっていた
声の主はリンカさん。この屋敷の管理人だ。長い茶髪は少しくせ毛で毛先がくるりとなっている。
リンカさんはこちらにすたすたとやってきて目を見開いた。そして、俺を軽蔑したような目で見てきた。
「サトル、そのかわいい美少女どこで誘拐してきたのよ」
「誘拐してない!森の中で横になって死んでいたんだよ」
俺は、チサの方を向いてリンカさんに弁解した。
「死んでないでしょ!人を勝手に殺さないでよ!」
今度は、チサが俺の発言を弁解しようとさけんでいるが、残念ながら不可能だ。
「べつに、冗談でも例え話でもない」
「え・・?」
「本当に、死んだんだよ」
チサの開いた口が少しふるえて
「どうゆこと?私、今を生きてるよね…」
と言いながら下を向き自分の手を見た。
ぱんっ!!
乾いた音が響いた。リンカさんは叩いた両手を下ろして腰に持っていった
「こら!サトル、いきなりズバズバ言ったら困惑するでしょうが!」
怒られてしまった。真実を言っただけなんだけど。
リンカさんはチサの前に近づき、そっとぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫、落ち着いて」
チサの背中をぽんぽんとゆっくり叩く。すると、チサの目から一粒の涙が頬をつたった。
俺は驚いてしまった。今ここでチサを傷つけたことに気がついたからだ。
「さぁ、ひとまずご飯にしましょう!今回の料理は自信があるのよ〜」
リンカさんはチサを連れて食卓へ向かった。
俺はしばらく動くことが出来なかった。
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