最終話 Ramen Walkers

「本場の博多ラーメンって食べるのは初めてよね。楽しみ♪」


 あれから、約1年と少し経った今。季節は秋。

 新幹線から外を見ると、木々が少し色づいているのが見える。


「でも、新婚旅行でもラーメンとはね。まあ、いいんだけど」


 今、僕らは、新婚旅行で福岡に向かっている。

 九州一帯のラーメンを制覇するラーメン旅行だ。

 もちろん、ごっこじゃなくて、本当の新婚旅行だ。


 あれから、相変わらず僕らは交際を重ねて。

 セシリーが18歳の誕生日に入籍したのだった。

 僕の父さんが少しだけ難色を示した他は、両家は概ね賛成。

 というわけで、高校3年生にして僕らは夫婦になった。


「本当に夫婦になるなよ。こいつら……!」

「最初から熱々だったから、仕方ないわよ」


 などと、2年のときから同じクラスだった奴は半ば諦め気味。

 親友の舞も、


「ほんっとに、幸せそうなんだから……」


 半ば呆れながらも僕たちを祝福してくれたのだった。一方、3年から同じクラスの奴の一部は、


「さすがに、高校生で結婚って、常識的にどーよ」


 と言っていたけど、気にしなければそれまでだ。常識なんて、知ったことか。


「そういえばさ、式はどうしようか」


 勢いで入籍したはいいけど、全く考えてなかった。


「Ramen Walkersの広告収入があるけど、そっちは貯蓄に回した方がいいと思うし……どうしようかしら」


 腕組みをして考え込むセシリー。


「僕としては、やっぱり、ウェディングドレス姿のセシリーを見たいかな。それに、Ramen Walkersとして稼いだ分だって、本来なら無かったと考えれば、いいって」


 結婚式というのは大変だと聞くけど、やっぱりドレス姿のセシリーを見たいという魅力には抗えない。


「そうね。私もドレス、着てみたかったし。じゃあ、この旅行から帰ったら、そっちも考えましょ?」


 相も変わらず僕たちは楽天的だ。


「うん。そうしようか。ドレス姿のセシリー、楽しみだなあ」


 小柄な彼女がウェディングドレスを着たらどうなるだろう、と考えて、ちょっとおままごと風味になるかもしれないと気づいて、噴き出しそうになった。


「む。何笑ってるの、キョウヤ?」

 

 目ざとく、僕の表情の変化に気づいたらしいセシリー。


「いや、君の背丈だと、ちょっとおままごとっぽいなって思った」

「ちっちゃい私が好きなんじゃなかったの?」


 途端、悲しそうな顔になるセシリーをみて、胸が痛くなる。


「ご、ごめん。そういうつもりじゃなくてね。言葉のあやというか……」

「冗談よ。キョウヤったら、本気にするんだから♪」


 そう、楽しそうに言う彼女。


「君が僕に意地悪をして遊ぶようになるとは思っていなかったよ」


 ああ、付き合いはじめの頃は、思う存分恥ずかしがらせるのが楽しかったのに、今は関係が逆転し始めている。


「去年、キョウヤが意地悪だった理由、ちょっとわかった気がするわ」


 恥ずかしがり屋だった彼女は、いつの間にかちょっと小悪魔になっていた。

 そんな彼女も好きだけど、少しだけ寂しい。


「んっ」


 と思っていたら、唇を押し付けられる。変な声が漏れる。


「大好きよ、キョウヤ」


 キスの後に、

 そんな掛け値なしの本音を笑顔で伝えてくる彼女。

 やられっぱなしは癪に触る。なら、


「んむっ」


 キスをし返す僕。今度は彼女の息が漏れる。

 こんなことをしているから、僕らはバカップルとか言われるんだろう。


 気がつけば、博多駅まであと数分。社内にアナウンスが流れる。


「ああ。明太子ご飯も楽しみ……!」

「その明太子ご飯推しも相変わらずだよね」


 そう。博多といえば明太子。きっと、明太子ご飯もあるだろう。

 それも、彼女が最初の目的地に博多を選んだ理由の一つ。


「あ、ちょっと思いついたわ」

「うん?」

「ラーメン旅行の様子を、Ramen Walkersで流すのはどうかしら?」


 それは、さすがに、視聴者の人もドン引きするんじゃないかな。でも……


「新婚旅行ってとこだけ伏せればいいかな」


 あっさりと彼女のアイデアに賛同する僕。こんな事もあろうかと、撮影機材も持ってきているし。


「じゃあ、Ramen Walkers特別編って事で行こうか?」

「うん!そう考えると、ますます楽しくなってきたわー」


 未知のラーメンに胸踊らせる彼女。

 そして、そんな彼女を見守るのが好きな僕。


 こうして、新たな旅が始まったのだった。

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ラーメン大好き美少女と彼女を可愛がりたい僕 久野真一 @kuno1234

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