クズと歯車⑫




翌日になり、6人は休むことなく登校してきた。 校門で立つ川原田に軽く会釈をして、学校へと足を踏み入れていく。 皆々思うところはあったが、やはりいいように扱われたため何となく癪だったのだ。


「なぁ、華月はどう思う?」

「うーん。 俺は後者の方かなぁ。 だって前者は、何か悪いことをしている気分になるもん」


八方美人だった華月は、少しずつ自分の意見が言えるようになっていた。 本音が言える友達もできた。 話していると、男子生徒が国語のプリントを持ってくる。 

昨日ランクが下だと思って仕事を押し付けた少年だ。


「あ、あの、華月くん。 ・・・その、今回も俺が配っておこうか?」

「あ! いいよ、そんなことしなくて! いつもありがとね」

「え・・・」


昨日の今日、心境の変化があったとはいえ普通なかなか自分を変えられない。 それでも華月は八方美人だった自分を生かし、自然に笑うことができているようだ。


「おーい、華月ー」

「あ、先輩!」

「今日もどうだ? 華月にも一本やるよ」

「あー・・・。 今日は遠慮します。 先輩も、吸うなら身体に気を付けてくださいね」

「お? おう・・・」


華月は人によって態度を変えることを止めた。 もちろんそれは、今までの人間関係を壊そうとしているわけではない。 少しずつ、自分が思うようにしたいと考えていた。



嘘つきの歌災は、今まで嘘をついていたことを友達に打ち明けた。


「・・・ということで、本当の俺は何もできないどうしようもない人間なんだ! 今まで、嘘をついていてごめん」

「・・・何だぁ、よかったぁー! 歌災くん、完璧過ぎるから少し怖かったんだよ。 私たちと同じ人間でよかった」

「でも今までみんなを騙していたんだ、流石に俺のことを恨んでいるだろ?」

「別に? 歌災が完璧だから、俺はお前と友達をやっているわけじゃねぇし」


相変わらず人が周りに集まっている。 自分を偽っていたと知っても受け入れてくれたのは、元々の人柄がよかったからだろう。

結局、成績がいいとか、運動ができるとか、そういったこととは別のところに友達関係はある。 当然、批判したり不満を言う者もいたが、大半はあまり気にならなかったようだ。 

だが時々、からかわれてはいる。


「今日、柔道部の助っ人に来てくれよ! オネェ系の先輩が、寝技の練習相手を探しているからさ」

「い、いやぁ、それは遠慮しておく。 あ、でも、ピッタリな人を紹介するよ!」



浅取はまだまだ手が疼いてしまうが、それを抑えるため少し明るく振る舞うようにした結果、他のクラスの生徒と話す機会が増えた。 そのおかげで寂しさもなくなり、何とか衝動を抑えられている。


「あ、友達が呼んでいるからちょっと行ってくるね。 浅取くん、また」

「うん、またね」


浅取が教室へ戻ると、歌災が寄ってきた。


「流石。 やっぱりスペックが高いから、浅取くんはすぐに友達ができたね。 お母さんとは、どう?」

「昨日、歌災くんに言われた通りテストとか成績表を、お母さんの机の上に置いてみたんだ。 そしたらそれに気付いてくれて、初めて褒めてもらえた」

「本当!? 凄いじゃん! よかったね。 また何かあったら、俺に相談して」

「うん、ありがとう」


浅取と歌災は仲よくなった。 お互いのことを知る友達になれたのだ。



延力は、体育係であるため記録表を預かっていた。 次の体育は体力テストだから、係の人がみんなの記録を記す必要がある。


「・・・あー、面倒だけどやるか」

「え? いつもみたいに、適当にやって誤魔化したりはしないの?」

「まぁ、たまには真面目にやってもいいと思ってな」

「うわー。 何か延力らしくねぇけど、俺も手伝うよ」

「ありがとな」

「延力ー。 歌災から、延力を紹介されたんだけど」

「歌災から?」

「そうそう。 今日、柔道部の助っ人に来てくんない? 無理なら無理だと言ってくれ、強制はしない。 ただ延力は力が強いから、いい助っ人になるって言われて」

「ふッ、いいぜ。 ようやく俺の実力に気付いたか!」


柔道部の助っ人は、オネェ系の先輩の寝技の練習だったはずだが、延力におはちが回ってきた。 もっとも延力なら、それも上手くこなすだろう。 彼の自己中心的な性格は控え目になった。 

口より早かった手も、出さないよう自制している。




悪沢はいつも悪口を共に言う仲間と、別れようとしていた。


「はぁ!? 悪沢、どうしたんだよ! 急に俺たちと縁を切るって」

「・・・いや、悪口ばかり言っている生活に飽きたんだよ。 それだけだ」

「じゃあ、またいつか戻ってきてくれるのか?」

「どうだろうな、戻らないかも。 お前たちも悪口を言うのを止めたら、また俺と一緒に絡もうぜ」


悪沢は他の生徒のもとへと向かう。 その男子生徒は、雑誌を広げ見ていた。


「お、悪沢いいところに! お前はさ、どっちのファッションの方が女子にウケると思う?」

「・・・え、えっと、こっち?」

「おぉ、これはまた斬新というか、奇抜だな。 どうしてだ?」

「・・・変わっているところが、魅力的、だからかな」

「へぇー。 悪沢、面白い思考してんね! 嫌いじゃないわー」


悪沢は悪口を言わなくなった。 ゆっくりだが、自分の思いを伝えるよう努力していた。 信頼できる友達もできた。




そして、残った軽崎はというと――――


「軽崎くーん! 今日も、誰かの新しい噂とかないのー?」

「噂・・・。 あぁ! じゃあ、これ知ってる? 隣のクラスの高坂さんが、二つ上の先輩と付き合ったっていう!」

「え、何それ詳しく!」


悪い噂や秘密を人に言わなくなった。 6人の生徒を陰で見ていた担任は思う。


―――まさかここまでよくなるとはな。

―――これも軽崎の、口が軽いおかげか。

―――流石に軽崎までも改心するとは思わなかったが・・・。

―――6人まとめて更生できたなら、それでいいか。


クズたちと川原田に思われていた6人は、昨日を境にして更生することができたのだ。





                                                                      -END-



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クズと歯車 ゆーり。 @koigokoro

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