第5話

「先生……あの、先生」

 肩をがくがくと揺らされる。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「う、うん」

「あの、風邪ひくから……その、寝るなら布団で……」

 目を開けるとツインテールがゆらゆらと揺れているのが見えた。ああ、そうだった。今この部屋にいるのは。

「こんな時間か。月子さんも寝ないと」

「はい。あ、でももう少し勉強します」

「ほどほどにね」

 長い夢を見ていたようだ。不安だった日々。

 明日から月子さんは三段リーグを戦う。女性として初めてだったが、僕としては自分の弟子として初めてでもある。

 月子さんがロフトに上がっていくのを見届けると、僕は本棚へと目を移した。表には将棋の本が並んでいるが、その奥には漫画本が並んでいる。僕はプロになって、あの箱を開けたのだ。

 もう一度あの箱を開けたら、もう少し頑張れるだろうか。あと、今でもバスケットでゴールはできるだろうか。

 幸いにも弟子の方は、もっともっと上を目指せる器だ。そして彼女は今、自分のために戦っている。

 再び僕はロフトを見上げて、そして、笑顔でいられる。月子さんも心から笑顔でいられる日が来れば。それが今の、僕の願いだった。

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二割ちょっと 清水らくは @shimizurakuha

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