人は相手の欠けている部分に惹かれ、互いの欠けているところを埋めるように結ばれる、などと言われますが、では、欠けている部分がない二人は結ばれるのか? という命題(?)に挑戦している作品だと思います。
国の将来を担う敏腕伯爵と、彼の要求を先回りして完璧な対応を見せる侍女(まず、こういう「完璧」な人物を描写できる作者様の腕に脱帽です)。まさに二人は欠けている部分がありません。
二人が唯一欠けている部分が「口下手」、ということなのですが、「口下手」かどうかも怪しいです。お二人の会話には、互いを気遣う優しい気持ちにあふれていています。確かに、気持ちを伝えられない二人なのですが、お互いに最大の敬意を払っていることがわかります。それが短いエピソード内に立体的に構成されているのは見事というしかありません。
読む上でのポイントは、最終話を読んだら、必ず第4話に戻って確認してください。最終話で交わされた質問には、第4話で投げかけられた質問から「欠けている」部分があります。欠けている質問とその答えは、読者に想像させるようにできています。ここが最大の胸キュンポイントだと言ってよいでしょう。