血肉 三十と一夜の短篇第52回

白川津 中々

 ソーシャルゲームの課金による破産者が続出する事態を受け日本政府がガチャをはじめとしたゲーム内課金要素を違法とし買い切り型か完全無料型のみの販売を許可するようになって既に半世紀が経った。

 破産者自身やその親族関係者は法案の成立に喜び「これで犠牲者もいなくなる」と涙したのであったが生憎と人類は愚かであり、企業はより狡猾に、ユーザーはより魯鈍にゲームと課金要素を結びつけるのだった。


 20xx年x月x日。とある企業からとある無料アプリがリリースされた。

 これはいわゆる恋愛シミュレーション。つまりはギャルゲーと呼ばれるものであり、ゲーム内に登場するキャラクターと純異性行為。あるいは不純異性行為に至るまでの過程を楽しむ類の物であった。この手のゲームはだいたい杓子定規ではかったような、もしくは判で押したような内容であり、件のアプリにおいてもそこに違いはなくプレイヤーの評はまったく凡百なデキであったとして一致している。


 だが問題はその後である。とある企業はそのとあるアプリの続編を発売したのであったが、これは前作で番いとなったキャラクターとの生活を疑似体験(VR対応)できる買い切り型の商品だったのだ。1キャラクターにつき1タイトル。価格は1つ250円と良心的に思えなくはない。しかし、登場キャラクターは1200人と水滸伝もびっくりなスケールであり、更にアップデートで無限に増やせるという馬鹿馬鹿しいデタラメさである。全て揃えようと思うとまったく途方もなく目眩が起きそうになるのだが、生馬の目を抜くような商人根性逞しい恥知らずぶりはこれで終わりではない。このアプリはアプリ間での連動が可能になっており、特定のキャラクター同士での掛け合いやイベントが発生するようになっている。つまり、攻略キャラクターを知るためにはどうしも複数購入しなければならないのだった。

 極め付けはリアルに直結したイベントが用意されている点である。ゲーム内でとあるアイテムを入手すると電話番号が表示され、これにかけるとキャラクターと会話ができるわけだが、これはディープラーニングしたAIと人力アシストによりパーフェクトなクオリティを発揮してユーザーを盲目的に有頂天とし判断力を失わせる事が可能であった。その後は想像するに易く、とある場所に呼び出しキャラクターのコスプレをした女に金を回収させるシステムに繋げていくのである。手を繋げば1000円取られる悪徳商売と同じだ。

 そしてこの集金方法は他社にも模倣され類似サービスが乱立するようになる。二匹目、三匹目のどじょうが捕獲されるのが珍しくない業界においてこれは必然であり、またユーザーが望んだ結果でもあった。彼らは消費にすぐ飽き更なる刺激を求めるのだ。デート商法以上のエクスペリンスを欲するのは自然の理といっても差し支えはなかろう。該当のアプリは半ば風俗の予約サービスと化し、不健全なる利用が相次ぐのだった。


 かくして広まったこの新たな課金方法により日本国内では再び破産者や自殺者の数が増大。どげんかせないかんとまた禁止法案が提出されるまでに至った。順当にいけば翌年にでも規制の対象となるであろう。


 しかしこれで終わりではない。消費者ユーザーは自らの血肉かねを快楽に替える豚である。その業は計り知れず、深く暗い。いずれ形を変え、第二第三の課金サービスが現れる事であろう。


 金を切り売りするために働くというのは、なんとも非生産的で不毛である。資本主義の豚とは経営者ではなく消費者を指す言葉ではなかろうか。死ねば肉となって万人の腹を満たす豚の方が、はるかにマシなように思えるが……

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血肉 三十と一夜の短篇第52回 白川津 中々 @taka1212384

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