第37話 エピローグ

「えー、皆さんに新しいご学友を紹介いたします」

 担任教師のメルダが編入生を二人紹介する。


「では、自己紹介を」

「アビゲイル・メイザーです。気軽にアビーと呼んでください」


 生徒達から拍手が為される。


「シャーロット・オレアナ・トムソンです。シャルとお呼び下さい」


 次にシャルが自己紹介をする。

 拍手はまばらであった。


  ◇ ◇ ◇


 授業の後、クラスメート達はアビーの周りに集まった。特に貴族派のフーラが真っ先に。

 逆にシャルの所にはロゼとリリィが訪れた。


「すごいよね」

 ロゼがアビー達を見て言う。そこには少し呆れが混じっている。


「そりゃあ大臣の娘だもん」

 リリィが小声で答える。


「で、どう? 授業で分からなかったとこある?」

 ロゼが先程の授業でのことを聞く。


「ううん。というか魔法の授業って少ないのね。てっきり全部魔法授業かと思ったよ」


 午前は一般高校と同じ科目、午後に魔法科目の授業となっていた。


「そりゃあ、朝からずっと魔法の授業ばっかだったら魔力消費が半端なくて、午後には疲れて倒れるわよ」

「なるほど」

「それに魔法科目といっても座学が多いのよ」

「どうして実技は少ないの?」


 それにロゼはこっそり話すかのように顔を近付ける。


「マナの量や。ほとんどの生徒はマナの量が少ないのよ」

「えっ!?」


 シャルは驚き、思わず声を上げ、慌てて口を塞ぐ。


「もしかしてシャルは貴族派とか知らない?」

「貴族派?」


  ◇ ◇ ◇


「ほへー、派閥なんてあるんだ」

 シャルは箸を止めて言った。


 昼休み、テラスにてシャルとロゼ、ミリィ、アビーは昼食を取っていた。

「リネットさんから聞いてないの?」

 ロゼが不思議そうに聞く。


「うん」

「まあ、普通の生徒は派閥なんて入らないしね。で、なんでアビーはここに?」


 アビーは魔法大臣の娘。どの派閥も欲しがるはず。それが今ここでシャル達と一緒に昼食を取っている。


「私、派閥とか面倒くさいですし」

「親とか怒んないの?」


 魔法大臣となると派閥があって当然だろう。そして派閥に属する人のご息女が学院に通っていてもおかしくない。


「大丈夫よ。元々私がここに来るの反対してたんだし」

「そうなの?」

「ええ。説得させてここに来たの。だから派閥とかどうでもいいってわけなの」

「すごいですね」

 リリィが感嘆して言う。


「あら、貴女だってお姉さんの派閥に入っていないのでしょ?」

「あ、はい。でも、どうしてそのことを」

「今日半日で、あれこれと話好きな方からお聞きしましたから」

 あいつだなとロゼとリリィは当たりをつけた。

「ですので皆さん、派閥とかに入りませんので普通に宜しくお願いしますね」

『うん』


  ◇ ◇ ◇


 夕方、学校から一度帰宅したシャルは私服に着替え、スーパーに向かった。そして晩御飯の食材を購入し、今、台所で冷蔵庫に食材を詰めているところだった。そこで、


「帰ってたのか」

 と、後ろからリネットに声をかけられた。


「あっ、はい。一応、声は出したのですが……」

「いや、こっちも集中してたからな」


 シャルはスーパーで買った食材を冷蔵庫に詰め終わったところでリネットに、


「学校はどうだった?」

「特に問題はありませんでした」

「そうか」

「あっ、でも……」


 シャルは今日知った魔法授業のことや派閥、アビーについてのことを話した。


「なるほど。派閥か。そういえば言ってなかったな」

「アビーは本当に入らなくて良かったのでしょうか?」

「それは問題ないだろ。元々派閥や親繋がりを断つために魔女である私に家庭教師を頼んだんだからな」

「へ!?」

「私は魔女だからな」

「そういえば魔女って何なのですか?」

「この島にいるといずれ分かるさ」

「どういう──」


 と、そこで携帯電話の着信音が邪魔をした。


 画面を確認すると母からであった。


 出ようかどうか迷っているところで、リネットは廊下に出て行った。

 仕方ないので通話に出ると、


「学校今日からでしょ? どうだったの?」

 いきなり質問された。


「特に何も?」

「大丈夫なの?」

「大丈夫よ」


 シャルは歩き、リビングの窓際に向かう。


「ならいいけど。でも、事件からまだ間もないでしょ?」

「まあね」


 今でも外に出ると周りからの視線が刺さる。でも、事件直後に比べると格段に減った。


「ご飯はちゃんと食べてる?」

「食べてるよ」

「ちゃんと片付けてとかしてる?」

「してるってば」

「ゴミの分別とか分かってる?」

「もー。それ前に話したやつ」


 ここに着いた時に話したはず。また食事とか掃除の話をされても面倒というもの。


「私は大丈夫よ」


 窓から外を窺うと空はオレンジ色だった。


「そっちこそ大丈夫? マスコミとかさ」

「もう大丈夫よ」


 テロの件で実家の方にもマスコミが寄せて来た。


 話題が無くなり、お互い黙った。

 しばらくして、


「それじゃあ、晩御飯作らないといけないから」

「何作るの?」

「他人丼。あっ、ここでは牛とじ丼って言うんだよ」

「へえ。島の方言なの?」

「調べたら他人丼が地方の方言らしいよ」

「ここ本土よ」

「でも本土の地方でしょ?」


 本土全域が都市ではない。州や県があり、地方がある。


「失敗しないようにね」

「分かってるよ」


 通話を切り、シャルは携帯電話をポケットに入れた。

 もう一度、窓から外を窺うと空はもう夜のとばりが掛かろうとしていた。


 夜が来て、次は朝が来る。


 シャルは明日のことを考えた。


「…………」


 でも、明日のことが上手く想像できない。

 今日と同じか、それとも違うのか。

 勿論、全てが同じなわけではないだろう。

 けれど、どう違うのか。どういう明日なのかは分からない。


 シャルはかぶりを振り、そして台所に戻る。


 ──今日は他人丼。明日はどうしようかな?


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魔女と私と魔法 赤城ハル @akagi-haru

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