勇者のオレ様がはじまりの村で村八分に遭っているんだが。

高田カゲツ

第1話 勇者のオレ様ははじまりの村へ帰る Part 1

 勇者のオレ様、ジークフリートははじまりの村への帰路にいる。

 オレ様はこの世界を支配していた魔王ルートヴィヒを倒した勇者様なのだ。

 ドルトムント王国に住む二人の農民を両親に持つオレはあまりにも退屈な日々に辟易していた。親は二人とも平々凡々で大した魔力も持たない農民でやることは毎日畑を耕して時々町の酒場へ農民仲間とともに飲みに行くくらい。このままオレの人生も馬鹿みたいにフツーになってしまうのか?そう疑問を持っていた時にオレが住んでいた村にある知らせが届いた。


 「おい!!王家のオリーヴィア姫が魔王ルートヴィヒに誘拐されたってよ!!」

 「マジかよ!!あのお美しくて慈悲深いオリーヴィア姫が?!クソッ!魔王め、許せねぇよ!」

 

 ふーーーーーーーーーーーーーん?で?この王国の姫が誘拐されたところでオレのこのふっつーな生活はなーんにも変わることはないんだが?正直王家とか住む世界が違いすぎてどうでもいいんだよな。

 まあ確かにあの魔王に誘拐されるのはかわいそうかもしれない。魔王ルートヴィヒは強大な魔力を持ちながらもその力を民のために使うことなくモンスターたちを脅して自分の手下として統制し時には誘拐や殺人をも犯す冷酷無慈悲な男だと言われており、そんな犯罪を犯しても国の警察が手を出せない完全犯罪を遂行している。そんな噂からつけられたあだ名は「魔王」。このドルトムント王国に住む人間ならばみんな彼の存在を知っている。


 ルートヴィヒに連れ去られたが最後、王国軍を使ってもオリーヴィア姫を奪還することは難しいだろう。


 ちょっと待てよ?もしオレが魔王を倒して姫を助けてその恩を利用すればもしかしてこの国の王家にオリーヴィア姫の婿として入れるんじゃね?


 という野望に行き着いたオレは勇者になることにした。


 数々のモンスターたちを撃破して経験値を積み、村人たちのクエストに応えて報酬をもらいながら少しずつお金を集めて武器の購入費用を積み立ていった。時には村人の家にこっそり入って使えそうなものを拝借したりしながらルートヴィヒを倒すためあらゆる手段を利用した。

 そしてオレ様は数々の困難を乗り越えてとうとう魔王ルートヴィヒを倒し、オリーヴィア姫とともにはじまりの村へ帰還。すると勇者の凱旋を祝う多くの村人の祝福を受け、そこでオリーヴィア姫へプロポーズ。姫は涙を流してそれを受け入れてドルトムント王国を挙げての盛大な結婚式。すべてはハッピーエンド。もしオレ様を主人公にした映画ができるならばここでスタッフロールが流れて映画は終わり。


 のはずだった。


 オレ様の隣にいるオリーヴィア姫は魔王の束縛から解放されて喜びの笑みをたたえるどころか悲しそうに幌馬車の中から外をのぞいていた。


 いやいやおかしいだろ?このオレ様が魔王からお前を助けてやったんだぞ?そして今お前といるのはかの有名な勇者、ジークフリート様だぞ?!どうして愛想笑いやお礼の一つもせずに図々しくオレ様と一緒にいられるんだよ?


 その心の声を飲み込んで

 「姫、どうかなさいましたか?ご気分が優れないようですが。はじまりの村までまだ距離がございます。一旦お休みになられますか?」

 そんな優しいオレ様の気遣いにも応えずただただ首を横に振るだけ。

 「左様でございますか。では、明日の朝までには到着できると思いますのでもう少しのご辛抱のほどよろしくお願いしますね。」

 思わず舌打ちをしそうになりながらも唇をきつく噛んで馬を早めた。

 

 日が昇り始める頃、ようやくオレ様たちははじまりの村へ到着した。

 「皆の衆、オレ様はこの手で魔王ルートヴィヒを倒し、オリーヴィア姫を救った勇者、ジークフリートである!」とルートヴィヒの頸を掲げて高らかに宣言した。

 村中がざわつきはじめる。当然だ、勇者の凱旋なんだからな。


 ビチャッ。何か硬いものがオレ様の肩に当たってその中身が服にべっとりと付いた。クソッ、この衣装高かったのに、と思いながら見てみるとそれは卵だった。


 「は?」

 思わず間抜けな声が出る。それからふつふつと怒りが沸いてくる。

 「誰だ?!このオレ様に卵を投げたのは!!出てこい!!」


 「誰がお前を勇者だと思うんだ。こっちはお前がルートヴィヒを倒したせいでさんざんな目に遭ってるんだよ!ふざけたことぬかしてるんじゃねーぞ!!」


 見渡せば、村人たちの目は祝福の温かい眼差しではなく軽蔑を含んだ冷たい視線が向けられていた。


 

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勇者のオレ様がはじまりの村で村八分に遭っているんだが。 高田カゲツ @kagetsu______moon

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